第9話・それぞれの前世


「あの、ところでお姉ちゃんたち」


「ん? なーに?」


ボクは意を決して、お姉ちゃんたちに

ある事を聞いてみた。


「えっと、ボクは多分前世のあの時に

 死んでから―――

 この世界に生まれ変わったと思うん

 ですけど。


 お姉ちゃんたちは、あの後……

 どうなったんですか?」


まさかボクの後追いをして自殺、とかじゃ

ないとは思うけど―――


それを聞いたお姉ちゃんたちは、

顔を見合わせて、


「アタシの場合、前世は老衰ろうすいかな?

 もう孫もいたし」


あおいお姉ちゃんがあっさりと話し、


「私は事故だったッスかねえ。

 でも60才過ぎだったと思うッス」


「僕は病死であるかな?

 ただ70過ぎだったと思うから

 微妙なのである」


「わたくしも確か、葵さんと同じく老衰~。

 でもまだ孫はいなかったかしら~?」


加奈お姉ちゃんも理奈お姉ちゃんも、

そして詩音お姉ちゃんも―――

あの後、それなりに長生きしたようで

ホッとする。


「だからこそ不思議なんだよねえ。


 みんな、てんでバラバラに亡くなった

 はずなのに……

 こうして同時に、この世界に

 生まれ変わった事がさ」


「そーッスねえ。

 しかもみっちゃんまで、あの時と同じ

 年齢差で生まれてくるなんて、

 思わなかったッスよ」


「言われてみれば僕たち、生まれた場所も

 バラバラだったのに―――

 いつの間にか冒険者パーティーになって

 いたのであるなあ」


「そしてみっちゃんと出会った事で、

 突然前世の記憶がよみがえったんですから、

 これはもう運命ですわ~」


最後の詩音お姉ちゃんの言葉にうなずく。

ボクにしてみれば、あの時の同じ状態が

再現されたようなもので……


「あれ?

 そういえば武田先生は―――

 あの後どうなったの?」


そこでふともう1人、ボクの前世に大きく

関わった人を思い出した。


ボクの担当の女医さんで、彼女もボクの

最期まで側にいた人だ。


すると、お姉ちゃんたちは目を伏せて、


「……武田先生ね。

 みっちゃんが死んでから5年後に

 亡くなったの」


「えっ!?」


思わず声が出てしまう。

だって先生はそんなお年じゃなかった

はずだし―――


困惑するボクに、葵お姉ちゃんがやさしく

頭をでてきて、


「武田先生、みっちゃんを治せなかった事に

 すごく責任を感じていたらしいの。


 みっちゃんが死んだ後、どうしても

 この病気の治療法を見つけてやるって……」


「そーそー。

 それで研究に没頭ぼっとうしたッスよ。


 寝食も忘れて―――

 ありゃ鬼気迫ききせまるイメージだったッス」


葵お姉ちゃんと加奈ちゃんの説明の後、

続けて理奈お姉ちゃん、詩音お姉ちゃんが、


「そして5年後、ついに先生はみっちゃんの

 病気の治療法を発見、確立したのである!」


「医者の執念よね~……


 でもそれまでの過労がたたったのか、

 論文が発表されるのを見届けたように、

 そのまま―――


 って、みっちゃん!?」


ボクはいつの間にか泣いていた。


そうか、先生……

ずっとボクの病気と戦ってくれたんだ。


そしてついに治療法を見つけてくれて―――

それを思うと涙が止まらなかった。


「み、みっちゃん!

 もしかしたら武田先生も、この世界に

 転生しているかも知れないし!」


「そーッスよ!

 私らがいるんだし」


「むしろ絶対先生が真っ先に来ていると

 思うのである!」


「みっちゃんに対する執着……

 もとい患者に対してすごく責任感のある人

 だったし~」


お姉ちゃんたちの慰めの言葉を聞きながら、

ボクは泣き続けていた。


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