0-2 追放
「一緒に遊ぼうよ……!」
「……!!」
ボクはその言葉に腹を立てた。
遊ぶ? 何を言ってるの?
ボクは頑張らなくちゃいけない。
使用人には白い目で見られ、お父様は何もしない。
ダイア兄様に関して言えば、何度も殴られた。
全てはボクが魔術の才能が無いせいで。開花できていないせいで。
だからボクは人よりもできないから、人よりも頑張らなくちゃいけないんだ。
なのに、エミリーはなんて言った? 「遊ぶ」?
そんなこと、できるわけじゃないか。
「エミリー……」
「……? なに……?」
「なんで、ボクを誘うの……?」
「……? だってノア、どこか苦しそうじゃない……? だから遊ぼうよ……!」
「ボクだって遊びたいよ……!!」
「……ノア?」
エミリーは首を傾げる。
「ボクだって……。ボクだって本当は遊びたいよ! でも、遊んだらもう、ここに居られなくなるから……だからボクは今も魔術の練習をしてるんだよ!」
「遊びたいなら遊ぼうよ……!!」
さらにボクの怒りが舞い上がる。
「遊べるなら遊ぶさ! でも遊んでられないからここにいるんだよ!」
ボクの鬱憤が加速する。
「エミリーはいいさ! エミリーは魔法の才能があったからタレミア魔法学園で毎日勉強できてるんだろ……! ボクなんか魔法の才能が無いせいで普通の初等学校すら行かせてもらってない! だから、ボクは頑張るんだ! だからエミリーみたいな余裕は無いんだよ!」
つい怒鳴ってしまった。妹とはいえ女の子に怒鳴ってしまっていた。エミリーは何も悪くないのに……。
すると、エミリーに頬を叩かれた。
「なによ! 私は……私はノアが心配で、だから遊ぼうって言ったのに……。なんでそんなこと言うの……! それに余裕だとか言われても、いつも優秀なダイア兄様と比べられちゃうもん! だから私だってノアと同じように頑張ってるんだよ! そんな言い方しないでよ!!」
エミリーはボロボロと大粒の涙が流れていた。その涙は必死に堪えようとしていても零れてしまうほど大きかった。
エミリーの言っていることは本当のようだった。でも、ボクは納得がいかなくて睨みつけていた。
「ノアなんて知らない!!」
そう言ってエミリーは闘技場を離れた。
突然物静かになった朝、ボクは再び練習を始めた。
だが、脳裏にエミリーの泣き顔が過ぎる。
別に気にしてもいなかった。なのに、ボクはこんな言葉を言っていた気がする。
「……なんだよ」
新星暦二九九二年五月十日
この日、十歳の誕生日を迎えた。
ボクはいつも通りの朝を迎えた。
着替えて、歯磨きをし、朝食を摂る。そこから部屋を出て、闘技場に行く。これが日課だが、今日は違う。
今日は闘技場に一つ寄る場所があった。お父様の書斎だ。
毎年、この日になると早朝に誕生日の報告をしなければいけないのがライトマン家のルールだ。
ボクは闘技場とは反対の方向に進む。
ライトマン公爵の屋敷は広い。部屋は百を超えていて、さらに廊下もいくつもの曲がり角がある。
「「あ……」」
と、その曲がり角で使用人を連れたエミリーと遭遇。
「おはよう」
「……おはよ」
最初はボクから話した。それにエミリーがボソッと言う。
ボクらはそれ以降何も言わなかった。言う言葉も無かった。
窓の外側を見る。空は快晴で雨が降る様子は無い。
良い誕生日を迎えたと、この時はそう思っていた。
※※※※※
「「失礼します」」
ボクとエミリーはお父様の書斎に挨拶する。
「この度ボクたちは今年で十歳を迎えることが出来ました」
この言葉を言うのはお兄ちゃんであるボクが担当。これは実力は全く関係ない。
「……そうか。エミリーも……ノアも十歳になったか」
「はい。なのでより一層、ライトマン公爵の名に恥じぬよう努力します」
「……ああ。そうだな」
お父様はなにか深刻そうにため息をついた。
外から水滴が屋根に落ちた音がした。そしてこの音は段々と強くなり、やがて騒々しくなった。
「……残念だよ」
そう言ったお父様は椅子から立ち上がる。そして、ボクに向かってこう言った。
「お前は追放だ、ノア」
「……え?」
朝、雨の予感さえしなかった空がいつの間にか豪雨に見舞われた。
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