第41話 治療の結果
「ではお二人とも、宣誓魔法を使用しますのでその中で宣誓をお願いします」
「「 わかりました 」」
翌日、体を休め頭もある程度クリアになった二人に対し宣誓魔法の使用を宣言した。
オレが魔道具を用いて魔法陣を作動させ、その中で二人がそれぞれ宣誓をすれば終了である。
文言は一応オレが考えたのを読んでもらっている。
「「 怪我をし保護された時より解放されるまでの間に見聞きしたものを許可なく人に伝えることを、クラッドフィールド様の秘密や機密に関することにも口を紡ぐこと。そしてクラッドフィールド様へ決して敵対行動を取らないことをここに誓う 」」
「問題がなければ、魂への宣誓を」
「私、バルバトスは」
「わたくし、ベアトリーチェ=サンドフェルズは」
ん? サンドフェルズ?
「「 我らが魂と我らが生涯の主たるクラッドフィールド様にこの宣誓をするものとする! 」」
「へ?」
「おお、なんと神秘的な……」
「これが宣誓……魂への誓い。クラフィ様への忠義がわたくしの中で形になっていくのがはっきりと分かりますわ」
「ちょっと待って!? なんか変なの混じっていたけど!? 生涯の主って何さ!?」
そんな文言一切用意しておりませんけど!?
「昨夜、ベアトリーチェとしっかり話し合いましてな。命を救われ、四肢の欠損を治してもらい目まで見えるように。これにはどう報いればよいか、どうクラフィ様に恩を返せば良いか」
「このまま国元へ帰っては恩も返せませんわ。ですがクラフィ様との繋がりが絶たれる可能性が高くなるのは確実。クラフィ様もわたくし共から距離を置かれるおつもりでしょう? それに命を拾い手足が再生された我らがどのような扱いを受けるのか……正直想像できる範囲を超えておりますの」
「このままおめおめと帰っては騎士の名折れ」
「どこぞの貴族の嫁にだされるのであれば、自ら認めた主の元で果てる覚悟ですの」
おい、お前は結婚が嫌なだけじゃないのか。
「「 ゆえに我らの忠義をお受け取りください 」」
「嫌なんですけど」
「ほっほっほっ。本当に嫌そうですなぁ! しかし!」
「わたくしたちは決めましたの。一生涯あなた様に付いていくことを。お許しをいただけませんでしょうか」
「いりません、帰ってください迷惑です」
「そこをなんとか!」
「我らにご慈悲を!」
「だいたいこっちは狩人の子だぞ。部下なんかいるか」
「狩人の?」
「ほっほっほっ、ご冗談を! 空間魔法はともかく、これだけの魔道具や魔導施設をお持ちの方が狩人の子? ありえませんぞ」
「ええ。先祖代々より引き継がれていたものなのでしょう? 動くものはほとんどございませんが、サンドフェルズ家にもいくつかこういった古代の品が残っておりましたから分かりますわ」
「うちは先祖代々続く由緒正しい狩人の家系です!」
ここにある品々もご先祖様は関係ありません!
「……とりあえず、リハビリの話を進めるよ」
狩人の話とか騎士の話とか。もう面倒だから一度棚上げにすることにした。
どうせ追い出せばいいだけなんだ。実力行使で問題ない。
「「 はっ! 」」
いちいち傅かないでくれ。
「実はお二人には効果が弱めですが、弛緩剤が体内に入れられていて体調が万全でないようにコントロールされています」
回復後に突然暴れる患者もいるから、サポートドローンでも取り押さえられるように薬が注入されているのだ。
「弛緩剤?」
「聞き覚えがございませんわ」
「……あー。まあ、アレです。いきなり元気になると体に負担がかかるから毒を飲ませて弱体化させているんです」
「「 なるほど 」」
毒で通じるのか。
「それとお二人がつけているバングル、それも魔力の抑制する役割があります」
「魔力を? 十分に満たされていると思っておりましたが」
「そうですわね。抑制されているようには感じられませんわ」
「まあ、魔力に関してはそうかもしれませんが……とにかく、こちらの解除薬を飲んでください」
「あの、それはよろしいのですが……クラフィ様」
「おお、呼びやすくて良いですな!」
「……なんでしょう」
「我らはクラフィ様の部下になりますわ。敬語でお話される必要はございません」
「……はあ、もう分かったよ。とにかくソレ飲んで。体が軽くなるから」
とはいえ宣誓により敵対行動を縛ったからもうその辺は必要ない。とっとと回復をさせることにしよう。
二人が薬を飲む。まあすぐに効果がでるものではないので徐々に体は戻るだろう。
「ふむ、なるほど。随分と楽になりますな」
「ええ、毒。弛緩剤? ですの? それの影響というのはなかなかだったようですわ」
「そんなに早く効かないよ!?」
「いえ、分かりますわ」
「ですな。体力が満たされていくのが分かります」
「えー?」
どういうこと? 治療関連のデータをインストールしておいたサポートドローンに顔を向ける。
そうすると、ドローンのモニターに文字の羅列がでてきた。医療関係だから多いな。
「なになに? 通常は肉体の再生治療の際に強化処理が施されるが、その強化処理の倍率が普通の人間よりも高く作用したのではないかと? 確か強化処理の倍率って二十五パーセントだったよね?」
肉体の再生治療を行う場合は、多くの出血と体力の喪失が起こった後がほとんどだ。そんな状態での治療は文字通り命がけである。そのため肉体の強化処理と通常治療を先に実施して患者の生存能力を高めてから再生治療を施すのだ。
オレの記憶通り『〇』と表示をしてくれるドローン。
「それで、実際の倍率は……バルバトスで二百四十二パーセント!? ベアトリーチェは二百八十六!? どんだけだよ!? 言えよ!? 止めるのに!」
「「 ? 」」
ドローンの表示はアース共通語だ。彼らには読めないのだろう。首を傾げている。
「いなかったから? 緊急事態の宣言を受けていた? そもそも治療途中に止められないしプログラムの書き換えもできない? いや、そうだけど!」
確かにあれからこちらには顔を出していなかったけど!
「てかどんだけだよ。何? 過去には五百パーセントを超える人種が? 慰めにならんわ……この星の人間に強化処理をするときは気を付けないといけないな」
とはいえ再生治療をするときしか強化処理なんかしないだろうし、その場合は調整なんてできない。オレにその辺の専門知識はないし、サポートドローンたちもプログラムされている通りに治療を行うだけであって細かい調整は行えない。
行うには医療関係の資格が必要だ。持ってないし取得もできん。
「あれ? てことはオレに強化処理をすれば同じように倍率ドン! になるのか!?」
未成年の強化処理は統一宇宙軍の軍法規定にて禁止されているって? 知ってるよ!
「……壊れましたわ」
「加減が難しいですな」
「うわぁ……マジでかぁ」
肉体の強化倍率がおかしかった二人。日常的に生活する分には問題ないことは分かったので、次はそれぞれ武器を持って体を動かしていた。
簡単な素振りに始まりそれぞれが大きく体を動かし、右に左に移動するように武器を振るっていた。
ある程度なじんできたところで、身体強化の魔法も使い始めたところでベアトリーチェが持っていたハルバードの持ち手をへし折っていた。
あれ、鋼鉄製だろ? へし折るってどういうこと?
「私もサーベルの持ち手が少し歪んでしまいましたな」
「加減しろよお前ら」
「その加減を覚えるための訓練でしたのよ?」
「そうですぞ我が主よ」
「もっかいバングルつけたろかこいつら」
肉体強化を受けると、体内の魔力のめぐりが良くなるため魔法もうまく扱えるようになる。これは別に不思議ではないのだが、どうやら体内で生成できる魔力量や保有していられる最大量も二人は上昇しているらしい。なんぞこれ。
「近接武器なんてSBランスくらいしかないぞ……ハルバートなんか持ってないし」
「SBランス? 槍ですかな?」
「いや……剣というかなんというか。まあ訓練になるならいいか。どうせ縛りつけてるし」
ぶっちゃけこの星の魔法技術体系は低い。魔導核を用いて魂に誓いを立てる宣誓魔法の解除は不可能だ。
空間庫を開いてSBランスを取り出して二人に貸す。
「それは?」
「魔法の剣だよ。こんな感じ」
グリップ部分に魔力を流すと青白い刀身が生まれる。父さんにも渡したマジックブレードだ。
「ほお、魔法の剣ですか。興味深い……長さの調整まで効くのですか」
「うん。ブレードモードとショックモードと使い分けもできるから。それとこいつなら二人がどんだけ握り締めても曲がることなんてないし」
様々な人種が所属している統一宇宙軍で正式に採用された武器だ。常人の百倍握力がある人種……なんてのは聞いたことないが、普通の人より力の強い人種ならそれなりにいた。
そんな連中が持っても問題ないように、かなり頑丈な素材で作られている。
「ショックモードですか、剣は久しぶりですがやってみますわ」
「ではお相手いたしましょう」
「一応病み上がりなんだから二人ともほどほどにね。というか模擬戦モードもあるからそれでやってくれ。オレは……ちょっと興味が沸いたから試したいことを試してくる」
そう言ってひん曲げたハルバートとへこんだサーベルを預かった。
「どうなさるので?」
「作れるか試してくる」
統一宇宙軍時代から引き継いだ3Dプリンタだが、銃火器は作成できないようにプログラムされている。
では武器はどうか?
こんな低レベルの文化のアイテムを作ろうだなんて考えたことなかったので、試したことがなかったのだ。
上手くいけば魔武器が作れるかもしれない。
預かった武器をスキャナにかけて、更にゆがんだり曲がったりした部分に修正を加える。
二人がまた曲げたりしないように、武器に適した頑丈な金属を選ぶことに。魔化もできるようにしたいけど、そんなに貴重品を使ってもしかたないので素材はブルーオリハルコンを選択。名前こそ立派だが、軍ではナイフや包丁なんかにも使われていたありふれた金属である。
そして3Dプリンタを起動させて数分。
特にエラーを吐き出すこともなく、作業が終わってしまった。
「できちゃった」
できてしまった。3Dプリンタで武器ができてしまったのである。
銃火器が作れないとは知っていたが、こういった原始的な武器は特に制限がないようだ。
せっかくだから魔導核を仕込めるように専用の穴も取り付けてある。これで魔導核をつけかえればハルバードは三種の魔法が、サーベルは二種の魔法が扱えるようになる。
「……どうせなら自分の持ち物を作ればよかったじゃん」
あの二人の武器を作ってどうするのさ。
「何やら試されてたとのこと。どうでしたかな?」
「はあ、はあ、はあ、はあ」
二人のいるところに合流すると、余裕そうなバルバトスと息も絶え絶えのベアトリーチェ。
普段サーベルを使っているバルバトスに一方的にやられたらしい。
「加減してあげなよ」
「武器の問題がございますからな。コレしかないのであればコレで戦えるように鍛えなおさなければなりませぬ。我が主もいかがですかな?」
「……SBランスでの模擬戦か。いいね、久しぶりに本気で戦えそうだ」
木剣や普通の武器での寸止めルールは必要ないので、全力で戦っても問題ない。
「身体強化はなしでいきましょう」
「了解」
始まる模擬戦。あっさりと負けるオレ。あれ?
「も、もっかい!」
「ほっほっほっ。構いませんが、何やら体にかけられておりますな?」
「あ」
過重魔法を解除。今度こそ本気だ!
「……あれ?」
また倒された!? 薄暗い天井が見える! このおっさん強すぎじゃねえか!?
「いやはや、目の調子も良いですし体も全盛期以上に動く。少しばかりはしゃぎすぎてしまいましたかな?」
「目……目!?」
魔力を帯びてる?
「魔眼持ちか!」
「ご存じでしたか。相手の動きが良く見える目を持っておりました。まあだいぶ昔に強敵と戦った際に使いつぶしてしまいましたがね」
「とんでもないのを再生させちゃったな……」
というか肉体強化で体のキレもヤバいし、特別な目による先読みもあるのか!? ぶっちゃけうちの父さんと同格くらいの強さを感じるんですけど!?
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