内田 Ⅲ

目の前の男、佐原春香の父親、佐原健二は、僕を獣のような目で睨み付けた。


「何故ここが分かった?」


「息子さんのおかげですよ。危うく騙されるところだった。貴方たち親子は本当に似ていますね。息子さんが、この山で登山サークルメンバーを殺害する計画を企てていたんです。そのノートを発見し、警察に通報してここまでやってきたと云うわけです」


「京子はどこだ」


京子?


すると祐希が云った。


「奥さんなら、自宅で待機させています」


「そうか」


健二は一息ついて、その場に座り込んだ。


「息子さんの居場所はどこですか」


「知らない」


「本当に?」


「僕は一人だけで復讐するつもりだった。わざわざ他人を巻き込むような莫迦な真似はしない」


犯罪者の云うことを信じるか、と思っている反面、彼の言葉には偽りが無いように思えた。


「おとなしく彼を、水下蓮さんを解放してください」


「嫌だね」


健二はあっさりと云った。


「抵抗するようなら、撃ちます。射殺の許可は下りている」


「どうせ長くない命だ、こいつを道連れにする」


「いやだぁぁぁぁぁああああぁぁ」


「黙れ!」


水下の汚い悲鳴を消し去りたかった。僕は怒号を飛ばしていた。


「俺と一緒に墓場まで着いてきてもらおうか」


「たすけてぇえええっぇええ」


祐希は、拳銃の引き金をいまにも弾いてしまいそうだった。


「死ねぇえええ」


健二は持っていた斧を振りおろそうとした。


その時だった。


鈍い斬撃音が響き渡った。


それは、水下ではなく、健二だった。


「ぐぇええ、ゲホッゲホッ……」


左腕を刃で裂かれたようだった。しかし、致命傷にはなっていない。


健二は斧を落とし、その場に倒れた。


健二を襲ったのは、佐原慶次だった。


「け、慶次?」


「父さん……もう、僕たちの負けなんだよ」


慶次は持っていた斧を落として、膝を折った。


「……どうして?」


「こんなことしたって、またこいつらに人生を壊されるだけだ!春香は、帰ってこない」


慶次は獣のように、赤子のように泣きわめく。


それに反応するかのように、健二もうおおおん、うおおおん、と号哭した。


そして、慶次は魂を吐くように、水下に吐き捨てた。


「一体、お前達は、どれだけ僕たちを不幸にすれば気が済むんだよ!!」

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