第1話 誘い side礼

「お兄ちゃん、勇気出して誘ってきなよ。もう付き合ってるわけだし」


 目の前には、呆れた顔をした妹が一人。

 今、僕は妹であるゆずになぜか詰め寄られている。


「えっ、ええ……」

「ええ……。じゃない! バシッとやってこい!」

「いった!」


 柚に背中を思いっきり叩かれた。

 背中をさすっていると、リビングからは弟、また柚の弟であるじんの冷めた視線を感じる。


 そのとき、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。


「仁! ちょっと出てー」

「……分かった」


 柚の命令にさらっと従い、仁は勉強していた手を止めて玄関へ行く。


「仁くん! こんにちはー」


 柚はバシバシ叩いていたとつぜん手を止めて、玄関へ飛んでいった。


「どうしたの? まなみちゃん」


 ちらっとそちらを見ると、玄関にいたのは近所に住む仁の同級生、前倉まえくらまなみだった。

 いつものように、髪をゆるく横で結んでいる。


「私、クッキー焼いたの! お姉ちゃんのお墨付きだよ! おすそわけで~すっ」

「ええありがと~!! うれしい!」


 柚がまなみから、茶色い小さめの袋を受け取る。


「えーっと形はね~、雪だるまと、クリスマスツリーと、星とー。まあ、そのへんいろいろ!」

「へぇ、おいしそう……」


 甘党な仁が目をキラキラさせているのがここからでも分かった。


「あっ、そうだまなみちゃん!」

「えっ、なに?」


「ちょっとうちの長男とかいうのが意気地なしすぎてさ、困ってるだよね~」

「ばっ、なに言ってんの柚!」


 僕は慌てて玄関へ行き、爆弾発言寸前の柚を取り押さえた。

 玄関のドアは開いたままで、この光景が晒されているということに僕はまだ気づいていない。


「あれっ、なにしてんの?」


 柚でも仁でもでもない、けど聞き慣れた声が耳に入ってきた。

 お団子頭にキリッとした目。

 その隣には、少し癖っ毛の黒髪。



「えっ、二人ともデートッ!?」

「俺らって付き合ってたっけ?」

「そんなわけないでしょっ!?」



 まなみたちから総ボケを食らったのは、まなみの姉の同級生の妹でもあり、仁の同級生でもある結花ゆいか

 で、その結花と一緒にいたのは同じく同級生の森宮夏生もりみやなつきだ。


「結花ちゃんと夏生くん、どうしたの?」


 まなみがそう尋ねると、結花はふふーんと楽しそうに笑った。


「はーい、今年もクリスマスを一緒に過ごす恋人がいない人ー!」


 えっ、なにその話題。

 と言えるはずもなく、僕はやっと柚から離れた。


「えー、家族と友達がいればよくない?」


 夏生のだるそうな返答に、結花は少しほっぺを膨らませた。


「まあ、そうなんだけど! って、その会話はさっきもしたでしょ」

「それで結花ちゃん、なにがあったの?」


「結論から言うと、さっき夏生と一緒にお菓子買ってきたの。夜だと外出しにくいから、この辺の皆を集めて明後日クリスマスパーティしようかと思って」


 結花は持っていた袋を広げてみせた。

 皆で覗き込んでみると、定番のから見たことのないお菓子までたくさんある。



「で、夏生はもともとクラスの人とやる予定だったらしいんだけど、この前の中間テストの結果が悪すぎて外出禁止を食らったんだって」


 結花が説明すると、夏生はへへっと笑った。

 外出禁止って、どんだけ点数悪かったの……。



「でもお菓子買いに行ったんだよね? それは外出なんじゃない?」

「柚ちゃん、だいじょーぶ。夏生のお母さんから許可もらったし、あたしがついてるから、変な寄り道なんてさせないわっ! あ、でね、夏生のお母さんから勉強クリスマスパーティの案が出たんだ」


 え、なにその世界一最悪な組み合わせ。

 これには誰も突っ込むことなく話が続けられる。


「森宮長男次男たちがいないとのことなので、森宮家で勉強クリスマスパーティをしまーす」


 真顔で拍手をする結花につられて、まなみも拍手していた。

 すると、結花は僕の方をちらっと見てから、拍手をやめる。


「とりあえず、れいくん以外で駄目って人いるー?」


 な、なに今の視線は……まるですべて悟ったような表情。



 その帰り際、結花にバシッと背中を叩かれた。

 前世自分は、この短時間に何回も背中を叩かれるほどのことをしたのだろうか。

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2024年11月19日 18:00
2024年11月20日 18:00
2024年11月21日 18:00

聖夜の星たち 桜田実里 @sakuradaminori0223

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