第46話 帰還の挨拶

 空間跳躍をもちいて領都の近くへと飛ぶ。とはいえ実は人の少ない地域をあまり知らないので、村の近くにつなげてそこから移動だ。


「あまり村に近いとまずいんだよね」


 村の人たちは気配を感知したりするのに鋭いから、それなりに離れていないといけない。難しいところだがとりあえずそこまで空間跳躍のゲートをつなげて周りの気配を探り問題ないようなので移動する。


「よし、誰もいないな」


 本当は夜に移動するのがいいのだが、村の近くに飛ぶ以上夜は危険だ。あそこはなんだかんだいって黒い森が近く、黒い森から逃げてきた強い魔物がそれなりにいるのだから。

 誰かが来るかもわからないので、このまま姿隠しのローブを身にまとって移動開始だ。

 街道から離れつつ、領都へ向かう。

 簡単そうに見えるが、道なき道を進むのは普通に時間がかかる。少々早めの移動を心がけつつも、魔物の気配に気を配らなければならないのだから。

 出現する魔物には極力関わらないようにする。どちらかといえば今回はこちらが侵入者だし、そもそも討伐目的で行動していない。それでも向かってくる相手は倒さないといけないので、オプションでサイレンサーをつけた魔導ハンドガンの『スラッグTCC-06』で撃ち殺していく。

 村から離れるほど、やはり弱い魔物ばかりになるのでこの程度の武器でも十分対処が可能だ。倒した敵は箱庭の中に投げ込んでいく。

 夜は箱庭にこもってコンテナハウスで休む。中にいる間は箱庭の出入り口を消せないので、魔物除けの匂い袋を近くの木なんかに吊るしておく。


「見えてきたな」


 領都、ではなくその外壁が見えてきた。とはいえここは村側だ。こっそり回り込んで王都側に移動しないといけない。空間跳躍を使って人知れず移動をする。

 そして街道まで顔を出し、人の流れにシレっとのって王都へ移動だ。


「これで入れますかね?」


 サイバロッサ家の文様が刻まれた印籠を兵士に見せると、その兵士は頷いて門の中に通してくれた。


「領都で変わったことはありましたか?」

「あー、ここじゃねえが領内にダンジョンができたらしいな。もう攻略されたって話だ」

「ダンジョンですか」


 そういえば以前、フォルクスさんが言ってた気がしたな。


「まあそんなところだな。あとは走り小麦の群れがでたらしくって盛り上がってるくらいだな」

「平和でいいじゃないですか」


 走り小麦は低級の魔物だ。倒すと小麦がたんまりもらえる。頭、というか穂でびったんびったん叩いてくるからそれなりに痛いけど、子供でも倒せる魔物。

 世間話をしつつ、先に騎士団の詰め所にいく。


「こんにちはー」

「あ? おお、クラフィか。戻ったんだな」

「はい。着替えさせてもらっていいですか? 屋敷にいきますので」

「気にしなくても良かったと思うんだが」

「礼儀に厳しい人がいるので。体も拭きたいですし」

「それもそうか。分かった」

「あ、これお土産です。みなさんでどーぞ」


 どすん、と魔法の袋から酒樽を取り出す。


「お? あ? 魔法の袋か!」

「北で手に入れまして」


 大がかりな合同依頼を受けたのだ。そこでは色々と物と人の動きがあったから、そこで手に入れことにすればいいとレイズさんからの助言で持ち歩くことにした。

 空間庫を経由しない、お手製の本物の魔法の袋である。


「良いもんをもらったもんだな。とはいえここに置かれても邪魔だ。食堂に置いてってくれ」

「あ、そうでしたね」

「前使ってた部屋、まだ空いてるから荷物は……ないだろうが、まあ着替えとかはそこを使ってくれ」

「ありがとうございます」


 確かに邪魔だわな。

 言われた場所に酒樽を移動させてから僕も部屋にいく。旅装束から騎士服に着替えて、改めて旦那様の屋敷へと向かうのであった。







「クラッドフィールド君、すまなかったね。無事でよかったよ」

「ああ、本当に。迷惑をかけた」

「あ、いえ。え?」


 屋敷についたら旦那様とお嬢様に貴族用の応接室へと連れていかれてしまった。そしてそこで謝罪を受けている。

 なんで?


「……君のような子供を、戦場へ送り出すような真似はしてはいけなかったんだ。君はアリアちゃんの護衛であって、騎士ではない。黒蟻虫人との戦闘経験もあったとのことだしフォルクスも他の人間では不足していると判断したようだが、そもそもうちの戦力として君を数えてはいけなかったのだよ」

「お前が強いのは知っていたし普段から頼りにしていたので、つい……私は止めなければならなかったそうだ。本当にすまなかった」

「や、別に大丈夫です、よ? ですが、はい。謝罪は受け取りました。ですのでもう大丈夫です」


 雇い主で貴族で領主とその娘で、とにかく偉い人たちに頭を下げられるのはとても気まずい。


「そうか。ああ、これは追加の報酬だ。受け取ってくれ。足りなければさらに出そう」

「十分ですよ。それに得られるものも多くありましたし」


 魔法の袋解禁もそうだしグラムスたちのような冒険者ともつながりができた。それにバルバトスとベアトリーチェの二人の存在は大きい。


「そうか。どんな戦いだったのだね? 私も昔、貴族の一員として国からの依頼で魔物の群れの討伐に赴いたことがあったが相手が違うからね」

「あ、女王級はいませんが、他の階級の蟻はそれぞれ何体か持ってきてますので必要であれば提供しますよ。現地でフォルクスさんに言われましたので」

「フォルクスとは別に出発だったな? 現地で会えたのか?」


 お嬢様に聞かれたので答える。


「ええ、何度か。オレが向こうを発つ日までは無事でしたよ」

「そうか。それで各種と言ったが兵士級に戦士級……親衛隊級もいるのか?」

「はい。魔石も抜いてない死にたてのを」


 野生の魔物やダンジョンが乱立している世界だ。魔物の生態についての研究に力を入れている貴族も少なくない。オレも知らなかったがサイバロッサ領にも魔物の研究所があるとのことで、扱ったことがあるか分からない魔物だから持っていけば喜ばれるだろうと言われたのだ。

 魔法の袋を解禁した後だったので、どうせなら持っていけと言われたのである。


「巣穴に入ったのか!」

「ええ。こいつは女王が倒されて巣から逃れようとした個体です」


 女王級が討伐されると統率が崩れるので巣穴の中の黒蟻虫人たちの中には自由に行動をしはじめるものがでてくる。親衛隊級は本来は巣穴の中で女王を守るのが役割だが、女王が死んだあとに外へと出てくる個体もいるのだ。


「素晴らしい。そちらもそれぞれ買い取ろう」

「ありがとうございます。現地だと魔石くらいしかお金になるものはなかったのですよね」


 とはいえそれなりに高い金額で買い取ってもらえたけど。


「ああ、金と言えば洗髪液の件もだな。手紙でのやり取りだけになってしまってすまなかった。あれは我が領での一大事業になりそうだよ」

「オレとしては、苦肉の策だったんですけどね。村だと油が簡単に手に入ってたので」

「はははは、まあおかげで助かっているよ。製法もしっかりしていたのもいいね」

「大量生産に向いているとは思ってませんでしたけど」


 嘘です。そうなるように配合を調べさせました。それとサイバロッサ家で用意できるレベルのもので揃えました。


「さて、君との契約は今後も継続していくつもりだが。夏が過ぎるまでは学園がなく護衛の仕事はないのだよな」

「あ、そうなんですね?」

「通常の護衛は騎士の仕事だからね。領内にいるうちは彼らが護衛だ。君も騎士団と過ごしてくれても構わないよ? 訓練にもなるだろうし」


 まあ護衛は大人の仕事ですね。


「問題がなければ村に戻ろうかと思っています」

「そういえば、あの村出身だったな。先日は世話になったよ」

「ダンジョンってやっぱりうちの村の人らが攻略したんですかね……」

「私や騎士たち、それに領内の冒険者も参加したがね。君たちがいるとずいぶん楽になる。あまり頼りきりにはなりたくないのだが、規模の大きなダンジョンとなるとどうしてもな」

「まあいいんじゃないですかね。お祭りみたいなものですし」

「ははは、君の村ではあれが祭り扱いになるのか。さすがだな」


 色々と買って帰ってくるからね。


「あとで研究所まで案内しよう。今日くらいはゆっくりしていくのだろう? 部屋は用意するか?」

「あ、騎士の宿舎で大丈夫です。自分で使っていた部屋の方が気が楽ですし」

「では部屋はそのまま残しておくように通達しておこう」

「ありがとうございます」


 このあとは旦那様からの質問攻めだ。黒蟻虫人との戦いや、そのときに兵士や騎士がどういった配置になっていたか。敵の規模や他の魔物の対策などなど。オレも把握していないところが多かったけど、可能な範囲で答えた。

 自領内で同じような事案が発生したら対処できるように自分でも内容を理解しておき、さらに記録として残しておくことで後世に残しておくのだそうだ。

 かなり真剣である。

 お嬢様も真面目に聞いていて、時には質問をしてきた。





======


カクヨムコン10に応募中です。

作品のフォローと☆レビューが順位に関係してそうな噂を聞くので、それらが欲しいです。ぜひお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る