漫才『寿司トーク』二人用

AB:はい、どーも!


A:ところでさ、寿司って最高だよな。


B:まあ、手軽に食べられる上に美味しいからね。


A:くら、かっぱ、はま、ロー、見かけたらすぐに入っちゃうからさ。


B:ただでさえ短い店名を平然と略すんじゃないよ。ローってなんだよ、ローって。きちんと寿司をつけなさい、寿司を!


A:とにかくね、僕はそれくらい寿司が好きってことなんだよ。――(お客さんに向かって)皆さん、お寿司ってご存知ですか? 酢飯に刺身なんかのネタを乗っけた料理なんですけどね。


B:いやいや、わざわざ説明しなくてもいいよ。日本に住んでいたら勝手にインプットされてるんだから。寿司から逃れられないんだよ、この国は。


A:それでさ、朝6時くらいだったかな、くら寿司の開店待ちしている時に思ったんだけどさ。


B:だいたい回転寿司屋は昼前に開くんだよ。アプリで予約してから行けよ。新型 i Phoneアイフォン の発売日じゃねえんだから。で、何を思いついちゃったの。


A:僕ね、寿司ネタだけで会話ができる気がする。


B:ちょっと言ってる意味が分かんない。


A:だから、僕はお前に何を言われても、寿司ネタだけを使って返事をするから、お前は普通にトークをしていて欲しいの。


B:なるほどね。俺のフリに対して寿司ネタだけで返すってことね。ちょっと面白そうじゃん。……でも本当にできるの?


A:大丈夫! 僕、こう見えてもジョイフルで3年くらいバイトしてたから。


B:あそこ、寿司 置いてねえんだよ。せめて鮮魚を扱ってるところで修行してこいよ。


A:とりあえず、最初からやり直そうか。


B:わかった。出てくるところからね。


A:そう。僕がお母さんのお腹から出てきたら、一緒に元気よく叫んで。


B:ループ系作品の出だしじゃねえんだから。誰が舞台の上でコンビで一緒にオギャア、オギャアって叫ぶのを観て楽しむんだよ。……さっさと始めるぞ。


AB:はい、どーも!


B:まあ、こんな感じで漫才やらしてもらってるんですけども、そういえばお前って、彼女がいるんだっけ。


A:(縦に首をふる)うに。


B:「うん」みたいなノリで雲丹うにを使うなよ。……いきなりこんなので大丈夫なの?


A:大丈夫、大丈夫。気を取り直して続けてよ。


B:今までお前から、彼女さんのこと紹介してもらってなかったから、どんな人なのか、教えてほしいんだけどさ。ザックリ言うとどんな感じなの? かわいい系とか、清楚系とか。


A:ん~。……サバサバ。


B:ああ、サバね。サバサバ。やるじゃん。じゃあ結構、お前に対してハッキリとものを言ってくるタイプだったりするのかな。


A:まーじ、サバサバ。


B:アジね。サバサバ感をめっちゃ強調してきたね。そんなにサバサバなんだ、お前の彼女。


A:さより、まーじサバサバ。


B:なるほどね。サヨリさんって言うんだ。サバサバなのは、もう分かったから。


A:鈴木さより。


B:フルネームを急に公開しないであげて。可哀想だから。……ところで、サヨリさんのどんなところが気に入ったの? 見た目とか、性格とか、いろいろあるじゃない。


A:…………味?


B:食べちゃった。アジね。鯵なのは分かるけど、自分の彼女さんを食べたら駄目でしょ。怖いから。


A:(Bを指さして)食え。


B:いやいや、勧めないで。怖いから。垢穢クエね。九州ではアラって呼ばれてるあの高級魚の。


A:食え。さより、食え! 食え!


B:怖い怖い怖い! 目がバキバキになってるから! どんだけ相方に彼女さんを食わせたいんだよ。とりあえず、サバサバしてて、美味しいのは分かったからさ、――よく分かんねえけど! それより見た目、そう、見た目を教えてよ。ざっくりでいいから。


A:…………ガリガリ。


B:言い方! それにガリって、もう寿司ネタじゃないじゃん。……せめてもう少し、女性に気を遣った言い方をしてあげないと。さよりさん泣いちゃうよ? ほかに、特徴とかはあるの?


A:ぐろ


B:まっぐろ? ……ああ、マグロ! くろってことね。


A:うに!


B:じゃあサバサバ系で、細身で、外によく出るから日に焼けてるってことで良いのかな?


A:うに。さよりぐろ、ガリガリ、まーじサバサバ。


B:なんかもう、悪口を言ってるみたいになってるじゃん。……そういえばさ、もう付き合って5年くらいなんだっけ?


A:まあだいたい。


B:真鯛、タイね。5年も付き合ってると、もう大体のイベントはやり尽くしたんじゃない? まだ、やってないこととかあるの?


A:キス。


B:え!? 5年も付き合ってて、まだなんだ!?


A:まだ良い。


B:めちゃくちゃプラトニックじゃん。


A:まーじ、サバサバ。


B:サバサバかどうかは関係ないよね!? ちょっと不満そうに言うんじゃないよ! でもさ、5年も付き合ってると、記念日とかクリスマスのプレゼントも、もう出し尽くしちゃったんじゃないの?


A:うに。


B:やっぱりそうだよね。ちなみに、去年のクリスマスはプレゼント交換とかしたの?


A:うにうに!


B:お、それでもちゃんと、やってるんだ。凄いじゃん! ちなみに、お前はなにを貰ったの?


A:まぐたっく。


B:マグカップね。まぐたくをマグカップみたいに使うじゃん。


A:まぐたっく、ぐろ


B:なるほどね。黒いマグカップを貰ったのね。それで、お返しにお前は何を贈ったの?


A:とびっこ。


B:生々しいからやめろ! ……急に下ネタをぶち込んでくるじゃん。クリスマスに渡すもんじゃねえだろアレは。


A:(無言でニヤニヤする)


B:無言でニヤニヤするな! 俺がなんか変なこと言っちゃったみたいになるだろ!(お客さんに向かって)ちなみにね、トビウオの卵のことですからね。ぷちぷちして美味しいやつ。他になーんの意味も無いですから!


A:さより、トロっトロ。


B:いや、酒の席のしょうもないおっさんみたいな言い回し! まだキスまでしか行ってないカップルが、なんてもん交換してんだよまったく。


A:(自分を指差して)たちうお、コチコチ。


B:なに言ってんだよ。さっきから、ひっでえ下ネタばっか聞かせやがって。ぜんぜんトークが成立してないじゃねえか。


A:けっこう行けると思ったんだけどな。意外と難しいもんだね。


B:さすがに、寿司ネタだけで会話するのは無理があるよ。


A:じゃあせめて最後に、寿司ネタを詰め込んだ短歌を詠むから、聞いてくれよ。


B:本当にそんなの出来るの?


A:まかせて。ジョイフルで3年くらいバイトしてたから。


B:ジョイフルは寿司も短歌も置いてねえんだよ。


A:トロけた目 キスをしてよと 言わしイワシたい いくらイクラ待てども 君は言わなイワナい。


B:……(数拍、黙る)。


A:どう? いい感じだったでしょ。


B:……いや、上手いけどさ、ここで綺麗にまとめるのは如何いかがなもんかと。


A:イカだけに?


B:いや、やかましいわ! もういいよ!


AB:どうも、ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る