転生凡人は平穏に暮らしたい〜ぼっち学生、実は単独で世界を相手に無双した転生者でした〜
赤雑魚
第1話
流星が見えた。
星を散りばめた漆黒のキャンバス。
真夜中の世界を斬り裂くかのように、輝く星が尾を残して地へと墜ちていく。
ゆっくりと大きさを増しながら、流れていく星。
その光景を美しいと、少年は思う。
その墜ち行く星が、俺自身に向かってさえいなければだが。
『
_______隕石が突っ込んで来た。
『「
「おおぉぉぉおおおおおおお!?」
スマホの言葉に耳を傾けながら、少年は全速力でダッシュする。
転生特典で強化された身体能力を存分に生かし、超スピードで逃げているが、隕石がだんだん距離を詰めてきている。
しかも、よく見れば少年に合わせて軌道修正されている。
回避は不可能。
『受け身を取ることを推奨します。隕石の直撃まで3・2・1_______』
「アッ、死______」
星の一撃が、炸裂した。
_______閃光、轟音。
街一つ吹き飛ばせる威力の流星が、転生者へと撃ち込まれる。
衝撃と熱による爆発によって生み出されたキノコ雲を見て、金髪の少女魔術師が崖の上で膝をつく。
「はぁ、はぁ.........! やった.........!?」
12歳という最年少で占星術を修め、最高峰の予知技能である『先視』の領域にまで辿り着いた、稀代の星図術師の少女。
名をソフィア アステリアと言う。
彼女が撃ったのは、圧倒的な質量に加え、内包された魔術的な熱と呪いをまき散らす凶悪極まる戦略魔術。単純な威力の他に、数十年は呪縛が満ちる死の大地と化す大禁呪。
占星術による『先視』で行動を予測し、行動範囲を限定するための大禁呪『
あまりにも過剰な魔術攻撃に少女の精神は消耗していた。
魔術杖を支えにして立ち上がり、爆心地を覗き込む。
かつては動植物が豊かだった森は、もはや跡形もない。
数十日にわたる大規模な戦闘と、何よりソフィアの大禁呪で完全に消滅していた。もはやあの頃の自然が戻ることはないだろう。
「でも、これで。やっと戦いは終わるよね.........?」
「ほんと終わってほしいよな、マジで」
「え______?」
ソフィアが振り返る前に、背後からトンと軽い衝撃が走る。
体中の力が抜け、意識が遠のいていく。
暗くなる視界の中で最後に見たのは、流星が直撃したはずの少年の姿だった。
◆◆◆
「やっと一息つける.........」
気絶させた魔術師の少女を見て、ドカリと地面に座り込む。
ここ数日の間、絶え間ない攻撃にさらされ続けていたのだ。転生特典で不眠不休で活動できるとはいえ、流石に休憩ぐらいは欲しい。
懐のスマホが電子音で話し出す。
『作戦が成功したようで何よりです』
「あれは、作戦っていえるのか.........?」
確かに、あの隕石魔術に直撃し、爆風に乗って空へと打ち上げられ、高所から見渡して、少女を発見したので撃破。スペックに任せた行き当たりばったりを作戦と呼んでいいのだろうか。
『常夜国家の
「これでようやく休めるな.........」
魔術とかいう超常技術によって乱射される極太ビームと流星の隙間を駆け抜け、大地を割るような拳や魔剣を掻い潜り、敵軍のど真ん中に一人で飛び込むとかいう、いまどき漫画の主人公ですらしないマネを実行してようやく得た休息だ。
度重なる攻撃でボロボロの学生服の上着を脱ぎ捨てる。
あと気絶している少女の懐を漁る。
別にやましい気持ちは一切ない。
「あったあった」
欲しかったのは携帯食料と水筒。
代わりにもならないが、まだ無事だった財布から数枚の貨幣を少女の懐に戻しておく。
動きの邪魔にならない必要最低限の量のそれを、さっそく頂くことにする。
「いただきます」
茶色いブロック状の固形物をかじる。
ガリっとした硬さに水気のないパサつく食感、甘すぎるのに塩辛い味付け。
正直、クソ不味いが、三日ぶりのまともな食事だ。何かを食べるという行為自体に安心感を得ながら、水筒の水で携帯食料を流し込んでひと心地つく。
『10キロ先から敵性反応を感知しました。迎撃の準備をしてください』
「.........早くない?」
『極点星図を倒したのが決定的だったようです。ハッキングによって取得した情報によれば、先ほど世界連盟が『転生者レンジロウ』を抹殺対象へと指定しました。現在、『極点星図』と同等の戦力がこの場へと結集を始めています』
「もうやだァァァアアアアアアア!!」
スマホの告げる内容に思わず叫び声を上げる。
信号無視の暴走トラックに轢かれて人生終了、かと思いきやテンプレバトル小説みたいな世界に転生していた。
俗にチートと呼ばれる強力な転生特典があることが発覚して、「ラッキー、これで人生イージーモードだぜ」なんて思っていたら、世界中から存在を消されかけている。
どうやら転生者という存在が、この世界の宗教やら条約やらのルールに抵触したらしい。
ほぼ問答無用で世界の敵扱いである。
「ぐぅうううううううううううううう!!」
意味が解らなさ過ぎて涙が零れる。
どうしてこうなった。
生き残るための十数日間の奮闘。
辿り着いたのは隕石落として、地形ごと人を消そうとするような連中が、命を狙いにやってくる地獄みたいな状況である。
『緊急通達。上空から飛行物の高速接近を確認。3秒以内の離脱を推奨します』
「は?」
何かを言うより早く、ソレは墜ちて来た。
音よりも早く大地を撃ち抜き、地盤に食い込み、膨大極まる加速と質量による威力を解放する。
結果。
______山が消し飛んだ。
「危ねェェェエエエエエエエエエ!! なんだ今の!?」
直撃寸前で被害範囲から脱出。
さっきまで立っていた山が消滅したのを見て、背筋に悪寒が走る。
さっきの隕石に匹敵する威力。だが強力な魔法や魔術ではない。アレらは魔力の動きで察知できる。
そもそもただの遠距離攻撃ならスマホのアシストで、もっと早くに発見できたはずだ。
『大気圏外からの実弾攻撃「神の杖」ですね。軍事衛星からの攻撃を実用化しているとは、完全に想定外でした』
「なんか科学レベル高い.........高くない?」
『そうですね、調べたところ、人型巨大機動兵器や戦闘用アンドロイド群もこちらへ向かってきているようです』
「この世界はどうなってるんだ!!」
しれっと前世超えのテクノロジーを出してくるんじゃねぇ!
魔術とか超能力とかオカルト系だけでも警戒が面倒くさいのに。こうなってしまうと何から気を付ければいいか判らないだろ。
「.........ていうか、いま味方ごと攻撃したよな?」
背中で負ぶっている金髪の少女を見る。
咄嗟にひっつかんで逃げたのは我ながらナイス判断だった。地形破壊レベルの攻撃を防げる人間はなかなかいないので、たぶん放置していたら死んでいただろう。
『国際的な組織ですし、世界連盟も一枚岩ではないのでしょう。「英雄」レベルの戦力は他国から見れば邪魔なだけですし、殺せるうちに殺したいのでは?』
「世知辛いどころじゃねぇな」
『そもそもなぜ助けたのですか? 殺しに来た相手を気にする余裕はない筈ですが』
「だって、わざわざ見殺しにする必要もないし.........」
とりあえず少女魔術師は、隙を見ていい感じの敵に押し付けよう。
そう心の中で呟いていると、数キロ先で赤黒い光に気付く。
「.........炎か、アレ」
強化された視力でよく見ればメラメラと赤い光が揺らめいている。
ここからでも見えるとなると相当な大きさだ。
見ているだけで呪われそうな、禍々しい炎の光。
絶対に何かしらの攻撃だと思うので警戒して見ていると、勢いを増し始めた炎が急に立ち上がった。
「はぁ!?」
天を突く二本の大角、怒りを閉じ込めた瞳、剥き出しの牙。
デカい=強いみたいな稚拙な発想で生まれたみたいな、高層ビルに匹敵する巨大な鬼がこちらを睨みつけていた。
『解析完了、「
「物理効かなかったらどうしようもなくないか.........?」
『あと追加情報です。魔獣戦線から「
少女を背負い直す。
とにかくヤバそうな情報ばかりが聞こえてくる。
『宙域射撃「神の杖」の再装填、並びに聖樹国家にて「
「うおぉぉぉおおおおおおおお!?」
即座に全力ダッシュを再開。
一瞬前まで立っていた場所に撃ちこまれ続ける衛星弾と極太ビームに頭を抱える。
交通事故死というどん底からの転生。
神様からもらった転生特典で人生イージーモードかと思いきや、死と隣り合わせのデッドオアライブな過酷極まるハードモード。
命を狙ってくるのは、単独で地形を壊すような攻撃力のバケモノばかり。
転生できたのにあんまりだ。
なんかもう追い詰められすぎて笑えてきた。
「マジで嫌だ~! 死にたくねぇ~!」
仕方ない。
被害やらなんやらを気にしていたが、背に腹は代えられない。
絶体絶命な状況だが、転生特典をフルに使えばなんとか生き残れるかもしれない。
とりあえず暴れまくって戦場と情報を掻き乱しまくろう。
混乱のどさくさで死を偽装できれば、穏やかなスローライフもワンチャンあるだろ。
___斯くして、俺VS世界連盟の戦いは幕を開けた。
あまりに理不尽なマッチアップ。
後に『見えざる戦争』と呼ばれたそれは、当初の想定とは異なる結末に終わった。
正直、反省はしている。
原因は色々あるが、自分の転生特典の威力をナメすぎていたことと、スナック感覚で気軽に連発しまくったのが致命的だった。巷で英雄と呼ばれるような戦力を何人も撃退したのも良くなかったと思う。
連盟は保有戦力の50%以上を損失。
戦いの余波で世界各地に異常が生じ、国家規模で大混乱に陥ったあたりで、あちらから申し出があった。
要約すると、もう攻撃しないので暴れないで欲しいとのことだった。
結論を言おう。
俺は世界に勝った。
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