day1 night 最強vs最強

 夕方、完全に配信の内容が鬼ごっこからアウトドアキャンプと化した海野源チャンネルでは渚と海野がゆっくり会話をしながら夕飯を食べる平和な光景が映っていた。


“鬼ごっこ?なんだそりゃ?”


“平和ってええな。”


「渚さ、今何食べてんの?」


「ウーバーでマックを頼みました。」


「不健康だな。」


“美女が部屋でマック食いながら話してんの、想像すると……エッ”


“やばい、ダイエット中なのにマック食べたくなって来た。”


“食え”


「うーん、この塩焼きの魚の身がうまくてたまりませんなぁ……普通は焚き火で焼くんだけど、今回はアイテムボックスあって荷物に制限なかったから七輪持って来ちゃって……」


「マックが届くまで黙ってて下さい。三週間顔見せなかったのまだ許してませんからね。」


「あれ?別に寂しくないとか言ってなかった?」


それから僕が再び焼き魚にかぶりつこうとしている時、大きな爆発が起こる。

爆発による土煙が落ち着くと、先ほどまであった七輪は壊れ、焼き魚は消し炭となって消えていた。


「なっなにー!こ、これは⁉︎今まで食べていた焼き魚は⁉︎」


「私の方で消し炭にさせてもらったわ。」


紫色の長い髪の少女が手から魔法陣を出しながら言う。体格は先ほどまでの四人に比べたら幼い。


「さっきまで私の可愛い妹達を散々いじめてくれていたようね……」


「大丈夫ですか?源。」


途切れていた渚との通信が繋がる。


「うん。大丈夫。彼女は?」


「世界最強と名高い冒険者、キングです。」


「世界最強?」


「来ないなら私から行くわ。」


その瞬間、彼女は20個程の魔法陣を出現させる。

その瞬間、地面からは棘のような岩が何本も生えてくる。

僕はそれを飛ぶことでかわす。すると、地面から生えて来た棘岩達が生き物のようにうねり、空にいる僕目掛けて生えてくる。

僕は回し蹴りでそれらが身体に刺さる前に全て破壊する。

それを見た彼女は『磔』と呟く。

その瞬間、彼女の目の前にある魔法陣から無数の鎖が飛び出し、僕に絡みつこうとする。

それを見た僕は息を大きく吸い、口をすぼめて思い切り息を吹く。

この技は『気功弾』と呼んでおり、僕がこの三週間の修行で得た遠距離攻撃手段の一つ。空気を肺の中で圧縮し、思い切り噴き出すことで強力な空気砲のような攻撃をする技である。

『気功弾』は鎖が出ている魔法陣の中心へと命中し、鎖の出ている魔法陣は壊れた。


「魔法を……壊した⁉︎」


彼女は一瞬驚いたあと、再び真剣な表情へと戻り、

『魔剣顕現 ナハト・シュテルン』

と呟く。すると、空から真っ黒い一本の剣が落ちて来て彼女の目の前の地面へと刺さる。

その剣は何も知らない僕ですら何か手を出してはいけないという雰囲気を感じた。

彼女はその剣を地面から抜き、思い切り振る。

全く剣術の基礎もなっていない振り方。だが、彼女にはそれで十分だったようだ。

魔剣が切った軌道に沿って大きな黒い禍々しい斬撃が飛んでくる。

これに触れたら何をしても死ぬ。そう察した僕は地面へと伏し、斬撃を避ける。

人は彼女の斬撃に伏した相手の姿を見てこう言う。

『敗北』と。

彼女は僕の地に伏せた姿を見てこう言う。


「これで終わり?まあいいわ。私の妹達に手を出したこと、あの世で後悔しなさい。」


彼女にのみ許された特権。それは殺人。彼女は一国並みの力を持っている。アメリカは彼女と平和条約を結んだ程。

彼女が一人いれば日本なんて簡単に転覆できる。

まさに『人間兵器』

僕がここまで追い詰められたことは初めて師に対峙した時であっただろうか。

今このまま動かなかったら確実に殺される。

どうすればこの状況を打開できる?

彼女は魔剣を振り上げているのを見ながらそう考える。

その瞬間、頭の中を駆け巡る16年の思い出。

生まれ、初めて師と出会い、修行して、強くなって、学校に行って、配信を初めて、渚と出会って……

どうにか打開策を……

その時、師ではないある男に言われたことを思い出す。確かその男の名は……思い出せない。

その男は確か言っていた。力を抜けと。武の真髄は脱力にあると。

僕は身体の力を抜く。すると視界がものすごくクリアになった。そして周りの動きがゆっくりと見える。

なるほど。これが……

僕はスッと起き上がり、彼女の剣をかわし、振り下ろされた魔剣の側面に蹴りを入れる。

すると魔剣にはヒビが入り、塵となって消えた。


「なっナハトが……砕けた⁉︎」 


彼女はそう声をもらす。彼女の魔剣は今まで折られたことはなかった。魔剣は彼女の魔力によって作られた剣。絶対に折れることはない……はずであった。

今目の前に立っている男、先ほどまでとは雰囲気が違う。何か触れてはいけないようなそんな恐怖を感じる。

彼女が恐怖を感じたのも初めてであった。


海野流奥義、『不力』


 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る