0-16 帝国国立図書館②


 『魔術師殺し』はここ最近で噂になる謎の人物のことを指す。


 新星暦二九九六年六月十八日――――フランドル・タリア連邦北西に位置するタリア領にてとある魔術師の家系である家族全員が変死体となって発見された。身元はすぐ特定され、この土地の領土を管理するタリア公爵とその御家族。

 国の調査によるとタリア公爵の魔術しか検出できず、犯人を特定することができなかったという。


 新星暦二九九六年八月三日――――以前と同国の山奥にてまたもや同じような変死体が発見される。この人物は未だ身元不明で恐らくはフランドル・タリア連邦の魔術師団で小隊長である平民、エドワード・フランクネルだと思われる。小隊の仲間が未だに隊長との連絡が途絶えていたことから推測できた。


 この両名はどちらも優秀な魔術師。そう簡単に倒せるような相手ではない。ここから誰かが『魔術師殺し』の異名を明言した。


 そして、犯人が特定できないまま新星暦二九九六年十一月二十日――――他国でもその『魔術師殺し』による犯罪が起きた。犠牲者はアズガバーナ公国魔術師団副団長、〈獅子の雷ライオネル〉の二つ名を持つ国家戦力級の魔術師マリオネット・オーガス。

 この情報により『魔術師殺し』の名と共に世界各地で広まり、その噂はやがて常識レベルで知られるようになった。


 それから時は経って新星暦二九九七年一月七日――――アズガバーナ公国で新たなる魔術師が遺体となって発見される。その者の名はアズガバーナ公国最上位魔術師テミール・ノノア公爵。アズガバーナ公国魔術師団団長も勤めていた程の実力を持った栄誉ある貴族である。


 そんな大物たちを殺せるのは複数の国家を相手にできる五大魔術師クインテットの称号を持つ者のみ。だが、彼らはそれぞれが会ったこともないと言う。よって彼らが犯人である可能性は考えにくい。


 以上のことより大物を殺害した謎の犯人Xは『魔術師殺し』として名が広がっていった――――。


「――――ふーん」

「……全然、興味無いんだね」

「まぁな」

「……それでね。僕は次『魔術師殺し』が現れる場所を予想したんだけどね」


 いや、まだ喋るんかーい。普通辞めるだろ。


「次来るのはこのザノア帝国だと思うんだよね」

「……へえぇ。なんで?」


 仕方ない。聞いてあげよう。


「あ、やっぱり興味あった?」

「良いから話せよ」

「ごほん。まず一つ、『魔術師殺し』は一カ国に二人の魔術師を殺してるんだよね。僕の母国で二人、そしてアズガバーナ公国二人。だから、次に『魔術師殺し』が現れるとしたら他国という訳」

「ふーん。それだったらなんで帝国が次に現れるってわかるんだよ」


 青年は舌を打ちながら人差し指を振る。うざっ。


「最西方の国から『魔術師殺し』は殺害していってる。西からフランドル・タリア連邦、次に南西のアズガバーナ公国、だとしたら次は?」

「南方のザノア帝国か」

「そう……! だから、僕は次はここだという推測したんだ」


 なるほど。確かにな。

 でも、お前はなんでそんな『魔術師殺し』を知りたがる?


「……お前、『魔術師殺し』を狙っているのか?」


 あいつはフランドル・タリア連邦から来たと言った。だとしたら、『魔術師殺し』を追っていることにも辻褄が通る。


 と、青年はこう言った。


「違うよ」

「じゃあ、なんで『魔術師殺し』についてそんな詳しいんだよ……?」

「趣味だよ」

「…………」

「…………」

「それだけ?」

「うん。僕の趣味。僕、こういう噂話とか大好きなんだよね。なんて言うか、知ってると世界と繋がってるような気がしてさ」

「じゃあ、このザノア帝国に来たのは本当に高等学校に入るためってことか?」

「そうだよ。あれ、言って無かったっけ? 僕が早く来た理由は単に受験勉強に力を入れるためだって。ほら、僕の母国って遠いからさ。移動だけで時間を無駄にしたくなかったんだ」


 言ってねーよ、一言も。


 でも、そっか。お前は本当にあのダイア兄様やエミリーのいる私立タレミア魔術学園に入りたいんだな。

 別に羨ましくなんてないけど。


 ここで青年はオレにこう聞き出す。


「君も私立タレミア魔術学園に入学するの?」

「は……?」


 一体何を言い出すんだ?


「ほら、君。今魔術の勉強してるじゃん。てっきり受験勉強だと思ったんだけど……違った?」

「……これは、オレが魔術師になるために勉強してるだけで学園に入るためとか、そういうのじゃ……ない」

「……へえぇ」

「……なんだよ」

「いや、君変わってるなって」

「そうか?」

「だって、魔術師になりたいならタレミア魔術学園に入学した方がなりやすいのに、入学しないなんて、ね……」

「……良いだろ?」

「そう、だね……。あ、もうこんな時間! 僕は先に帰らせてもらうよ」

「……おう!」


 青年は急いで机にある勉強道具を直して帰る準備をしていた。そして、彼が帰ろうとした瞬間、オレにこう聞いてきた。


「あ、そうだ。君の名前は? 僕はルーク・フランドルって言うんだ」

「ノア・ライトマンだ。魔術師ノア・ライトマン。覚えとけ!」

「ノアくん……。ありがと。君の名前は覚えた……! また会ったらよろしくね!」


 そう言ってルークは図書館を出ていった。

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