『アモンカスタの鐘』
やましん(テンパー)
『アモンカスタの鐘』 上
太平洋の南側、南極の近くあたりに、ほとんど誰にも知られていない、小さな島があった。
この島は、どこの国にも属しておらず、今は、地球連合の統治下にあったが、それには、ちょっとした事情があったのだ。
つまり、この島は、かつて、大怪獣、ネサ・ゲラーが住んでいた島である。ネサ・ゲラーが近くに現れると、あらゆる価格、価値、株式、証券、物価、みな、大暴落する。
すなわち、現在の地球連合政府から見たら、まさしく呪われた島である。誰も統治したくはない。もし統治すれば、その国は、たちどころに経済破綻するとも、言われている。
しかし、ネサ・ゲラーは、貧しい民衆の味方の神としても、崇められている。
ただし、現在は、長く、行方不明になっている。
ネア・ゲラーに、食べられたという噂もあった。ネア・ゲラーは、大西洋にねぐらがあると言われる、大怪獣である。最近は、元気に海底に潜んでいることが確認されている。たまに、海面近くにまで上がってきている。
そのためか、世界的な物価上昇が続いているが、ひたすら儲けている人たちもあった。地球連合の幹部たちは、だいたいそうである。
それでも、普段、そこに近づくものは、いないのだ。
ところで、この島には、名所がある。
『アモンカスタの鐘』だ。
島の中央の山に聳える、美しい鐘楼に吊るされている鐘である。
年に一回、『アモンカスタ祭』の時にだけ、船がやってきて、連合議長が鐘を突くのであった。
怠ると、必ずや、世界的な危機が訪れるとされている。
だから、議長は、欠かさずやって来るのである。
ネア・ゲラーは、先の世界大核戦争後、この、鐘の音が、年に一度、太平洋から聞こえる限りは、もはや暴れないと、連合と約束していた。
どうやら、『夜叉ケ池』の本を読んだためらしい。
しかし、今年は、やっかいな事態になっていた。
宇宙海賊タラクーラが地球にやってきて、このあたりを拠点にして暴れていたのである。被害が多発していた。
議長は、タルレジャ王国の女王であり、巫女であるヘレナさまにお伺いを立てた。
すると、次のようなごせんたくが、くだったのである。
『議長が、万難を排し、しかるべき日に島にはいり、しかるべく、鐘を突くべし。しからば、宇宙海賊は、退散するであろう。』
『また、やっかいなことを。しかし、ヘレナさんは、地球平和の要だ。彼女を祭り上げることで、ようやく、世界は落ちついたからなあ。』
議長は、舌打ちした。
すると、シッポック参議が言った。
『だから、チャンスです。彼女の言うことは、理にかなっています。島に上陸できたら、宇宙海賊をだしぬいたことになりますから。彼らは、それをひどく恥とするらしいです。頑張ってください。』
『あのな。一人で行かせる気か? そりゃ無理だろ。』
『そうですなあ。一人のほうが目立ちませんよ。ま、しかし、あのあたりはひどく荒れますしね。まあ、臨時手当てを出すならば、いっしょに行きましょう。年俸一年分。』
『高い! きみは、夜叉か。』
『おう。夜叉けっこう。でもね、議長。それで、地球が、救われるなら、安いもんだよ。』
『きみね。必ずや成功すると言う姿勢だが、相手は宇宙海賊だぜ。映画ではないよ。』
『まあ、強制はしませんが、ヘレナさんから名指しされて、逃げますか?』
『いやあ。ヘレナさんなら、真っ向からやれば、宇宙海賊に負けますまいに。』
『それは、戦争と言うことでしょう。必ずや犠牲者が出る。まずはかいよりはじめよ。また、こうして話し合いしてるまにも、誰かが犠牲になる。すでに、100人以上、犠牲になっていますからね。』
議長には、選択の余地は無かったのである。
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