12・いざ直談判編
「…で、その大怪我は何かな?」
待ち合わせのフードコートにて、圧のある笑顔で問い詰めてくるルー。
「えーとその…」
「わわ、アディル怒んないで~…」
三人が冷や汗ながらに事情を話すと、
「天井から噴水に落ちた⁉捨て身の爆発⁉心臓狙撃された⁉
おまえらな……
俺の居ないとこでしっかり危ない目に遭うなよ!」
[ア、アディルも負傷しているぞよ]
ネイの言う通り、ルーが一番無茶をしている。死ぬほどの無茶だ。
「俺はいいよどうせ死ねない身体だしね!
だけどおまえらが傷つくのはさ…っ!」
「…これからは全力で守るから。仲間なんだよ?」
心配そうに団員たちを見るアディル。
その姿に、皆何も言えなくなってしまった。
「ネイは花弁ちぎれるまで頑張ったの?
大丈夫?」
[心配には及ばぬ。ちぎれた方は霙のお守りになった]
「ちぎられたんだよ、…ったく。
オレもそこそこ、不安になったんだわ……っ」
霙の台詞に、ネイが嬉しそうに顔を綻ばせる。
そのとき。
「テメェらちょいと面貸せ」
座る四人の元に、ガラの悪い女性が現れた。瞬く間にリーヨウと苣が首根っこを掴まれ、
「えっ何貴女誰⁉」「おたすけ~~~‼」
ずるずると引きずられていく。
「二人とも大丈夫⁉」「いや大人しく連れてかれんなや…」
[追いかけるのだ、急げ]
そうして、引きずられた先は。
「う……っ!」
「じっとしてな。」
消毒液が染みて、ギュッと顔を強張らせるリーヨウ。
「これが嫌なら
今後は傷口そのままにすんなよ」
「はーい…」
彼女はルドが派遣した医者・ギリヤ。ルド曰く、「いっつもわざとかと思うくらい死にかけるからまとめて診てもらえ」とのことだ。
「ボスもボスだ。
ここまで世話のやける異国人ども寄越して…」
「特にテメェら二人!なんでこれで生きてんだってレベルの
大怪我なんだからな、自覚しやがれ」
苣とルーにも消毒を施しながら、そう言い放つ。
[…いきなり引きずられ、救護室ベッドにぶん投げられたときは
何かと思ったが…]
「【まともなドクターだったね~】」
「クチバさん!ボクらの前でも
出てきてくれるように…⁉」
「【うんうん!
ほんと、ようやくって感じだよ~】」
リーヨウと【朽葉】は和気あいあい。
しかし…。
「いっっってぇ……ッ!」
「俺もう駄目かもしれない」
霙とアディルは二人して頭に作った傷に苦しむ。
ルーに至っては全身が痛すぎて死を覚悟している。…一度死んできた癖して。
「ボスに訊いた話だと…付喪神?の神パワーで
血だけは戻ってくるんだな?」
「はい、血が循環してる限りは」
苣が答える。
「全く。何が『医者いらず』だガキ。テメェ一番イラッときたからな」
霙の首に絆創膏を張りつつ、ギリヤは悪態をついてくる。
「いやオレは!
要らない『治療費』を注ぎ込むってんだわ!」
[それはそうだが…医者の前でそれはな]
「ギリヤさーん、この子はちゃめちゃに口は悪いですけど、
悪い子じゃないんですよ~」
リーヨウが隣に寄って、霙を撫ではじめる。
「………」
それはそれで不本意な霙。
二人の様子に、ルーは爆笑している。
そして笑うのをやめ、
「みんな聞いて。俺らに怪我を負わせた組織
"ブレッドメイト"の目的を、今から説明するよ」
真剣な顔になる。
そうだ。ほんわかしている場合ではない。
…決してワタシが
「【そういう話はさ~、】
場所変えてしよう?たとえば――」
デパート屋上にて。
「まず勘違いしないで欲しいのが、アイツらも
悪事を犯してるってことは無いよ」
「器物損壊罪と」
「暴行罪以外はな」
もっと色々やってくれた気がするが。
「じゃあ何でボクらを攻撃する、って話に至ったの?」
「……鯵啞政府の
足止めと邪魔。それから俺ら四人を政府に差し出すのが
命令だったんだって」
アディルは仲間がぞんざいに扱われていたことを
静かに怒った。
[それをアディルは、ブレッドメイト直々に訊いたのか]
「うん…車で俺を送ってくれたのもラグ。」
「あの声でかい人ね!なまえ覚えた♡」
「ラップの芯ビビった…思い出すだけで恐ろしい」
「そうそう、ラグが言ってたけどアイツら、
他にも『目的』があるとか―――」
「察しが良いねー」
振り向くと、高そうな鯵啞風の衣に身を包んだ集団が
歩み寄ってきている。その集団の先頭に立つ、
「あ…貴女私達に書類を突き付けてきた…!」
国役場のルーズだ。
「おまえが、俺とうちの団員苦しめた根本の…‼」
「国に歯向かおうとしたなら仕方ないでしょー。
れっきとした正当防衛だよ」
へらーっと笑うルーズに、
「嘘つくなや。本命は、
オレたちと事務所を奪い取って"再利用"することだろ?」
霙は言ってみせた。
「………君たち、本当に察しが良いね」
彼らは一斉に火縄銃を構えた。
「……っ!」
見覚えのある武器に、一歩退いてしまう霙。
当たり前だ。なぜなら
革命軍は大敗することになったのだから。
革命軍の反乱を見事抑えてみせた国側は、
それはそれは好き勝手やっていたそうだ。
…奴らのせいで殺された四人は知る由もないが。
「君たちは革命軍のように
抵抗してくれるなよ」
向けられた銃口に、口を閉ざす団員。
兵隊と、担々団体。互いに動き出せない。
この膠着状態を、
[結局は、自らの利益が先か。とんだ国王ぞよ]
すぐに凛とした声が断ち切った。
[これのどこが正当防衛なのやら…呆れたのだ]
「陛下に対して不敬な発言を!」
「やめときなー
こいつらどうせ撃っても立ち上がるし」
声を荒げる隊員を制し、苣の目を嫌味たっぷりに見た。
「そう…あまりに君たちが『普通の人』みたいに国を渡り、暮らしに溶け込むものだから、
どこの国にも不死身の情報がバレていない!
鯵啞の貴重~な不死身をみずみす逃すわけにはいかないんでねー」
…クソが。
「勿論、不死身な上に攻撃性も高い君たちを
駒に様子見させてた訳だけど…役立たずで困っちゃうね」
「ッおまえなぁ!!!」
ルーの堪忍袋の緒が切れた。
むしろ今までよく耐えていた。やってしまえ!
バァン!
それより速く、鉛がルーの胸を撃ち抜いた。
「抵抗するなって言ったじゃーん」
「……あ"あ"腹立つッ」
胸なので即死にならず、血が身体に収束する。
その様子に狼狽える隊員たち。
「血が…⁉」「どういうことだ⁉」
「便利だよねー、だからこそ四人の不死身が
駒に欲しい」
コクコクとひとりで頷くルーズ。
「じゃあ…じゃあなんで事務所を奪うなんて
まどろっこしいことを?」
「フツーに連れ帰ればいいじゃん。嫌だけど」
「連れ帰る?それで済めば良いねー」
「———今だスタン君」
真っ先に苣が悪寒を感じ、
「リーヨウたん‼」
リーヨウを庇う為伸ばした腕に穴が開いた。
!ワタシだってこんな惨いシーン、語りたくない!
だが昼空の下、腕を押さえて苦しむ苣の声。ルー霙ネイの焦った言葉。ルーズのむかつく台詞。
リーヨウには、そのどれも届いていない。
「ボクに…っ!ボクにかまうなよぉ!!」
代わりに絞り出したのはそんな言葉だった。
「姉貴も苣も、いっつもそう!
ボクを庇うからそういう目に遭うんだよ⁉それなのに、
なんでボクを…責めないんだよ……っ‼」
…提灯の都でも、それで泣いてしまっていたリーヨウ。
目の前で血を噴き出し苦しむ姿を、
もう見たくないと願うのは当たり前だ。
「【……ハイ、完治~。】」
苣の声でそう唱え、流血は綺麗になくなる。
それでも尚痛むのを我慢して、
「リーヨウたん、私【
と囁く苣。
「打算的でずる賢い、も言われてたかも?」
「……?」
「だからね」
苣が優しくリーヨウの肩に触れた。
ズキズキ痛む、その腕で。
「『仲間の為ならお安い御用』なんて言わないよ!」
これでもう、
『血を噴き出し苦しむ姿』は見なくて済むな。
「っ…ちしゃァ……!」「や~もうリーヨウたん可愛いっ!」
ぐしゃぐしゃになった顔を見せないように
苣に抱き着いて隠すリーヨウ。
…子供に罪悪感なんか抱かせない良い台詞だ、苣。
「はは。感動劇はここまでかなー?」
白々しい。
ルーズは拍手をやめると、指を鳴らした。
すると駐車してたリムジンから大勢の隊員が出てくる。
[……囲まれたか]
「そろそろ本格的に行くよ」
バンバンバン!
先程の音もない射撃と違い、随分うるさく響く銃声。
「【いや~やっぱレーザーに比べたら性能落ちるよね、鯵啞製は】」
絶え間ない銃声にも、【朽葉】は追いついている。
その通り、
血の駆け巡る速度に、発展途上国の火縄銃は勝てない。
すかさず苣は霙の手を掴む。
「霙!反撃!」
「⁉いやオレ戦えね……」
「いいから【名前】呼ぶ!」
…ここまで逃げてばかりで、反撃などイベトの時以来の、霙。
金槌の冷たさを思い出して、思わず手が震える。
しかしその手は苣にがっしり握られて、頼もしいこと他ない。
「…了解【
「お願い【
「うおっ⁉」「なんだ⁉」
二体の付喪神が、"凍てつく枯れ葉嵐"を巻き起こした。
「【切れ味増量キャンペーン☆】」
今の【朽葉】の決め台詞も相まって、大いに混乱させた。
「落ち着け、当たっても掠り傷だ!」
そう言い放つ隊長らしき者。それもむなしく、
「【
「【
「ぐおおおおっ!」
葉の物量に押し切られた。彼らの隊服や肌はボロボロだ。
「今日は言うこと聞いてもらおうか【
こっちはこっちで、敵側を翻弄している。
「き、貴様なんなんだ!」
「殺す気か!おえっ」
腹に勢いよく石壁を打たれる隊員。
「そりゃそうだ。うちの【石土】は
人を傷つける上じゃ
アディルは皮肉を込めて言ってやった。
守る、ではなく殺す、ために。
かつて仲間にしてしまったように。
…ルーは床に転がる奴らをにっこり睨み付けた。
二度と立ち上がれないように。
「ええ恐っ……」
霙と苣すらその睨みに一瞬ビビる。
その一瞬が命取り。
また音もなく、スタンの射撃が来る。
シュウウウ……
"コーティング土壁"から煙が上がる。
「そう何度も同じ手食うかよ」
「ナイス霙👍」
霙の【
「まったく、君の狙撃も『分かっていれば防げる』のであれば無能だなー」
少し離れたところから、ルーズは嫌味を言う。
これだけの人数を、三人で相手しているのだ。
警戒して
しかしコイツだけは許せん。
「よし、こうしよう」
するとルーズは立ち上がり、
頭上にヘリが現れた。
「ネイ…あれ何?」
[ヘリコプター、ぞよ]
空を見上げて目を見開くネイ。その理由は、
ダダダダダダ!!!
――空からの連射には、手も足も出ないからである。
隊員たちのように、床に倒れる担々団体。
必死に身体を起こそうとするが、ぼたぼたと落ちる血がそれを邪魔する。
「う"……ごふッ」
更には追い打ちをかけるように
連射は続く。
…コイツらは、一体何度命を落としたのだろうか。
ルド。死なない部下なんて、存在しないのだ。
毎回毎回、ちゃんと苦しんでいる。
「……いたぁーい…」
そこで立ち上がるから、不死身に見えてしまうのだ。
血の海の中、リーヨウだけ立ち上がったのである。
[リーヨウ、リーヨウ、ここぞよ]
ネイはネイで冷静だな。
「おー…ネイ、いつもみたいに、作戦おしえてよ…」
[真っ先に動けるとは、恐れ入った。流石は最年少だ]
「さいねんショー…?」
[あたくしの考えはこうだ]
「ボクに出来るかなぁ」
[御前と付喪神様なら、成し遂げることだろう]
パァァァァ…!
ネイの身体が、
その光が収まる時には、ネイはリーヨウと同じ背丈になっていた。
「うわぁぁぁ…!きれい……」
[そうか?あまりこの姿のことは分からぬ]
藍色の目、王冠のようなめしべはそのままに、
両の足で佇んでいるのだ。
これが…、花人…!
その時、リーヨウが【名前】を呼んだ。
「よろしくヒダネさん!」
隊員から拾い上げた銃が、炎に包まれる!
リーヨウから受け取った銃たちを傍らに、ネイは空高く跳びあがった。
脚力だけでこんなに飛べるのだから、花人とは恐ろしい。
[感謝する、リーヨウ!【火種】様!]
ネイは銃をヘリに向かってぶん投げた。
ドカァン…!
火縄銃はヘリのエンジン部と共に爆ぜた。
なるほど、ネイはとても賢いな。
火縄銃の「火薬」を利用して、【火種】に着火させたのだ。
同時進行で、地上でも立ち上がる三人。
「霙大丈夫?走れる?」
「行けなくも無い…いやでもいてぇよ…」
「『お安い御用』くらい言ってよ霙~」
「お前それさっき言わないっつったよな⁉」
「【めっちゃ元気じゃ~ん】」
「まさか霙の兄の力を借りることになるとはね」
三人は、銀色に輝く刀を見つめる。
「…オレ、一回も使ったことねぇ」
そうだった。
火縄銃に刀で立ち向かわなければならない苦しい戦場で、
霙は誰も斬らなかった。
思い出すと、またワタシは国に憤りを覚える。
「形見、使わせて頂きますね」
苣は天国に向かって丁寧に礼をした。
「…行こう!【
霙は走り出す。ルーズのもとへ。
「ルーズの奴、完了したと思って呑気に電話してやがる…」
土の道はルーズの所まで伸びている。
「…おっとォ!もう復活したのか、早いねー」
ドンドンッ!
ルーズは自らの側近に銃撃させる。
それを予知して止まった霙に、
「追加だ【
ルーと【石土】がバリアを作る。
再びこちらへ走り出す霙に、ルーズは焦りを見せる。
「チッ…四人が倒れた時点で縛っとけよー
気が利かない部下だ」
「【
「⁉」
突然目を覆った枯れ葉に、手元が狂う側近たち。
ドンドンドンッ!
勿論、弾は当たらず逸れる。
―――追いついた。
「お前にオレらから一言!
痛いのも」
「恐いのも」
「首が苦しいのも」
「死ぬのもっ!」
「「「「一括払いで十分だ!!!」
ザク……ッ!
振り下ろされた刀を避ける術は無く、ルーズは膝をつく。
「痛い痛い痛い!」
のたうち回るルーズに、霙は声をかける。
「オレらは『痛い』じゃ済まなかったの。
『死ぬほど痛い』だった。分かるか?」
「分かんねーよ死んだこと無いから…!」
四人はあるんだけどな。
ルーズは側近たちを怒鳴る。
「君たち何してんの、早く救急車呼ぶ!
スタン君はなぜ助けなかった!」
そうだ…スタン。
彼女は、どこから狙撃していた?
ずっと射線が読めなかった。
だが一つ、気になる点。
「国がどういう理由で君を重宝してるか分かる⁉
殺しが取り柄だからだよ‼」
ノイズのかかったルーズの怒声。
スタンのインカムから流れる音のことだ。
―――ワタシはルーズに言ってやることにした。
「君だから、不死身の奴らにも対抗できるとみて雇ったの!
なのに何やって…」
「【不死身じゃない】」
スタンの声で、インカムに話しかける。
「【四人はなぁ、ハンマーで殴られれば死ぬ、焼かれても死ぬ刺されても死ぬ
撃たれでもしたら、それはそれはもう即死である。】」
「は……君、誰?」
「【名前】か?
付喪神の【
「【死にたくないから、四人は
恐れるし、逃げるし、ずるい手だって使ってきた。
だから彼らは、不死身などでは決してないのだ】」
「…———」
ルーズの返事を無視して、ワタシはスタンの身体を離れた。
ただいま。言いたいことだけ言ってきたぞ。
偉いだろう。キミもスカッとしたか?
…ワタシの存在?
付喪神の【
――付喪神は、何かに憑いていなきゃダメなんじゃなかったの?
いやいや。現に今も憑いているだろう。
キミの手元を見てごらん。
その
〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇
「ボス、何なんですかこの数字⁉」
通帳に刻まれた金額に目を丸くする四人と一輪。
「見てわかんない?特別手当だよ」
そう。あのルドが、これまで最低限しか給料をくれなかったルドラッシュが、
特別手当を贈ったのだ!
「…これボクらが貰っていいの?」
「だからそう言ってる。
これはおまえらの働きが蓄積してこうなった。だからこれは、
誰がなんと言おうとおまえらの金だよ。」
1677万5000
+500万
2177万5000円である。
「うお…すげぇ額」
「ここまで貯まると感覚麻痺るよね」
「ボクらちょっとくらいゲームに費やしても…」
「リーヨウたん可愛い!switch絶対買い戻そうね~!」
ルドは団員の顔をそれぞれ見る。
「国役場んとこと話つけたら、
買取まで突っ走るしかないよなおまえら」
彼らにとっての大事な職場、失わないように。
―――そういや何故、担々団体の事務所はあそこでないと駄目なのか?
キミは今更。と思うかもだが、
別の場所に引っ越す、では駄目なのか。
悪事に足を踏み出し、命を懸けて、血を流してまで重要なことなのか。
その理由を、遡ってみた。
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