漫才『コンビニ』二人用

AB:はい、どーも!


A:お前さ、一人暮らしのくせに2DKの部屋に住んでるよな。


B:まあ、家賃が安かったし、物置代わりの部屋が欲しかったからね。(お客さんに向かって)一応、説明しときますと、玄関から上がってすぐにダイニングキッチンがあって、その隣に洋室があって、その奥に和室があるんですよ。


A:でもさ、いくら家賃が安くても、コンビニまで徒歩10分かかるのは、どうかと思うよ? 徒歩5分圏内にコンビニがないアパートは家賃を払う必要がないって法律があるんだから。


B:聞いたことねえよそんな法律。たしかにコンビニまでちょっと遠いけど、逆に良い運動になるし、静かで住みやすいアパートだよ。大家さんも優しいしさ。


A:それにお前、アパートに帰っても奥の和室で寝るだけで、手前の洋室を全然使ってないじゃん。


B:まあ、なんやかんや忙しくて趣味の道具を買う時間も取れてないからね。


A:彼女もペットも友達も有名なご先祖様も居ないお前が1部屋あまらせてるのは勿体ないと思わない?


B:微塵みじんたりとも思わねえよ? 有名な先祖が居たら1部屋あまらせてもいいシステムだって聞いたことねえし。


A:だからさ、お前の使ってない洋室の活用方法を考えてきたから、ちょっと聞いてほしいんだけど。


B:活用方法? まあ、ただの物置みたいになってたから、ちょうどいいや。詳しく聞かせてくれよ。


A:……まず、お前ん家の洋室を、コンビニに改装します。


B:……ほう。


A:お前のアパートはコンビニが遠すぎるから、俺達がネタ合わせするときも最初に買い出ししておかないといけなかったり、なにかと不便だったじゃん?


B:まあ、確かにな?


A:で、コンビニが遠いってことは、周辺に住んでる人も不便さを感じてるのは明らかでしょ。


B:そうだな。


A:だからお前ん家の洋室をコンビニにするべきだって事。わかる?


B:ごめん、ずっとなに言ってるか分かんない。強めにグーで殴っていい?


A:ちなみに大家さんと鈴木さんの了承は既に貰ってるから。


B:誰だよ鈴木さんって。


A:お前ん家の洋室にできるコンビニの店長さん。


B:は?


A:55歳の男の人だけど、元気が良いから採用した! ……前の会社をリストラされて、めちゃくちゃ困ってたって言ってたんだよね。


B:いや、そうじゃなくて、ちょっと待って。うちに住むの? そのおっさんが。


A:(数拍の間をとる)……駄目だよ? 鈴木さんには奥さんがいるんだから。


B:誰もおっさんの貞操ていそうなんか狙ってねえよ? 仮に何かが起きるとしたらそれは殴り合いだ。鈴木さんとの。おっさんと一緒に四六時中しろくじちゅう、生活したくないって事だよ。


A:なるほどね。でもさすがに鈴木さんはかよいだから安心して。お前の生活に支障は出ないし、弁当とか給料とかも、お前が気にしなくていいから大丈夫だよ。


B:ぜんぜん大丈夫じゃねえよ? 夜中トイレ行くたびに鈴木さんと顔を合わすのは相当気まずいだろ。


A:大丈夫。鈴木さんが入れないときは大家さんがシフト代わるから。


B:そういう話じゃねえからな? 大家さんだったとしても気まずいだろ。そもそも俺が金を払って住んでる部屋なのに、プライバシーもなくて、人に気を使わなきゃいけなくなるのは嫌だって話だよ。……それに鈴木さんなんか雇っても、買い物する人が居ねえだろ。人件費どうするんだよ。


A:そこは大丈夫。ちゃんとベランダに繋がってる窓は自動ドアにしておいたから。


B:ぜんぜん大丈夫じゃねえよ? たった今、我が家のセキュリティに重大な欠陥が見つかったから。


A:でも、ちゃんと監視カメラは付いてるから防犯面は完璧だよ?


B:めちゃくちゃ嫌なんだけど!? 自室に監視カメラと自動ドアがついてんの! ……それに第一、そんなわいわいガヤガヤとされちゃったら、俺が全く休めなくなるだろ。


A:その時はネカフェかホテルにでも避難すればいいじゃん。


B:(キレながら)なんで部屋主が避難する必要があるんかなあ!? 「コンビニエンス」は「便利」って意味のはずなのになあ!?


A:でもさ、悪い話ばかりじゃないんだよ。


B:これが悪い話だっていう自覚はあるんだな。


A:まず、商品の仕入れや人件費は大家さんが負担するわけだけど、もし利益が出たときには、お前にもその分配があるんだよ。


B:さすがにそれくらいの旨味がないと困るからな。


A:本部の人と話し合って、周辺地域のデータから計算したんだけど、お前に対する分配がだいたい月3万円くらいにはなるっぽいよ。


B:……へえ。


A:それに、迷惑がかかるからって、大家さんが家賃も無しにしてくれるみたいだし、電気代も水道代も大家さんが負担してくれるって。


B:それって、俺が住んでる意味あんのか?


A:さらに! サンデーを毎週、一番最初に買える。


B:……悪くねえな。


A:じゃあ、交渉成立だね。これで晴れて「あなたとコンビに」って事だね。


B:ファミマだったんだ。


A:ちなみに、分け前の話に戻るけどさ、交渉次第では、もう少し貰える可能性もあるよ。


B:マジ?


A:割合はけっこうザックリと決めただけだから、これからの話し合い次第でなんとでもなりそうなんだよね。


B:えっ、俺は何割くらい貰えるの?


A:今んところ、利益の7割が大家さんで、俺が2割、お前が1割!


B:(大声で)てめえと今すぐ交渉してやろうか!? 拳で! ――なんでお前の取り分があって、しかも俺より多いんだよ! こっちはベランダの自動ドアから近所の奴らがわんさか入ってきて、四六時中、知らねえおっさんと生活しねえといけねえのによ! こんな計画、白紙だ! 白紙!


A:そんなことしたら鈴木さんが可哀想だろ! 家族との生活もあるのに!


B:こっちは平穏な生活が奪われようとしてるんだよ! とにかく、俺の部屋をコンビニにするのはもう諦めてくれ。大家さんにも、鈴木さんにも一緒に謝りに行くから。


A:分かった。勝手に話を進めて悪かったよ。


B:ちゃんと相談しようぜ? 俺とお前はコンビなんだから。


A:そうだよな。あと、お前ダイニングキッチンあんまり使ってないから、サイゼリアにしようと思ってたんだけど、こっちはどうする?


B:(大声で)…………引っ越します!


AB:どうも、ありがとうございました!

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