第3話 こんなチュートリアルでいいのか? 1
「お帰りなさいアキさん! 晩御飯はいかがでしたかー?」
青い兎型Aiのラビが、ログインした俺を無意味に逆立ちで出迎えてくれた。
このふざけたAIが言った通り、全速力で晩メシを食べてきたのだ。
とっととゲームの続きをしたいがために、ほぼ丸飲み状態だったもんで、正直なにを食べたのかすらよく覚えていなかった。
だってさぁ。
これから本格的なチュートリアルが始まるってのに、晩メシで時間を取られるなんて、お預けくらった犬みたいなもんじゃん?
5分とかからず平らげたもんだから、お袋は『よく噛まんかい!』ってすっげぇ怒ってたけどな。
「ではでは! さっそくチュートリアルをはじめましょーか?」
「よっしゃ! やるかー! って、ちょっと待った。リアルは夜なのにこっちは昼間なのか?」
「いえ、日本時間に合わせてますからゲーム内も夜ですよ」
「だって明るいじゃん」
「このチュートリアルマップだけですねー。ちゃんとゲーム本編が始まれば時間通りになります」
「なるほどな……よし、じゃあやろう!」
「まずは戦闘の基本からですよー」
「おぉっ! 待ってました!」
戦闘こそがRPGの華と言えるだろう。
これがつまらないゲームは総じてクソゲーに分類されると俺は思っている。
なぜならRPGにおける大部分の時間は戦闘に費やされるからだ。
なので、いくらストーリーが良くても、戦闘がダメではやる気も萎えてしまう。
最近はそんなゲームが多くてなぁ。
戦闘ってのは確かに一種の作業ではあるんだけど、それが苦にならないような工夫はほしいもんだよね。
だから余計にこの【オーディンズスピアオンライン】には期待しちゃうんだ。
ダイブ型のRPGで戦闘なんかやったことないからな。
「では、モンスターをポップさせますねー」
「えっ、ここに?」
俺は石壁に囲われた広い庭を見渡す。
所々に赤い果実がたわわに実った樹木が植えられており、奥のほうには大きなレンガの建物がある。
大豪邸の中庭と言った風情だが、こんな場所で戦闘などしても良いのだろうか。
「大丈夫ですよー。ここは初心者アカデミーの敷地内ですからねー。それに、基本的にはフィールドやダンジョン以外の街、建物内などでは戦闘できませんのでー。あなたも宇宙人じゃないんですから、そんなこと当ったり前の常識でしょー?」
「まぁ、そりゃそうかもしれんけど……」
言いかたがひどい!
このAIを作ったヤツは人格破綻者に違いない。
つぶらな瞳のぬいぐるみに暴言を吐かれてみろ。
普通に罵られるより何倍もムカつくぞ。
「じゃあ出ますよー。最初の敵は『ポポル』でーす!」
ラビの声と共に、ボワンと俺の目の前に丸っこい一抱えほどの物体が現れた。
半透明だが薄い緑色をしている。
「なんだこりゃ? いわゆるスライム系かな?」
「はーい! アキさん大正解! いやー賢いですねー」
くっ、小馬鹿にされてるとしか思えん。
まぁ確かに、序盤の敵と言えばスライム、みたいなイメージもあるにはあるからな。
ゴブリンと双璧をなすって感じでザコの代表格だし。
「さぁ、攻撃してみてください」
「は?」
俺は思わず自分の手と身体を見回す。
革の胸当ては身に着けているが、どこにも武器が見当たらない。
「おいおい、素手で戦うのかこれ?」
「あっ、いっけなーい! 武具装備の説明が先だったー! エヘッ」
両手を合わせて小首をかしげるブルーのぬいぐるみ。
こいつ!
抑揚のない声で言いやがって!
絶対わざとだろ!
「ま、お望みなら素手でも戦えますが、あんまり
「はいよ」
「武具は装備しないとなんの効果もないですよー」
「ははは、どのゲームでもだいたいそのセリフを聞くよな」
装備が完了すると、俺の腰に鞘つきの剣が現れる。
ガラリとそれを抜くと、刀身に陽光が跳ね返った。
おー!
質感といい、重量感といい、すっげぇリアルだなぁ!
くぅ~、たまらん!
感触を確かめるため、何度か素振りをしてみる。
不思議なことに、重量感はあっても慣性で剣に振り回されるようなことはなかった。
どうやらシステム側のほうで多少はアシストしてくれるらしい。
へぇー。
こりゃいいね。
あんまり細かいところまでリアルにしちゃうとゲームらしさが損なわれるもんなぁ。
万人受けを狙うならこのくらいでないとね。
……とは言っても、くっ、はっ、こりゃなかなか、命中させるのは難しいかも、なっ。
プレイヤーのっ、身体能力に、結構左右されるのかっ。
しまったなぁ、最近は身体が鈍りきってる。
ゲーマーは体力が命って理由で通ってた空手道場も最近行ってないし、爺ちゃんのとこも御無沙汰だしなぁ。
「どこを攻撃しているんですか? モンスターはこっちですよー」
「言われなくともわかってるからね!? これは練習だよ練習! 素振り!」
一撃で気分をぶち壊しにしてくれるラビ。
なんと言うボケ体質なんだろうか。
ツッコミが得意な俺は心が休まる暇もない。
気を取り直して俺はポポルとか言うグリーンスライムに向き合った。
よく見ればぷるぷると震えてかわいいではないか。
「お好きなように攻撃してみてください。戦いの経験を積むほどアキさんに合った動きがわかってくると思いますよー」
「なるほどね。たまにはまともなことも言うんだな」
「エヘヘ」
褒めてないのになぜ照れる……?
まぁいい、いくぞ!
俺は上段に剣を振りかぶった。
そして一気に振り下ろそうと思った時、異変は起きたのだ。
俺ではなく、スライムに。
突如ポポルの胴体が牙まみれの口をした猛獣のようにグワッと大きく開き、俺の身体に食らいついたのである。
「うぉわっ! なんだこれ!? 思ったより狂暴な……! ぐっ! いてぇ! マジでいてぇって! チクチクする~!」
ポポルの咀嚼と共に俺のHPゲージが緑から黄、黄から赤へとみるみる減っていく。
同時に視界も暗くなり、意識も薄れた。
「!?」
気付いた時、俺は先程となんら変わらぬ場所にたたずんでいた。
ぴょんこぴょんことラビが目障りなほど跳ねている。
まるで『ひっかかりましたね?』とでも笑っていそうな雰囲気。
「ぷぷぷー、気持ちいいくらい見事に引っかかりましたねー。一度死んだ気分はどうです?」
「やっぱりな!」
そうか、俺はさっきのでヒットポイントがゼロになって死んだわけか。
リアルで悶絶するほどではないが、軽い痛みまで感じるなんてなぁ。
全くすさまじいゲームだよ。
「ではもう一度モンスターをポップさせます。今度は相手の動きもよく観察しながら攻撃してみてくださいね。モンスターにも攻撃を仕掛けてくる際になんらかのサインがありますので、それを見逃さないようにするといいですよ」
「ああ、わかった。やってみるよ」
急にまともな指南をしてくれるラビ。
失敗した時にまでふざけたキャラでは、いつまで経ってもチュートリアルが先に進まないからであろう。
ふむ、よく見れば敵の攻撃パターンは何種類かあるみたいだ。
こりゃ覚えゲーに近いかな?
となると初見のモンスターを相手にする時は慎重にやるしかなさそうだぞ。
再戦は一応上手くいった。
ポポルの攻撃をなんとか
ザコ一匹倒すのになんと言う労力を使わせるのだろう。
ぺぺぺぺっぺっぺー!
倒した途端に安っぽい効果音が鳴り、ベースレベルとジョブレベルが上がった旨のログが表示された。
「はーい。レベルが上がりましたねー。ステータスポイントとジョブポイントを獲得しましたよー。どちらも自由に割り振りできるので色々試してみてくださいね」
「へぇ、そこら辺はよくあるMMORPGっぽいわけか」
言われた通り右手を振ってステータス画面を開いてみる。
現在、俺のジョブはノービス。
そのまんま初心者の意だ。
最初のうちはこのジョブを育てるしかないのだろう。
スキルは【応急処置】とか言う、HPを微量に回復させる初心者専用のものだけだった。
序盤こそ世話になるだろうけど、すぐ使わなくなりそう。
ステータスも見慣れた項目が並んでいた。
STRはストレングス、つまり筋力値だ。
AGIは敏捷力。
VITの体力。
INTが知力。
DEXは器用さ。
そして最後にLUK、幸運値。
当たり前だが全ての数値は今のところ1だった。
あとはおなじみの生命力値であるHPが50と精神力を表すSPが10だ。
ベースレベルはさっき上がったから2。
ジョブレベルも2か。
俺はこの手のゲームをやる場合、最重要視しているのはSTR、筋力だ。
往々にして、攻撃力がなければどうにもならない状況が多々あるもんでな。
次いで重要だと思っているのがAGI。
『当たらなければどうと言うことはない』を地で行くために、素早さを挙げて回避力を確保している。
攻撃をもらわなければHPが減ることもない。
つまり、回復アイテムをケチれるってことだ。
せこいって言わないでくれよ。
どんなゲームも序盤ではアイテムを買うための資金集めすら苦労するのが当たり前なんだからさ。
それにだいたいのゲームならAGIを上げれば攻撃速度も同時に上がるんだよ?
素早く敵を斬り刻むなんてかっこいいじゃないか。
と言うわけで、俺は迷うことなくSTRとAGIに全て振った。
あとは命中力をあげるため、多少DEXにも振らねばならんだろう。
先程の戦闘で命中率も重要だと気付いたんでね。
割とテクニックでどうにかなりそうだから、ほんのちょっとだけな。
でも、育成の方向性はまだ考えてもいないからなぁ。
もし将来、魔法職を目指したくなったらINTも必要だろうし、
うーん、悩ましいけど、こういうのを考えてる時が実は一番楽しいんだよね。
「見事ポポルを倒したご褒美に初心者用ポーションをあげるね!」
「おっ、そりゃ助かる。サンキュー」
ログに『初心者用ポーション 50個獲得』と出た。
おお、50個もくれるとは思ってたよりも太っ腹じゃないか。
なんて油断した時。
『重量制限の50%を超えました。HPとSPの自然回復が不能になります』
「えぇ!? 重量制限なんてあるの!?」
「そりゃもちろんありますよー。しかも90%を超えると攻撃すら出来なくなりますんで気を付けてくださいねー。武具も自分の筋力に合っていないものを装備するとペナルティがありますからねー。でも、レベルが上がれは所持できる重量も増えますからご安心をー」
「せめてアイテムを渡す前に言えよ!」
俺は断腸の思いで、HPが満タンにもかかわらず妙な色のポーションをガブ飲みするのであった。
あぁぁ。
もったいない!
しかもこのポーション、味がない!!
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