魔物を駆逐せよ!地味少年はフェンリルやドラゴンに転生して全てを喰らい尽くす

無職無能の素人

一章 

第1話 旅立ち ソロ

 俺の人生はクソだった。誰が見たってクソだ。

 無駄な努力は何も残さなかった、同情もされない、そもそも俺を観察する相手がいない。

 だがそれでも俺の人生だ。やり直せるなら同じ人生を歩む。そして小さな後悔を潰していくだけで十分満足だ。だってこれは俺だけの、誰も知らない俺だけの物だ。誰にも奪うことは出来ない。俺が俺の思うままに生きた道筋なんだ。

 それが奪われた。しかも使命だと?ふざけやがって、絶対に許さん!

 何があっても、どれだけ時が過ぎても、必ず復讐を果たし、俺の人生を取り戻す!

 そのためにおれは……おれは…………。



 そんなことをきゅうにおもいだした。

「かあちゃ~ん、ぼくおっちゃんやった!」

 目を覚ませとつねられた。


 ―――――――――


 俺の家は特に言うこともない辺境の貧乏な農家だ。いくら働いても食うのがやっと、ほぼ農奴みたいなもんだ。

 日々生きるためだけに畑を耕し、ほとんどを税に掠め取られる。

 農閑期には苦役があり、その対価は森で薪を拾う権利だ。ふざけてやがる。

 だがみんなそれが当たり前だと受け入れている。親父もお袋も生まれた時からずっとそんな生活なんだとさ。周りの連中も仕方ねぇと受け入れている。

 受け入れねぇ奴は穀潰し、身の程知らずの馬鹿たれだそうだ。嫌だねぇ。


「かあちゃん、水汲んでくるよ」

「あぁ、たのんだよ」

 今日もこの貧乏村で生きるために水を汲みに行く。水汲みは重労働であり、それが8歳になった俺の仕事だ。

 徒歩で30分ほどの距離、水を入れたら自分の体重と同じ程度の水桶を4つ同時に運ぶ。天秤棒2本に2個ずつ下げて合計4つ。

 俺は大人にも負けない村一番の怪力だった。この程度わけない。とはいえ意味も無くこんなに沢山運んでるわけじゃない。

 2つはウチの分、2つは隣を歩く鼻垂れ幼女ん家の分だ。


 汚ねぇ貫頭衣に裸足、痩せた貧相なガキ。なのに嫌な匂いはしないし、薄茶色の髪はサラサラでついチラチラ見てしまう。きっと磨けば大層な美女になることだろう。原石だな。

 だがそんなことは誰も気にしない。このガキももう少し大きくなったら重労働が課せられ、適当に結婚してずっと生きるためだけの労働に勤しむんだ。

 それがこの辺境の当たり前だった。誰もがそうして生きていた。


 だが俺はその中に馴染めなかった。不思議な記憶のせいだ。

 最初は3つの頃、ぼんやりと違う人生が浮かんできた。それから3年、少しずつ記憶が鮮明になり、6つの頃に全て思い出したと思う。


 高い建物、行き交う車、会社、学校、テレビ、スマホ。

 俺は違う人生を生きていた、クソな人生だ。でもそれは俺の人生。

 嫁も子供もいなかったが親兄弟は居た。俺はクソな人生を楽しく生きていたんだ。

 それがいつどうやって終わったのか記憶がない、それが悔しい。何かあったはずなのに思い出せない。

 前のは終わって新しい人生になっただと?ムカつく、どうしようもないと分かっていても怒りが込み上げてくる。俺の人生は一体どうなったんだ。


「あんちゃん、どしたの?」

 思い出し怒りでプルプル震えていたらアホを見る目でアホに見られていた。

「歩きながら魔法の練習してたんだ」

「すごい!さすがあんちゃん!」

 嘘だ、そしてこいつはアホだ。磨いてもアホな美女にしかならんな。

「あんちゃんは力すごいのに魔法も使うのかー!あたしにも教えてー!」

「魔法は生まれつき使えるかどうかきまってるんだ。前に村に来た冒険者が言ってたろ」

 当然俺には使えない。そんな才能あふれる人間じゃねぇんだ。

「あたしが使えるかどうかはわかんないじゃん」

 確かに。でもそんなん俺にはわからんし。てか使えたら悔しいです。


「あんちゃんの力は魔法じゃないの?」

「これは俺が鍛えただけだ」

「うそだー!そんなの見たこと無いもん!」

 たぶん本当なんだよなぁ。そう、今の力は前世の記憶の全盛期と同じくらいなのだ。毎日毎日稽古を積んだあの無駄な相撲道のな。

 記憶がある程度戻った頃はチート転生かと勘違いしたもんよ。だが俺には魔力も無ければ特別なスキルも無い。この世界にはレベルもステータスも無いのだ。

 ただ記憶がだんたんと蘇るのに並行して、前世で学んだ事や前世で鍛えた力が身についていた。ぷにぷにお子様ぼでぃなのに力は底辺力士並なのだ。

 一時は舞い上がったものだが、歳を重ねても特別に成長はしなかった。つまり大人になってしまえばただの力持ち程度に収まるんじゃないか?

 俺にやれるのは子どもの内から大人のように働く事だけなのだ。

 日々の仕事で手が埋まり、騒いで歩き疲れたガキを担いでやることも出来ない。ただ少し力が強いだけなのが俺だ。


 そんな生活を続けて5年、13歳。まだガキだと思うんだが独り立ちの時が来た。


「今行商が来てるだろ、あれと一緒に町に行くよ、兄貴が二人もいるのに居残ってもしゃあないだろ」

 なんて言いながら、兄貴が居なくても村を出る気満々だったんだよなぁ!

 だが何も波風立てる事はない、俺は仕方なく家を出て、家の人間も仕方なく見送るのだ。俺が家を捨てたわけじゃないし、俺が捨てられたわけでもない。そういうことだ。

「あんたが出ていくのはいいけどさ、あの娘はどうするんだい」

 それを言うんじゃねえよかあちゃん。俺にはあの娘は勿体ねぇ。


 鼻垂れ幼女はキラキラ髪の美少女にジョブチェンジしていた。

 ずっと俺にくっついていたし、俺も可愛く思いたくさん助けた。まぁ意識しちゃうのは自然だと思う。こんな田舎じゃ側にいる異性とくっつくのが普通だし、余ったら他所の村のやつと強制結婚だ。


 俺も憎からずっていうか、普通に好きだ。ただな、俺はな、この世界が好きになれない。

 俺の本当の世界は前世の世界なんだ。終わってしまったなら仕方ないが終わった記憶がない。あちらの父母が俺の本当の父母であり、あちらの兄弟が俺の本当の兄弟なのだ。

 なら、あの娘と結婚したら?それは本当の嫁なのか?もし奇跡が起きて帰れるとなった時、迷わずこちらを選択するのか?

 俺はあの娘と一緒には成れない。


「よう」

「あんちゃん」

 だが放置ってわけにもいかない。辛いが頑張ってお別れするんだ。

「俺は町に行くよ、元気でな」

 さよなら、幸せになるんやで。

「私も町に行くから一緒だね」

「ふぁ!?」

 これが「覚悟」ってやつなんですかねぇ。

「俺は冒険者になるんだ、ずっと町にいるわけじゃないし、お前を守ることも出来ない。それにお前はこの村のみんなが好きだろう?」

 俺と違ってこいつは愛されキャラだからな。

「ん?私は働きに出るんだけど?なにか勘違いしてない?」


 にやにやして下から見上げてきやがる、すっとぼけた事を言っているが完全に確信犯だ。

 だが俺には元々その気はねぇんだ、吹っ切れちまってるよ。

「べ、べべちゅに何も無いが?俺は明日もう行くが?」

 俺はクレバーに返した。

「行商のおじさん達と一緒に行くんだね。じゃあ私、急いで準備しなきゃいけないから!」




「まったく騒がしいな、そんなところも最高だぜ」

 俺はその足で町を目指した。着の身着のまま金も無しに。

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