第46話 23800円(税込)
奥田が回復魔法を再現した。
その有益性は計り知れず、今後の広がりかた次第では、これ一本で食っていけるのではないかと思わせるほどだ。
そして皆を巻き込んで、回復魔法の更なる検証を行うこととなった。
「奥田的には『回復魔法』ではなく『白魔法』なんだよな?」
「そうです。怪我の治療だけに留まりません」
「白魔法って回復の他に何があるんだ?」
「ええと、浄化、調伏、解毒、交霊、蘇生、降霊とかどうですかね」
「どうですかって。随分と盛ってきたな」
開発者がそう言うのならば、きっとそうなのであろう。
「じゃあ試せそうなものからやってみるか。ところでさっきの回復魔法ではコストどれくらいだった?」
「火球1発分くらいですね」
「なるほど。十分食っていけるな」
まず初めに『浄化』から試すことになった。
「浄化って何を綺麗にするんだろう?」
「定番だと汚れた水を飲めるようにするとか」
「汚れた水なんてここにないよ?」
「じゃあロッコの靴なんてどう?汚そうだし」
「まああんまり綺麗ではないっすね」
そういってロッコは片方の靴を脱ぎ、それを床に置いた。
「これは浄化のしがいがありますね」
「臭い」
「新しいの買ったら?」
「すごく臭い」
「モノを食べる空間に置くものではない」
散々な言われようだ。
そんな靴の前に立った奥田は、靴めがけて杖を振り下ろし言葉を紡いだ。
「不浄なるものを清めたまへ!!」
また『たまへ』って発声した。
しかしその言葉の適当さに影響されることなく、ロッコの靴はほんのりと光り、ほぼ黒色だった汚らしい姿から、艶のある茶色へと変貌を遂げた。
「まじか……」
「臭い消えた」
「加工したての皮の匂いがする」
「モノが売れなくなる」
「頑丈そうな良い作りの靴であるな」
本当に靴が浄化されてしまった。
もちろん原理なんか微塵も浮かばないが、異世界に詳しくなった今なら言える。魔素だ。
「よかったねロッコ」
オサートちゃんが綺麗になった靴を持ってロッコに手渡した。
「じゃあ次の検証に移るか」
「ちょっと待ってくだせえ!もう片方も綺麗にしてくれないとカッコ悪いじゃないっすか!」
奥田はゴネるロッコのために、もう片方の靴も渋々浄化していた。
◇◇◇◇◇
「さっきの呪われた靴を浄化するのはコスト幾つだった?」
「呪われてはないっすよ」
「火球2ってところかな?」
「怪我の治療よりコストが大きいのか…」
次なる検証は『調伏』だろうか。
「調伏ってなに?」
「敵や悪魔を教化して滅することでしょうか。お祓いですね」
皆が一斉にルシティの方を見る。
「まてまてまて、なぜ私を滅ぼそうとする!そんな魔法を私に試そうとするんじゃない」
「じゃあこれは機会があるまで検証出来なさそうだな」
「今度迷宮に行った時、片っ端から魔物に試してみましょう」
目に見えない悪霊なんて、目に見えないからどうしようもできないしな。
調伏の検証は後日となった。
◇◇◇◇◇
「次の検証はなんです?」
「解毒かな?」
「どうやって試せばいいんでしょうか?」
「服毒する?」
「魔法が発動しなかったときのリスクが大きすぎる」
解毒もまた気軽に検証できなさそうだ。
蜂にでも刺された時がチャンスかな。
「そうなると蘇生も難しそうでは?」
「迷宮の魔物を倒した後に使ってみてはどうでしょう?」
「もし成功したとしても、あまりに冒涜的すぎない?」
「生命云々はさすがに腰が引けるなあ」
これもまた折を見てということに決まった。
「ええと次は交霊?この空間にも霊的なものっているのかな?」
「守護霊とかいないんすかね?」
「いたとしてどうすればコミュニケーションとれるのかな?」
「人形に宿して?」
「あ、人形ありますよ」
そう言うや否や、葵ちゃんが二階へと走っていった。
「葵ちゃん、人形持ってるんだ?」
しばらくして葵ちゃんが二階から降りてきて、テーブルの上に人形を置いた。
「これはまた立派な」
「ダンナたちの世界ってこんな感じの人がいるんですかい?」
「探せばいるかも知れないけど、あまり見かけないかな」
「あ、これのアニメ版は全話観ましたよ」
葵ちゃんがテーブルに置いた人形は、ゲームキャラクターのフィギュアだった。
腕は長くスラっと伸びており、脚は太ももまでの長いタイツを履いてムチムチしている。胸はこぼれ落ちそうなほど大きく、スカート丈はギリギリ中身が見えない程度に短い。
目は強気なつり目で、髪は長いツインテール、口元からは小さな八重歯が見えた。
「これどうしたの?」
「電車にあったやつを持ってきたんです」
「ああ、こないだ取ってきたのね」
「この人形をテストに使っていいの?」
「はい、どうぞ」
奥田が杖を人形に向け目を閉じる。
何かしら精神集中をしているのだろうか。
大きく息を吸い込んでから目を開いた。
「娼館の守護霊よ!我が願いに応じ、この人形に宿りまへ!」
「…………」
「………さすがにか?」
「ダメなのかな?」
「これは失敗だな」
「そもそも守護霊なんて居ないんすよ」
その時テーブルの上にあった人形がロッコをビシッと指差した。
「ちょっとアンタ何勝手言ってんのよ!守護霊は居るにきまってんでしょー!!」
「「「いたー!!」」」
フィギュアに宿った守護霊は腰に手を当てプリプリと怒っているようだったので、あらためて挨拶をした。
「失礼しました守護霊さん。私はこの娼館に住んでいるジュンペーと申します」
「知ってるわよ!私は守護霊よ?ここに住んでる人間のことは全員知ってるの」
「それは失礼しました。ぜひ今後ともよろしくお願いします」
「ふんっ!許してあげるわ!」
この守護霊、そのうちデレてくれるのだろうか?
キレっぱなしのキャラではないよな?
「せっかく身体が手に入ったんだから、ルシティのお料理が食べたいわ!」
「ほう私の料理に興味があるとは、中々に良い趣味をした守護霊ではないか。存分に振る舞ってやろう。ついて参れ」
そう言ってルシティと守護霊人形は厨房へと消えていった。
「あれいつ充電切れるのよ」
「さあ?わかりませんね」
「大丈夫なのかな?」
「守護霊っていうくらいだし、悪さはしないんじゃないですかね」
守護霊のことは一先ず置いといて、次は降霊を試すことにした。
その時、玄関扉が開いてリオとアプラが仕事から帰ってきた。
「「ただいまー!」」
「ああ、二人ともおかえり。ついさっき奥田が回復魔法の再現に成功したんだよ」
「え?」
「実際に俺の傷を一瞬で治してくれさ。あとはあれだ、ロッコの凄く汚い靴を一瞬でピカピカしてたよ」
「は?」
「ん?白魔法だよ。奥田が回復魔法とかを再現したんだよ?」
いまいち伝わってなさそうな様子の二人をそのまま見ていたら、突然リオが動き出して玄関の扉に鍵をかけた。
そして皆のいるテーブルまで歩いてきて言った。
「貴方たち、今度こそ殺されますよ!」
「「「なんで!?」」」
◇◇◇◇◇
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