おまけ ティラミスは劇薬か媚薬か 超短編

レトロスキー2005(昭和81年生まれ)

第1話 寝酒(カクテル)は花魁の味 

「そうそう変わらないもんだな、君の趣味」

 暖炉のそばで、美鶴みつるが裸のままポールモールを吸っていた。そのからだは破廉恥はれんちというより、大昔の彫刻作品のような優美なエロティシズムを感じさせる。そこへかおるが持ってきたビンを置いて、美鶴の肩にローブをかける。

「前から気になってたんだが、一番のお気に入りはマルゴーなのかい?」

「どうかしら……あなたはどうなの?浮気者のクセに、お酒に限ってはそのジンジャービール一筋だったりして」

 邪魔の入らない部屋に、グラスの当たる音が心地よく響く。

「さぁてどうかな……違うって言ったら、妬いてくれるかい?」

 薫はからかったつもりだったが、その意図を知ってか知らずか……美鶴はこれをいなそうとする。

「薫、チェイサーは何にする?」

 美鶴の目は揺れる炎の妖艶ようえんな光を反射している。

「……キティだ……フッ、知ってるクセに。それでお返事は?」

 暗い部屋の中、ローブからこぼれた美鶴の肌が、暖炉の火のように照っている。美鶴のからだには、夜でも冷えぬワインが血潮のように満たされている。

「薫……?」

 不意に美鶴は煙草の煙を薫の顔に吹きかける。

「ケホッケホッ、な、何を…………」

 美鶴が身を寄せてきたはずみで、わきに置いたグラスたちが倒れてしまった。その零れた酒たちは床の上でゆっくりと混ざっていった。




簡易説明

・シャトーマルゴー……エレガントなフルボディワイン。「ワインの女王」「ボルドーの宝石」とも言われる美酒。

・ジンジャービール……刺激と辛味が強いジンジャーエールのようなもの。ビールと言ってもアルコールを含むもの、そうでないものがある。

・キティ     ……赤ワインとジンジャーエールを“混ぜた”カクテル酒。


・他に、煙草の煙を相手に吹きかけるのは、花魁おいらんが意中の相手に好意を示したり、「臥所ふしどを共にしたい」と暗示したりする為の所作をもとにしている(細かい所作については諸説アリ)。

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