ACT.2 三大宗家と婚約者
第08話 転生陰陽師は外にでる
元平安貴族の俺にとって、集まりとは歌を詠むイメージがあって不安になる。
俺は歌が苦手だ。いや、下手だった。
僧侶やかつての同僚にすら呆れられるほど表現が直接的らしい。
その詩詠の才のなさは今後の出世に響く程で、「おまえの祖先に
まったく余計なお世話である。
うっ! 思い出すだけでおなかが痛くなってきた……【秘神】ぽんぽんペイン神に祈りを捧げた。架空の神であるのに心が安らぐのはなぜだろう……。
「歌とか詠む?」
「平安時代じゃないんだから、歌なんか詠まないわよ。
まぁ、そういうのが好きな人もいるけど……」
下っ足らずで若干たどたどしいが、最近意思疎通ができるようになった子供らしい発音で会話を続ける。
「総会」の意味がわからないと思った母が説明してくれるが、俺が訊きたいのは言葉の意味じゃない。
「えっと、そうかいって何するの?」
「簡単に言えば顔合わせ……皆、仲良くしましょうって挨拶ね」
ふむ、狭い業界だから上辺だけでも仲が良いほうがいいってことか。
平安時代でもさまざまな催し物を行い、交友を深めた。
しかし中途半端に互いを知ったからこそ嫉妬や妬みが産まれ、呪い合う貴族や僧侶たちの例もある。
先日、呪術戦を行った者と今日は酒を酌み交わす。なんてことも珍しくはなかった。
アニメで習った言葉にこんなものがある。「昨日の敵は今日の友」
「……めんどくさそう」
「ハハハハハっ! 直毘人は素直だな」
「今日は屋敷の外に出るんだから、しっかり準備するんだぞ?」
「はーい」
釘を刺す父の言葉に返事をする。
幼児を演じるのも慣れたものだ。
お手伝いさんに手伝ってもらって身支度をしていると、
「準備はできたか?」
「もう少しです」
「今日は直毘人の魔力測定もする。婚約者も決まるだろうな……」
「婚約者!」
「ああ、そうだ。婚約者、将来結婚する女の子だ」
「かわいい子だといいな」
「ハハハハハっ! 違いない」
談笑していると白髪の老人……確か御当主と呼ばれていた人物が現れた。
「――
「わかってるよ父さん。息子の晴れ姿なんだからもう少し待ってくれ」
「当主と呼べ……先に車で向かうぞ?」
「わかった」
今まで当主としか呼ばなかったからわからなかったが、どうやら俺は当主の孫だったようだ。
赤子の目ではよく見えなかったが、あれが前当主か……とても武闘派には見えない。
「じいちゃんにあいさつしような……」
「じいちゃん?」
「……なんだ?」
「一緒にいてくれないの?」
「今日は無理だ」
「わかった……」
「………来年はバスを手配しよう。来年は親族皆で行けるぞ?」
「……」
「それに会場には多くの術者の子弟がいる。友達も見つかるだろう」
「うん!」
「じゃあ直樹……」
「分かっている」
「『
「ああ……くれぐれも気を付けろ」
先に出発した祖父を見送ってから俺たちも出発する。
母に手を引かれ、普段は閉め切られた正門へ向かう。
平安時代基準では小さい屋敷だが、この時代の基準では立派な屋敷になるとテレビで学んだ。
門の両脇には大きな松の木が生えており、この屋敷の歴史を物語っている。
「これからお台場のホテルに車で向かう。何があっても父さんか母さんから離れるな」
「離れたらどうなるの?」
「
「……」
平安時代でも確かに食われていたけどまだ昼だよ? そんなにポンポン
「食われたくなかったら大人から離れるな」
えー、もしかしたら何かの理由で白昼堂々と
「
「頼む」
お手伝いさんがいれば運転手ぐらいはいるか……
妙に納得してしまっている自分に驚く。
コンクリートで舗装された路を進むと、数台のセダン車やスポーツカーが止まっているのが見える。
停まっている車は、国内外を問わずどれも高級車ばかりだ。
「本日は混雑が予想されお時間もかかりますので、乗り心地の良いお車で参りましょう」
運転手の提案を受け入れると、車が決まった。
父母は自分でドアを開ける。
「さあ、直毘人車に乗るわよ」
「はーい」
後部座席に用意されたチャイルドシートに固定される。
普通、運転席の後ろに配置されることが多いのだが、なぜか助手席の後ろに配置されている。おまけに隣に座ったのは母ではなく父だ。
何となくだが、その理由が分った気がする。
陰陽の大家と呼ばれる家でも、力を持たない子弟は産まれてくる。
男の適合者は非適合者の女を腹ませたとしても、一定の確率で適合者の子供を作ることができると、前世でも知られていた。
また、複数の子供を残すことができれば、師弟関係による一門ではなく、血による一族を形成することができ、裏切りを生み辛い。最も、分家に立場を乗っ取られることはあるだろうが、『血』が残る。
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