第14話 王女の武装

 フィリアのお茶会にディアナはフォルトゥーナから持参したドレスを選んだ。


「姫さま、今帝国ではボリュームの少ない、体にフィットしたドレスが流行のようです」

 ディアナの身支度を整えながらルラが言う。


「フォルトゥーナのドレスは素晴らしいですけど、帝国の流行には合いません」

 リリがネックレスを留めながら続けた。


 ディアナが身につけているのは薄紫のシルクをふんだんに使って作られたAラインのドレスだ。

 ディアナが持参してきたドレスの中でも締め付けの少ないものだった。


 帝国ではフィリアの好みを反映してか、マーメイドラインもしくはエンパイアラインのドレスが流行っている。

 アフタヌーンティーであればティーガウンでも良いが、フィリアに気を遣って多くの令嬢はエンパイアラインのドレスを着てくるのではないかとディアナは予想していた。


「いいのよ。そもそも帝国で流行しているドレスは私には似合わないわ。それに、フィリア様は私が帝国内でドレスを作る前にお茶会に招待したかったのよ」


(流行すら知らない無知な婚約者に仕立て上げるためにもね)


「シルクはフォルトゥーナの特産でもあるし、このドレスが見劣りすることはないでしょう」


 そもそもフォルトゥーナでは養蚕業が盛んだ。

 良質なシルクをたくさん生産しており、それは帝国との間でも取り引きされている。


「それに、ドレスはあくまで添え物。身につけている人によって相手に与える印象も違うものよ」


 流行なんて移ろうものだし、たとえ今流行っているドレスがあったとしてもそれもまた変わっていく。


(たとえば、フィリア様の求心力が無くなった時とか、ね)


 ディアナはネックレスとイヤリングに濃くてムラのないアメジストを選んだ。

 すべてを身につけたディアナは幼げな容姿でありながら高貴な雰囲気をまとっている。


「今日のお供はルラとガルトにお願いするわ」

「え!?俺は留守番ですか?」


 ディアナの言葉に最初に反応したのはアランだ。


「ええそうよ。侍女だけでなく護衛までフォルトゥーナの者を連れて行くのは良くないでしょう?」


 もしそうすればフィリア側にディアナは祖国ばかりを大事にして帝国に馴染もうとしていないと言われかねない。


「俺でなくガルトを選んだ理由を伺っても?」

 ヒューゴの問いにディアナは護衛の二人を交互に見た。


「ガルトよりもヒューゴの方が気が短いからかしら」

 小首を傾げて言えばヒューゴが面食らったような顔になる。


「たしかにそうですね」

 一方ガルトは納得とばかりに頷いた。


「姫……ディアナ様、まさか私ではなくルラを選んだのも同じ理由で?」

 

 『姫さま』と言いかけて『ディアナ様』と言い直した後、リリが愕然とでもいう表情で問う。


 そんなリリにディアナは小さく微笑んで明確な答えを返さなかった。

 リリは『ガーンッ』と顔に書いたような反応をして固まっている。


(わかりやすいところもまたリリの良いところなのだけど)


 そう思いながら、リリがヒューゴとガルトがいるところでもある程度素を出していることに気づいた。


(リリはヒューゴとガルトに対する警戒を緩めたのね)


 それはつまり、彼らはディアナに仇なす者ではないと判断したことになる。

 そしてそんなリリを咎めないのであればルラとアランも同じ見解なのだろう。


「それでは、向かいましょうか」


 そう言ったディアナの後にルラとガルトが付き従った。

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