僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。
星畑旭
田舎へ行こう
プロローグ 語らなくてもいい僕の話
生まれ変わったら、田舎でのんびりスローライフしたい。
いつか、死ぬ間際にそんなことを考えたような気は確かにした。
それがいつのことで、どんな死に様だったのかとかそういうことは覚えていない。それが最後の願いだというのなら、多分社畜とかそう言う類いの人生を生きたんだろうと予想はつくが、正解を知るすべもない。
ただ、うっすらと残る前世の記憶によると、僕は田舎を持たない子供だったように思う。
東京出身の両親から生まれ、帰省するには疎遠すぎる親戚しかいなかったんだろう。
夏休みになるとよく遊んでいた友達が一人減り、二人減り、と少しずついなくなってしまうのが子供の僕は寂しかった。いつも行く学童保育でも段々と人数が減っていって、お盆前後なんて友達はほとんどいなくなる。代わりに両親は家にいるけれどやっぱり特に行く場所も無くて、都会育ちの両親は二人とも生粋のインドア派だったから、暑いから出かけたくないといつもと余り変わりの無い休みを過ごしていた。
僕はと言えばゲームと宿題の他にやることもなくて、そのおかげで成績だけは良かった気がするけれど、気がつけば夏休みが嫌いな子供になっていた。
そうして夏休みが終わると真っ黒に日焼けした友達に、川で魚を捕ったとか虫取りしたとか、海で毎日泳いでたとか色んな楽しい話を聞かされて、自慢ばっかりされたように感じてしまう。完全に僕のひがみだったけれど、そういう話を聞く度に羨ましくて仕方なかった記憶が残っている。
それもあって前世の僕には、いつか田舎でスローライフしたいという願いが生まれたのかもしれない。その願いは、死んで生まれ変わっても、僕の中から消えなかった。
かつて友達が語ってくれたように、野山を走り回って虫取りをしたり、魚釣りをしたりしてみたい。カブトムシを捕まえたり、蝉を追ったり、縁側でスイカを食べたり。出来れば田舎に住みたいけれど、ずっと田舎にいられなくても数日の滞在やキャンプで良いから、今度こそそんなことをしてみたい。
これから始まるのは、田舎に憧れる僕がそんな前世の夢を叶えるまでの……スローライフを目指す、ありきたりな物語だ。多分。
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