(フリー台本)ゆる劇
あああああ
コント『牛丼屋』二人用
設定:A=店員(ボケ)、B=客(ツッコミ)
――
A:いらっしゃいませ。
B:……。
A:一名様でしょうか?
B:……はい。
A:それでは、そちらのカウンター席へお掛けください。
B:……。(椅子に座る)
A:メニューはこちらでございます。ご注文がお決まりでしたら、こちらのベルを鳴らしてください。
B:……はい。
A:ちなみに
B:……はあ。
A:本日のオススメの説明をさせて頂いてもよろし……。
B:……いらねえよ! ここ牛丼屋だろ! 何が担当と本日のオススメだ! 聞いたことねえよ! そういうのいいから、牛丼並ね。
A:かしこまりました。フュージョン
B:言ってねえよ。下手なラッパーが無理やり踏んだ韻みてえになってんぞ。ドラゴンボールじゃねえんだからさ。それになんだよフュージョン蟹って。合体すんのか? 蟹と牛丼が。
A:いえ、蟹と蟹です。
B:じゃあ蟹だよそれ。……ったく、いいから早く牛丼もってこい。
A:お客様。追加料金 百円でドリンクサラダセットもございますが、
B:あー、ドリンクとサラダか。どんなのがあるの?
A:ドリンクですが、七十年物のロマネ・コンティがございます。
B:え? ロマネ・コンティ? あの高級ワインの? この店に?
A:はい、正真正銘のロマネ・コンティでございます。
B:車で来てなきゃ絶対頼んでたのにな。うわあ、惜しいことした。なんでそんなもん置いてんの?
A:当店がオープンした年に購入したものでして……。
B:めっちゃ
A:コーラの七十年物がございます。
B:いますぐそれ捨てろ! 毒だよそれ。毒。……飲み物は普通のコーラでいいや。今年のやつな。サラダは何があんの?
A:サラダは、季節の野菜サラダがおすすめでございます。
B:へえ、なんか
A:ヨモギとたんぽぽ、つくしにドクダミが入っております。
B:お前そのへんで採ってきただろ。道端とか、土手にあるやつ!
B:……ドリンクサラダセットはもういいから、とりあえず牛丼並、早くしてくれ。
A:かしこまりました。牛丼並ですね。……いいでしょう。明日またお集まり頂いた時、皆さんに「本物の牛丼」を食べさせてあげますよ。
B:グルメ漫画じゃねえんだからさっさと持って来い。俺、こう見えて忙しいんだよ。
A:はいオーダー入りまぁす!
B:うわっ、びっくりした。急に大声出すなよ。ったく、インカムでやれインカムで。
A:ハイヨー!
B:ワンオペじゃねえか。早く厨房行けよ。
B:それにしても、なんだこの店は。普通の牛丼屋だと思って入ったのによ。なんか時間無駄にしちまったな。ああ、でも車で来なきゃロマネ・コンティ飲めたんか。
A:お待たせ致しました。牛丼並でございます。
B:おう、最初からそのスピード感で良いんだよ。それじゃ、いただきま――。
B:っておい、これ何だよ!
A:どうされましたか?
B:どうもこうもねえよ! これを見ろよ! 虫! 虫が入ってんじゃねえか!
A:いえいえ、お客様。こちらは当店からのサービスでございます。
B:要らねえよそんなサービス! お前、こんな虫の入った牛丼食えんのかよ!
A:虫は本来、砂漠やジャングルで遭難した時の貴重なタンパク源で……。
B:ここは日本だしタンパク質は牛肉で足りてんだよ! さっさと作り直せ! 虫抜きで!
A:虫だけに、無視できないってことですかね。
B:つまんねえんだよ。なんも上手いこと言えてねえし。
A:牛丼チェーンだけに?
B:なぞかけ覚えたての中学生みたいなノリすんな。さっさと作り直してこい。
A:かしこまりました。お詫びと言ってはなんですが、今回はお代は結構ですので。
B:お、判ってんじゃねえか。……まあコッチもいろいろ言い過ぎたかも知れねえけどさ、ちゃんと出してくれたら文句いわねえよ。
A:それでは、用意してまいります。
B:変な店だけど、なんやかんや店員は素直だし、変なメニューも注文しなけりゃ悪い店じゃなさそうなんだよな。虫は勘弁だけど。
A:お待たせ致しました。先程は大変失礼致しました。……実は、当店はオーナーが自然食の普及と環境保護の観点から昆虫食を広めようとしておりまして……。
B:ああ、なるほどね。そういう背景があったのね。よくわかんねえけど。――いいよいいよ、ちゃんと普通のやつ作ってくれるんならさ。……美味しかったらまた来るから、気にするなよ。すまなかったな。
A:それではこちら、七十年物の牛丼です。
B:二度と来るかこんな店!
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