第10話 年末年始、悲喜交々。

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 ――パラッパッ、パッパララパッパラッ!

 ――みなさんこんにちは。夢見丘ゆめみがおか高等学校、お昼の放送「一期一会」です。クラスの仲間との出会い、部活の仲間との出会い、先生との出会い。今この瞬間でしか味わうことのできない出会いを大切に、高校生活を過ごしていきましょう。お相手は放送部部長、一ノ瀬いちのせ優吾ゆうごです。


 ――先週から始まったリクエスト企画ですが、たくさんいただいていてうれしい悲鳴をあげています。


――放送部員は僕一人しかいないので、どれを選べばいいかとても迷っています。もしよければ一緒に活動してくれる仲間も募集していますので、入部希望者はぜひ放送室まで来てください。または直接、僕に声をかけてくれると嬉しいです。


 ――では早速、いただいたリクエストの中から一曲お届けします。あ、そうそう。リクエストは名前を書いても書かなくても、またはペンネームでもどちらでも構いません。嘘だけはやめてください(笑)


 ――それでは、二年三組「筋トレ大好き」さんのリクエストで「クイーンアルパカ」の「白目」お聞きください。

 ***** *****



 優吾が企画した、生徒や先生たちから曲のリクエストを募集するという案は大成功だった。

 正直な話、彼が校内放送で話していた「たくさんいただいてうれしい悲鳴をあげている」ほどは届いていないのだが、毎日曲を流す分には困らないほどの量のリクエストがあった。

 

 中には冗談半分で選んだような曲名が書かれていたり、放送で読んで困らせようとペンネームが下品なものが届いていたりしたが、優吾はそれらを問答無用でゴミ箱へ捨てた。


 最初の告知の時点で、明らかにふざけた内容だったりどうしても曲が見つからない場合は採用しません。リクエストしたからといって必ず採用されるわけではありませんと伝えていたので、そこは心配なかった。


 リクエストを募集することで、生徒や先生たちがよりお昼の校内放送に耳を傾けてくれるようになる。

 そして興味を持った生徒が放送部へ入部する。

 優吾はそんな淡い期待をしていたのだった。

 

 しかし、惜しむらくはこのリクエストが12月途中から始まったということだった。だんだんとこの取り組みが認知されはじめ、盛り上がろうとする頃に終業式を迎え、冬休みに入ってしまったのだった。

 

 そして新年を迎える。



 ***** *****

 ――……ズンチャチャズンチャ、ズンチャッチャ!

 

 ――2025年1月8日水曜日、みなさんこんばんは、ハイド&シークの平木優子です。

 ――坂田ケインです。

 

 ――チャン、チャカチャカチャカチャン……チャン、チャカチャカチャカチャン

 

 ――あけましておめでとうございます! 2025年もどうぞハイド&シークの「学校さぁ行こう!」をよろしくお願いします。

 ――あけましておめでとうございます。今年も、リスナーのみんなまとめて、今よりもっと学校を好きにさせるんで、最後までしっかり聞いてくれよな!

 

 ――新年一発目の放送ですけど、ケイン君はどんな年末年始を過ごされましたか?

 ――ええっとね、とりあえず実家に帰ってゴロゴロしてました(笑) そういう優子ちゃんはどうなのよ?

 

 ――私はね……仕事。

 ――そうだった、俺見たよテレビで! 「あれ、優子ちゃん正月なのにテレビ出てんじゃん!」って思ったのよ! んで「なんで隣に俺がいないんだよ!」ってテレビに向かって突っ込んだもん!


 ――女性芸人が集まって好き勝手喋る番組だったからね、男子禁制だったのよ。

 ――なんかソロ活動増えてない? 新年早々俺を切り捨てたりしないでよ!


 ――しないしない(笑) えー、ごほん。改めまして、この番組は、中高生のみんなに明日への元気と活力を与える、青春全力応援ラジオです。このコンセプトは今年も変わりません。もちろん大学生も社会人のみなさんもぜひぜひ聞いてくださいね。


 ――今日が始業式って人も多いんじゃないかな。冬休みが終わってなんだか憂鬱な人も、番組を聞いて明日も元気に学校に行くぞ! って思ってもらえるようにがんばっていきたいと思います。

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 新年最初の「学校さぁ行こう!」も、優吾はしっかりいつものスタイルで聞いていた。

 机の上にアナログラジオ。

 そこから伸びる有線のイヤホン。

 

 一応勉強していますよという体で、宿題も広げている。そこに、優吾は通学用の鞄から一冊の大学ノートを取り出した。

 表紙には「学校さぁ行こう!」のが貼られてあった。先日の放送で採用された際にもらったものである。彼がそのノートを宿題の横に置いて中を開くと、そこにはラジオの投稿用のメモ書きが所狭しと書かれていた。


(さて、今日もネタを投稿するぞ! 早く次のお題をくれ!)


 先日の放送で採用され、「センスがいい」とまで言われた彼は、職人気取りで若干調子に乗っていたのだった。


 そんなこんなで、楽しいラジオの時間はあっという間に終わりを迎えた。楽しいままで終えられればよかったのだが、ここから優吾にとって苦痛のエンディングが始まってしまったのだった。



 ***** *****

 ――さあ、エンディングの時間ですが……近づいてきましたね、ケイン君。公開収録。


 ――今日も何人か「参加します!」っていうメールを紹介したけど、その逆で「抽選外れました」っていう恨みのメールも結構届いているんだよね。

 ――ほんとごめん。こんなに希望があるなんて思ってなくてさ! 残念だけど外れちゃった人はまた次の公開収録を待っててね。


 ――公開収録の話題で思い出した。これはまた来週ちゃんと言うけど、公開収録に参加する学生のみんなは、よな! その方が青春全力応援ラジオ! って感じがするからさ。

 ――強制じゃないけど、まぁお願いっていう感じかな。もしかしたら私たちも制服着て参加するかもしれないんで!


 ――優子ちゃん、もしかしてセーラー服?

 ――え、そうだよ。入るかなぁ……当時の。お腹周りとか超心配。


 ――当時着てたのを家から持ってくんの? え? 本物ってこと?

 ――違うの? スタッフに探しといてくださいねって言われたけど。


 ――リスナーのみんな、聞いたか? 優子ちゃん、セーラー服で来るんだってよ! おいおいおい! 男子はみんな鼻血出して倒れるんじゃね?

 ――それってどう言う意味なのよ(笑)


 ――ははははは(笑ってごまかす)でもさ、最後に制服を着たみんなで記念撮影とかもできたらいいね!

 ――それいい! 絶対やろうよ!


 ――せっかく盛り上がってきたところだったけど、今週はここまでです。お相手は、ハイド&シークの坂田ケインと!

 ――平木優子でした。


 ――それでは、また来週のこの時間にお会いしましょう! みんな、インフルエンザに気を付けろよ!

 ***** *****



 また優吾の心の中に公開収録に参加できないという、大きな負のストレスがのしかかってきた。

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