キング

 この世にはキングと呼ばれる者がいる。それは彼女、遥である。

遥は今日も戦場に薄紫色の長い髪をなびかせ登場する。そして小さい手から赤色の魔法陣を一つ出現させ、魔法陣の中から生まれる魔法でモンスターを即死させる。


「大したことないのね。」


彼女は消し炭となったモンスターを眺めながら言う。小さな身体は消し炭に背を向けてダンジョンの外へと去って行った。


 遥は17歳の高校2年生。身長148cm。『LEO』の実質的な頂点。小柄な体型だが、見かけによらず物凄く強い。『覚醒者』の中では最強。

そんな遥が最強であるのには理由がある。それは彼女の『妹』達のため。カイ、ケイ、風吹、麗華。遥は自分の力は彼女達のためのみに使うと決めている。

遥が『妹』達にそこまで入れ込むのにも理由があった。


それは遥が覚醒してする前からの話である。

遥はその頃、独りぼっちであった。両親を事故で失った。

事故当日。彼女は両親と家族全員での遊園地からの帰り。遥は家族で一緒に……というのが恥ずかしい時期であり、車の後部座席で会話もせず無言でスマホをいじっていた。車に乗り、家族三人で家路についている時。突如として対角線上のトラックが遥の乗る車に突っ込んで来た。

結果、運転席、助手席に座っていた両親は死亡。遥だけが生き残った。

その後は祖母に引き取られる……という予定だったのだが、しかし、遥の両親は祖父母とあまり仲が良くなかった。そのため、遥の元には一定の仕送りが来るだけとなり、彼女は孤独になった。

そんなある日のこと。遥のたった一人の親友が訪ねて来た。

名は麗華。麗華は家族がいなくなってしまった遥の身を案じ、心配して様子を見に来たのだ。


「遥さん、少しよろしいですか?」


「麗華。久しぶりね。いいわよ。」


遥は久々の友人の来訪を嬉しく思っていた。母も父も失ってしまった今、唯一遥の話し相手になってくれる相手だからだ。

遥は麗華の前だけでも笑顔でいようと取り繕う。


「近頃はダンジョンブレイクが怖いですよね。遥さんは一人でも大丈夫なんですか?」


「私は大丈夫よ。こう見えて結構運動神経はいいし。」


「本当に大丈夫なんですか?ところで遥さん。本日、実は手土産がありまして……」


「大丈夫。どうせあなたまた高そうなもの持って来たんでしょう。」


「今回はそこまで高くありません。値段も3万円程で……」


「金銭感覚バグってるわね……」


そうして二人で話した後、麗華がそろそろ帰らねばならないと言い出し、その日はお開きになる。


 麗華が帰った後、遥は部屋の隅をぼんやり見ながら呟く。


「はぁ……行っちゃったなぁ……」


彼女にはやることがなかった。一人でいればあの日のことを思い出してしまう。こんなの、何かをしていなければおかしくなる。


遥はそんなことを考えるが、何もする事がない。学校にも行く気が起きない。そんな日々を過ごしてから数日……

“それ”が遥の前に現れた。薄い水色の画面。そこにはこう書いてあった。あなたは“プレイヤー”になりました。

彼女はその日から、あの日のことを思い出さないように、これ以上誰も失わないように働き続けるのだった。










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