半年間付き合っていた彼女が、高身長の男性と街中で付き合ってたんだが⁉

譲羽唯月

第1話 半年間付き合っていた彼女が――

「ごめんね、今日は一人で帰るから」

「一人で?」


 授業終わりの、ある日の平日の放課後。

 教室にいた仁見唯人ひとみ/ゆいとは、突然、隣の席の彼女から言われたのだ。


 隣の席の子は、鈴木琴葉すずき/ことは

 黒髪のロングヘアスタイルが特徴的。温厚的で親切な気持ちを併せ持った子であり、唯人は彼女と一緒にいるだけでも幸せだった。


「用事があるの?」


 琴葉は焦っているように思えた。


「うん、そんな感じ。ちょっと急ぐから、私もう帰るね」


 琴葉は通学用のバッグを肩にかけると、すぐに教室から姿を消したのだ。


 唯人は高校二年生で、去年の文化祭の終わり頃から彼女とは付き合い始めた。

 来月辺りで付き合って半年が経とうとしていたのだ。


 琴葉とは恋人として今まで不満なく過ごしてきたのだが、この頃彼女の様子がおかしかった。

 考え事をしている為か、唯人の方から話しかけても、うわの空で少々遅れて反応が返ってくる事もあったからだ。


 まさかとは思いたくはないが、彼女の心が別の方へ向いているのではと、唯人は嫌な予感を覚え始めていた。

 浮気という言葉が脳裏をよぎる。

 その感覚が現実にならないようにしたいが、自分ではどうにもならない事であり、少しだけ不安を感じていたのだ。


 唯人は通学用のリュックを背負い、一人寂しく教室を後にするのだった。




 特に部活に所属していない唯人は、学校を後にして自宅へ向かって歩き出す。


 今から自宅に帰っても特にやる事はない。


 唯人はふと考え、立ち止まる。


 街中によってから帰るか。


 唯人はクルッと方向転換をし、街中へ繋がっている道を歩き始めた。

 街中へ通じている道を進んで行くと、車の行き来が激しくなる。


 街中近くには大きな交差点があるのだ。

 そこで数秒ほど立ち止まる事になった唯人はスマホ画面に表示された文字を閲覧していた。


 街近くの大きな交差点の信号が青になった瞬間から、唯人はスマホを制服のポケットにしまい、横断歩道を歩き出す。


 現在、唯人が歩いている場所は、ファストフードや雑貨屋。カフェなどが存在するエリアである。

 夕方と言う事もあって、制服を着た別の学校の人らとすれ違う事もあった。


 丁度、唯人の瞳に、ファストフード店であるハンバーガー店の看板が映る。


 ハンバーガー店へと入店し、レジ前の列に並び始めるのだ。すると、見知った感じの子が唯人の近くを通り過ぎていく。


 それはまさしく、琴葉だった。


 え……琴葉? どうして、ここに?

 用事って、ハンバーガーを購入する事だったの?


 それだけの事なら用事があるとは言ってほしくなかった。それならば、一緒に帰りたかったと、唯人は内心思っていたのだ。


 唯人は彼女に話しかけようと、その場から動こうとした時だった――


 心が打ち砕かれたのである。

 絶対に生じてほしくない予感が的中した瞬間だった。


「じゃあ、一緒に行こうか」

「はい」


 店内に琴葉と一緒についてきた人がいた。


 その事に気づいた唯人は、その光景を目に動揺していたのだ。


 え……そんなことあるのか?


 唯人の視界の先には、琴葉と、高身長の男性がいた。

 その男性は茶髪で、黒色のスーツを身につけている。

 見る限り社会人のような人で、琴葉も、その男性とは仲良く会話していたのだ。


 茶髪の男性は時間を気にするかのように、高価な腕時計を見ていた。

それから、その二人は隣同士でハンバーガー店を後にしていく。


 本当に……浮気だったのか?


 現実を突きつけられ、ショックだった。

 それ以上に声を出せないほど、心臓が鷲掴みされたかのような心境に陥っていたのだ。


「お客様――、お客様――、ご注文はいかがなさいますか? お客様――」


 会計エリアにいる女性店員から声をかけられていたのだが、唯人は数秒ほど生気を失った顔を見せていたのだった。


 う、嘘だろ……。


 唯人は夕暮れ時の店内にいる。

 注文を終えた後は空いていた席に座り、購入したハンバーガーを孤独に食べていた。


 不味いとかでもなく、美味しいというわけでもなく、ただひたすらに空しいという感想だけが、今の唯人を包み込んでいるのだ。


 いつもの放課後といえば、琴葉と共に学校を後に、街中の飲食店で楽しい時間を共有していた。


 半年間積み重ねてきた思いが崩れ去って行くかのような感覚に陥り、ハンバーガーを食べながら苦しんでいたのだ。


 この頃、琴葉の様子がおかしかったし、そういう事だったんだな……。


 ハンバーガーを両手に持っている唯人は過去を振り返っていたのだ。


 ようやく、自分の中でハッキリとした瞬間でもあった。


 唯人はハンバーガーをトレーの上に置いて、深呼吸をする。

 それからオレンジジュースを飲んだ。


 少し心が落ち着いた頃合い、改めて息を軽く吐く。


 自分自身が好きなモノを口にし、ある程度時間が経過した事も相まって、心の傷が和らいでいくのだ。




 翌日の朝。

 唯人はどんよりとした気分のまま学校に到着し、廊下を歩いていた。

 昨日。家に帰って就寝するまでは良かったものの、朝起きて学校に行くまでが物凄く辛かったのだ。


 琴葉と学校で会わないといけないからである。


 琴葉の事が嫌いになったとかではないが、昨日の一件があってから関わるのが億劫になっていたのだ。


 トボトボと廊下を歩いて、いつもの教室に入る。


 教室内には、すでに彼女がいた。


 琴葉は席に座っていて、教室に入ってきた唯人の存在に気づき、挨拶交じりに手を振っていたのだ。


 唯人は俯きながら自身の席へ向かう。


 彼女とは隣同士であり、関わらないで生活する事の方が難しいのだ。


「おはよう、唯人!」

「うん、おはよ……」

「元気ないね? どうかしたの?」


 琴葉は、今、唯人が考えている事を知らないのだ。

 感情的に問い詰めようとは思わなかった。


「なんでもないよ」


 事を荒立てないように、簡単に首を横に振る。


「え? 具合でも悪いの?」

「そうじゃないけど……今日は一人にさせてくれ」

「なんで? 今日、お弁当も作って来たんだけど。今日のお昼に一緒にどうかなって」


 琴葉は優しく話しかけてくる。

 けれど、唯人はそれを素直に受け入れる事が出来なかったのだ。


 昨日の浮気現場が脳裏をよぎり、唯人は心に蓋をするかのように、いらないと一言だけ告げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る