気まぐれ短編集
ペンギン
第1話雛人形
これは私が高校生の頃。
この頃とんでもなく荒れていた私はいつからか視えてはいけないモノが視えていました。
第六感とでも言うのか、常に妖怪アンテナビシバシな感じ。
人と半透明なモノの区別もつかない事もままあったのです。
「ねぇーオカン。雛人形っていつ出すん。」
母「雛人形ねぇー。出してあげたいけど、大きすぎて出せないんだよね。」
この頃私の家には七段飾りのそれはもう立派な雛人形がありました。
姉が生まれた時、歓喜した祖父母が飾れもしない大きなひな壇を買ったからです。
そんな雛人形達は私が3歳ほどでしょうか?その頃までは祖父母の家に飾られ、姉と2人で写真を撮ったりお祝いしたりとお披露目の機会がありました。
しかし引越しに乗じてひな壇ごと頂いた雛人形達は、その大きさ故に飾るスペースもなく1年…2年と長い年月クローゼットに押し込められてしまったのです。
「って言ってワイもう高校生よ。姉のための雛人形と言えども…ちょっとは出してあげないと可哀想じゃない?」
母「誰が飾って誰が仕舞うと思ってんの。だからいらないって言ったんだよまったく」
「(あ、これ黙らないと母がサイヤ人になる。)」
ブツクサと当時の怒りを思い出してるかのような母に私はにっこりとしながら黙りました。
しかし当時の私は言い知れぬ不安が胸を突き、出さなきゃ。と強く感じていたのです。
「まぁ出せる余裕あればだねぇ。この間クローゼットが勝手にバーンって開いてさ。一瞬喧嘩売ってんのかって思ったけど、内側から開いたからさ。」
母「雛人形お前の部屋のクローゼットの中だもんね。まぁいずれはね。」
「いずれは。」
そんな会話をして3日。
私の部屋の空気は淀むばかり。
雛人形達に「すまんな、母を説得しとくれ。」と投げやりに頼んでみるものの状況は変わらないまま。
仕方なしに眠りについたその夜、事は起きました。
ーうぅ…うぅぅ…
女の声
泣いているんです。
悲しそうに…とても苦しそうに。
「またかよ…今度はなんだよ」
私の部屋はポルターガイストがちょくちょく起きていたので完全に慣れていました。
そのせいで頭だけ起こして舌打ちして泣いてる本人を見たのです。
そこには大きくて透明な影。
ユラユラと私のベットの足元で揺れてずっと泣いているんです。
格好は綺麗な着物でした。平安時代を思わせるような綺麗な赤い色の着物。
すぐに雛人形だと分かりました。
「あー…あぁーえっと。うん。明日出してあげるよ。オカン怒るかもだけど。だからとりあえず寝かして…」
バイトと部活の疲労MAXな当時の私。
ベソベソ泣く声を一旦無視し、無理やり眠りについたのです。
そして翌朝。
「母〜。もうダメだわ、人形さん泣いてる。」
母「はぁ?なに朝から」
「昨日雛人形化けて出たよ。ずっと泣いてた。可哀想だから少し飾った後に供養に持って行ってあげよう。」
母「はぁ…しょうがないな。」
私の身振り手振りの泣き真似に苦い顔をする母。
渋々。
そういった感じでよっこらせと立ち上がり私、母、姉で私の部屋のクローゼットに仕舞われた雛人形達が入った大きな箱を1階に降ろしたのです。
そして中身を出し、何年かぶりに人形達と対面しました。
姉「うわぁ…日本人形ってなんか怖いよね。」
「言ってると祟られるから。…あ。」
姉「なに」
「この子。昨日足元でずっと泣いてた子。こりゃぁ泣くよねぇ。」
姉「うわ!?え!?うそ!!」
母「ポッキリいってんね。」
そっと出した一体の人形。
私の左手にはその人形の首がゴロリ。
痛かったんだろうなぁ。そりゃ泣くよなぁ。幸せ願って作られた人形なのに…可哀想な事したなぁ。
と少しばかり反省して首を戻し、出せないひな壇の代わりに居間に並べた雛人形達。
季節は桃の節句ではないがどの人形もなんだか嬉しそうな顔でした。
その後、数日居間に飾った後両親が供養に持って行きました。
そこから人形さんが泣いて出る事はありません。
これが1つ目の私の思い出した体験です。
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