第20話「愛に潜む真実」

まなみが去ってから、私は日々をやり過ごしていた。彼女のいない世界は想像以上に冷たく、空虚だった。


時が経つにつれて、その痛みも薄れていくのかと信じたかったが、記憶が鮮やかに甦る瞬間がふいに訪れるたび、胸が締め付けられた。


そんなある夜、ふと片付けをしていたとき、クローゼットの奥に置かれていた小さな箱が目に留まった。


まなみがいなくなってから一度も開けていなかった箱。


開けてみると、中にはまなみが残していった一冊の小さなノートが入っていた。


表紙は少し擦り切れ、「リカさんと私」と手書きの文字が見えた瞬間、胸が鋭く痛んだ。


あの日、彼女が去った後、私がなぜかそのまま仕舞い込んでしまったものだった。


ノートを手に取ると、まるで彼女の存在が手の中に戻ってきたかのような感覚が広がり、私は胸を抑えたまま静かにページを開いた。


ノートの最初のページには、小さな文字で


「リカさんとの思い出」


と書かれていた。


ページをめくると、そこには彼女が記した一つひとつの思い出が、まるで私たちの時間を繋ぎ留めるかのように綴られていた。


「リカさんに救われた夜、初めて温かい人に会えた気がしました」


彼女のその言葉が目に入った瞬間、記憶が鮮明に蘇った。


初めてまなみと会った夜のこと、彼女の小さな手を握ったときの温もり。その一瞬一瞬が、胸の奥で息を吹き返していくようだった。


ページをめくるごとに、無邪気に笑い合った夜や、ふとした瞬間に交わした言葉が彼女の文字で丁寧に記されていた。


まなみは、一緒に食べたご飯のことも、冗談を言い合った夜のことも、まるで宝物を並べるように細やかに書き残していた。


それは、誰にも知られることのない小さな愛の証であり、まなみが私との日々をどれだけ大切に思っていたのかを物語っていた。


やがて、ノートの最後のページに辿り着いた。


そこには、まなみの言葉がこう綴られていた。


「リカさん、私はいつかリカさんの負担になるんじゃないかと怖いです。でも、それでも私はリカさんが大好きです。リカさんといると、私も誰かに必要とされている気がして、ここにいていいんだと思えるんです。ありがとう、リカさん」


その言葉を見た瞬間、堪えていた涙が一気に溢れ出した。


私がどれほど彼女を大切に思っていたか、どれほど彼女を必要としていたか。


まなみもまた、私を支え、愛してくれていた。


その気持ちに私は気づきながらも、最後まで伝えることができなかった。


その喪失が胸に押し寄せ、涙が止まらなかった。


まなみは私にとって、ただの通り過ぎた出会いではなく、心の奥深くに刻まれる存在だった。


私たちの関係は「不純」であり、誰にも理解されないものだったかもしれない。


しかし、このノートに記された彼女の言葉が、私にとって何よりも純粋で真実の愛であることを、この瞬間に初めて理解した。


禁じられたものであったからこそ、私たちは本当に自由に、そして心の底からお互いを求め合えたのだ。


ノートを胸に抱きしめ、私はその場に崩れ落ち、静かに泣いた。


まなみがこのノートに綴ってくれた一言一言が、私の中で消えない光となり、これからも生き続けると感じた。


どんなに月日が流れても、この「不純」な愛こそが、私にとっての真実の愛であり、永遠に消えることのない純愛だった。


「ありがとう、まなみ」


ノートをそっと閉じ、私は彼女との日々を抱きしめるように、静かに涙を流した。

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