剣の花 II: 影の復讐
ミデン
第一章: 静かなる脅威
ローマの朝は、いつものように静寂に包まれていた。
夜明け前の空は淡いオレンジ色に染まり、まだ眠っている街の上に、薄い霧が漂っていた。
かつてのローマの英雄であったリヴィアとマルクスは、今や新たな自由を得て、郊外の小さな村で身を隠していた。
彼らは、剣闘士として血で塗り固められた過去を捨て、静かな生活を求めていた。
しかし、リヴィアの胸中は常に揺れ動いていた。
自由を手に入れても、家族を失った悲しみと仇討ちの誓いは消えることがなかった。
彼女は復讐心を抱えながらも、目の前の平穏な日々に疑問を感じていた。
マルクスはリヴィアを愛し、彼女と共に静かに暮らすことを望んでいたが、彼もまた彼女の心の奥に潜む暗い感情に気づいていた。
リヴィアはある日、市場へ物資を買いに出かけた。
ローマから遠く離れたこの小さな村は、外の世界から隔絶されたかのように静かで平和だった。
彼女が市場で野菜や肉を買い求めていたとき、ふと背後から声をかけられた。
「リヴィア…か?」
その声は低く、何か懐かしい響きを持っていた。
リヴィアが振り返ると、そこには粗野なローブをまとった男が立っていた。
彼の顔は傷だらけで、片目には深い傷跡が走っていた。
しかし、その姿には見覚えがあった。
「アエリウス…?」
リヴィアの口から自然と名前が漏れた。
かつてコロッセウムで戦った剣闘士の仲間であり、今は消息不明となっていた男だった。
アエリウスは微笑みながら頷き、彼女に近づいた。
「久しぶりだな、リヴィア。まさかこんなところで会うとは思わなかった。だが、運命というものは不思議なものだな」
リヴィアは訝しげに彼を見つめた。
彼が何をしにここに来たのか、その目的が全く読めなかった。
しかし、アエリウスがただの偶然でここに来たわけではないことはすぐに感じ取った。
「何をしにここへ?ローマから離れてこんな遠くまで来る理由があるのか?」
アエリウスは苦笑し、リヴィアの耳元に顔を寄せて静かに囁いた。
「リヴィア、セクストゥスが動き出した。奴は今、ローマ中の影で力を集めている。お前の家族を陥れたあの男が、さらに巨大な権力を手に入れようとしているんだ。…そして、奴が探しているのは『古代の剣』だ」
「古代の剣…?」リヴィアはその名を聞いて眉をひそめた。「そんなものが本当にあるのか?」
アエリウスは深刻な表情で頷いた。「ああ。古代ローマの歴史に秘められた、全能の力を持つ剣だ。それを手に入れた者は、ローマを支配する力を得ると言われている。セクストゥスはその剣を手に入れ、さらに権力を強固にしようとしているんだ。奴が手にしたら、誰も止められない。お前が復讐を果たすことも不可能になる」
リヴィアの心はざわめいた。
家族を裏切り、無実の罪で父を処刑したセクストゥス。
その男が再び自分の前に立ちはだかろうとしているのか。
心の中で眠っていた復讐の炎が、再び燃え上がるのを感じた。
「どこに行けばその剣を見つけられる?」
アエリウスは冷静に答えた。「セクストゥスが剣を探しているのは、ローマの地下に眠る古代神殿だ。あの場所は封印されて久しいが、今まさに奴の手が迫っている。だが、あそこは容易に侵入できる場所じゃない。危険が伴うことは分かっているだろう?」
リヴィアはその言葉に迷いはしなかった。「危険は承知の上だ。セクストゥスが手に入れる前に、その剣を見つけ出してみせる」
その日、リヴィアはマルクスに全てを話した。
マルクスはリヴィアの決意を見て、心に不安を覚えながらも彼女を止めることはできなかった。
彼もまた、リヴィアが復讐を果たすために、かつての仲間であるアエリウスと共に危険な旅に出ることを理解していた。
「俺も一緒に行く」マルクスは静かに告げた。「お前一人で行かせるわけにはいかない」
リヴィアは一瞬、彼を見つめた後、軽く頷いた。
こうして二人は、再び戦いへと身を投じることになった。
静かな村での生活は終わりを告げ、彼らはローマの暗部へと足を踏み入れていく。
背後には、セクストゥスの陰謀が迫り、彼らの前には「古代の剣」を巡る壮絶な戦いが待ち受けていた。
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