第82話 釣りロマンを求めて
「リオさんアプラさん、私のツノって街中で目立ったりしないですかね?」
今日はリオとアプラがヒルハにリフオクの街を案内する予定だったが、出かける前になって急にヒルハが自分の姿が街で浮かないかを心配しはじめた。
「周りを見てください」
リオがヒルハにそう伝えると、彼女はダイニングの中を見渡した。
動くフィギュア、金属の玉を凝視しているカエル、ギターの調律をしている羽根人間、あやとりをする猫人、暇そうな男から釣りに誘われている喋る剣。
「そ、そうですね。ツノが生えてるとか些細な違いかも知れませんね……」
そう、ウチはポリティカルコレクトネスの先頭を圧倒的リードで爆走している集団だ。
肌の色とか性別でぐだぐだ言ってる奴らとは面構えが違う。
◇
「なあ、うちの規則上1人で出かけれないから一緒に行こうぜ? 釣りやったことないだろ?楽しいぞ?絶対ハマるって!」
今日はみんな忙しそうで、釣りに付き合ってくれる人が誰も見つからず、先ほどから魔剣を釣りに誘っている。
「そもそも自分で言うのもなんだが、魔剣の俺を『1人』として数えるな!どんだけ寛容なんだよ! あと先日意識が芽生えたばかりなんだから魚釣りなんてしたことあるわけねーだろ!」
「頼むって、新鮮な生き血を捧げるからさー」
「それ魚の血だろうが!いらねーよそんなもん!」
その後も全然釣りに興味を示してくれない魔剣を10分ほど拝み倒し、どうにか釣りについてきてもらうことに成功した。
◇◇◇◇◇
「お、また掛かってるじゃん。 そうそう、竿を立てて寄せて」
「ちょちょ、たもたも、ジュンペーたも!」
「あいっと、よし入った。 おいおい、今日一デカいんじゃねえかこれ?」
「ホントだ!やったぜ!」
あれだけ渋ってた魔剣も、立て続けに魚が釣れるとその楽しさが分かってきたようだった。
「でも釣りってコレ以外にもっと色んなやり方があるんだろ?」
「そうだな、ルアー釣りって言う、小魚や虫なんかに似せた針を使って、魚を騙して釣る方法もあるぞ。 自分でその針を作ったりするのもこれがまた楽しくてな」
地球の釣り道具が封印されているので、延べ竿から糸を垂らしただけのシンプルな釣りしか今はできない。
「ほう、そういう釣りもそのうち……ん?」
魔剣が釣り竿を地面に下ろし、その場で振り返った。
「どうした?」
「……ジュンペー!俺の持ち主が臨戦体制になった! 場所はすぐそこにあるお前達のレストランだ!」
「え?奥田が!? よしすぐ行こう!」
持っていた釣り竿をその場に放り、魔剣と共にレストランへと駆け出した。
◇◇◇◇◇
現場の倉庫レストランへと辿り着くと、店の入り口を数十人の男達が取り囲むように塞いでいるのが見えた。
その男達の視線の先では、ギターを肩に担いで腰に手を当てた奥田が、取り囲んでいる者達を睨み返していた。
(これはヤバい!)
その光景を見た瞬間、地面を強く蹴って一息で加速し、男達の頭上を瞬く間に飛び越すと、奥田の目の前に着地を決めた。
「よせっ!奥田やめろ!」
両手で奥田の肩を掴む。
「へ?」
少し遅れて魔剣が到着する。
「危なかったな…」
「え、いや、先輩、別にこの程度の相手なら先輩に助けられなくても…、でも助けに来てくれたことは、えっと、嬉しくて……その……」
何故か奥田は頬を染める。
「危なかったな魔剣。 奥田がギターで戦って『魔ギター』にするところだったぞ。 魔剣のアイデンティティが失われずに済んで良かった」
「確かに、それは恐ろしいな」
「そんなことするわけないでしょう!!」
奥田から大声でツッコミが入った。
「で、他のみんなは?」
「空き倉庫でパート練習をしてますよ」
「そか。このガラの悪い人達は新規顧客?」
一応彼らのことに関しても尋ねておく。
「なんか港エリアのヤクザみたいなんですけど、私達が泊まり島を通過してローマルに行く便を運行しているのが気に食わないみたいです」
入り口を取り囲んでいる男達の方を振り向いて声をかける。
「初めまして。美咲会のジュンペーと申します。そちらの代表者の方はいますか?」
また威嚇合戦みたいなのが始まるのだろうか。
「あぁん? オメエは誰だよ!!」
いま名乗ったのに誰何されてしまった。
「そちらの要件・要求はどのようなものでしょうか」
「ああ?うるせぇなテメェ!」
全然言葉が通じず、翻訳腕輪の故障を疑っていると、店を取り囲んでいたチンピラの1人がレストランの三角看板を蹴り飛ばした。
真っ二つに割れて吹き飛んでいく看板を目で追うと、視界の隅に奥田がチラリと映った。
「イキッチー、右腕」
奥田がそう呟くと同時にチンピラ達の腕が宙を舞う。
「ちょっ!」
「「「うぎゃあああああああ!!!」」」
瞬きほどの短い時間で、レストラン前が地獄に変わった。
血溜まりの中で肩を押さえながら叫び転がるチンピラ達。
「おい、止血しないと死んじゃうぞ」
そう奥田に伝えると、魔剣が地面に突き立ち、周囲に飛散した血を自発的に吸い上げだした。
そして奥田は左手を前に突き出して詠唱する。
「止血」
ものすごく直接的な詠唱に思わずツッコミを入れそうになるが、奥田の手首に嵌められた赤黒く禍々しい腕輪からは優しげな白い光が溢れ出し、地面に転がるチンピラ達を光が包み込んでいった。
「その恐ろしげな腕輪が白魔法の魔道具なのかよ……」
出血は治まったようだが、斬られた痛みはそのまま残っているのか、チンピラ達は尚も転げ回っている。
「ちょっと応援呼んでくるわ」
そう奥田に伝え、すぐ近くの空き倉庫で楽器練習をしている仲間を呼びに行った。
◇◇◇◇◇
空き倉庫内で楽器の練習をしていたエイナーザ、ネスエ、松下さんと、食事のためにレストランに向かう途中だったリダイを連れて現場に戻ってくると、すでに諸々のお話は済んでいるようで、チンピラ達は膝を抱えて蹲っていた。
中にはずっと『ごめんなさいごめんなさい』と唱え続けているものもいた。
「ジバル一家ってマフィアの仕業だそうで、こいつらはそこの構成員。 美咲会が元ロージン会の生き残りで運営されていることを知って、商会ごと乗っ取ろうとしてたみたいです」
奥田が聞き出した情報を報告してくれた。
「ジバル一家ですか……」
リダイは元同業者だけあってそのマフィアを知っているようだ。
「バリバリの武闘派ですね。 この港にも拠点を持っているんですが、本拠地は泊まり島の中にあります。 主な収入源は人身売買と暴力ですね。傭兵まがいの仕事も頻繁に請け負っていますが、よくこれだけの人数を制圧できましたねぇ」
「奥田が一瞬で全員の足首を切り落としてたよ……」
それを聞いてリダイは顔を青くした。
◇
捕らえたチンピラ達は、前回リダイ達にしたように首から罪状を書いた紙をぶら下げさせて、衛兵詰め所まで歩かせることにした。
もちろんネスエによる真偽の確認は済ませてある。
「それで落とし前をつけに島まで行くんですか?」
リダイが尋ねてくる。
「いや流石にそこまではしないよ。 もう一度来るようなら話を付けるくらいはすると思うけど」
「こっちに被害は出てないんですか?」
このリダイからの質問に奥田が答えた。
「子供達が作ってくれたレストランの看板を破壊されました」
「ちょっ!!奥田!それはいかん!」
背後から黒い気配が立ち込めてくる…。
「今すぐ島まで乗り込んで、きっちりと落とし前をつけさせてもらいましょか」
振り向くとそこには、全身から殺気を滾らせた松下さんがいた。
◇◇◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます