第31話 説明会

「サイバロッサ家からは二人、ですか」

「ええ。自分は騎士学校を出て中級騎士の位を預かっています。こいつは子供ですが冒険者で6級です」

「なるほど、了解した。騎士と冒険者の二人だと別行動にされる可能性が高い。初めからバラバラにさせてもらっていいか?」


 聞かれてフォルクスさんがこちらに顔を向ける。オレは問題ないので小さく首を縦に振った。


「構いません」

「ではフォルクス騎士はこの札を持って1階の教室に。そっちの子は3階だ。各教室に番号が振ってあるから札の番号に合わせた教室に入ってくれ」

「了解です」

「分かりました」


 学園に通いもう三か月も経つが、見知らぬ大人たちが大量に行きかう廊下は全く違う景色に見えた。


「まだ完全装備をするには早いだろ」

「あいつの武器でけえな。振れんのか?」

「ガキ?」

「あの野郎生きてやがったのか」

「あの男が騎士だと?」


 ちょっと耳を澄ませただけでそこら中からそんな話声が聞こえてくる。武器自慢やら武勲自慢をしている人も多い。


「クラフィ、札だ。説明は聞いてたな?」

「はい、問題ないです」

「おう。オレは一階の教室らしいな」

「オレは三階ですか。しかし、なんで学園に集められてるんですか? 騎士団の本部に騎士学校もあるのに」


 今更ながら違和感がすごい。


「そりゃ向こうはもっと忙しいからだ。武器の点検やら兵站の準備に各騎士隊の部隊調整。騎士学校や兵士団の本部もそうだ。今頃倉庫の裏の裏までひっくり返してるところだろうさ」

「あー」

「そんな状況下で外から人を入れたらわけわかんなくなるからな。そうなると次にでかい施設は城か学園だ。もちろん城にこんなに人を集められんから学園の出番ってわけだな」


 騎士団か国が主導か分からないけど、結構しっかりできているんだな。


「今日は部隊調整とか行動確認とかだろうから解散になるはずだ。終わったらオレを待ったり探したりしないで屋敷に帰っていいぞ」

「終わりの時間はバラバラでしょうからね。了解です」

「そういうことだ。あ、便所には行ける時にいっとけよ。混むだろうし、説明とか始まるまで待ち時間も長い」

「詳しいですね」

「黒蟻虫人じゃあなくてオーガの氾濫が何年か前にあったんだ。そん時は旦那様に付いてきたんだけど、まあ似たような感じだったな。今回は主人が一緒じゃないからあの時より扱いが悪くなるかもしれんが」


 貴族本人がいたら連れてきた護衛は貴族のオプション的な扱いになって、一緒に行動になるらしい。


「ま、とにかく別行動だ。屋敷に戻ったら情報交換をしよう」

「分かりました。では後で」






「いらっしゃいクラフィくん」

「イセリナさん? こんにちは」

「はいこんにちは。適当に座ってね」


 指定された教室に入ると、そこにいたのは冒険者ギルドのイセリナさんだった。他にも受付で見たことのある人がいる。


「まだ時間があるからその間にこの板に名前と所属している家名を書いておいてちょうだい」

「分かりました」


 普段と違う教室、景色こそ少し違うが見た目はあまり変わらないので、たまたま空いていた普段使っている場所にすわる。

 そこにイセリナさんが板書と筆を持ってきてくれた。


「あのお嬢ちゃんは一緒じゃないのね」

「今回は実力不足を理由に引いてもらいました」

「そう? いけないことはないと思うけど」

「お嬢様は実は及第点より上ですね。でも周りの実力が足りていませんでした」


 オレが反対したのはお嬢様の実力不足を理由にしてだけど、一番問題になるのは実は護衛のメンバーだった。

 フォルクスさんでもAランクの親衛隊級には届かない。他のメンバーも訓練は怠ってないが、倒せてCランク。それも一人ではなく何人かで囲んで、といったレベルだ。黒蟻虫人の甲殻を突破して致命的なダメージを与えられるほどの実力者はおらず、実力不足を補えるような武器や魔道具もない。


「そうなのね、せっかく冒険者登録したのにままならないものねぇ」

「しばらくギルドも忙しくなるんじゃないですか?」

「もうなってるわよ? 平民の冒険者の奪い合いが始まってるもの」

「そうなんですね」

「そうなのよ。ここにもそうやって緊急で貴族に雇われたのが多いわ」


 ああ、自分のところの兵士を出したくないから冒険者を雇ったのか。


「普段から指名依頼をくれる家とかからは断りづらいんだよなぁ」

「単純に報酬が美味い」

「ただの人数合わせだけどな」

「お前は普段から貴族に囲われてるのか? なあ、この字で合ってるか? お貴族様の家の名前なんか書いたことねえんだ」

「あ、オレのも頼む」


 イセリナさんの答えに周りがリアクションをとる。ついでに騎士服を着ているオレのところに字の確認をする人も。


「合ってますね。でも全員は知らないですからね。イセリナさんにも確認してもらってください」

「あたしはもっと知らないわよ。事務の子たちに確認してもらって」

「一応見てくれ!」

「はいはい」


 名前の確認なんかをやらされていると、気が付けば教室の席が埋まり立っている人がでるほどに。

 イセリナさんや受付の人が声をかけて別の部屋に行く人もいた。

 出入りが収まったのでと、オレたちの役回りについての説明が始まるのであった。






「じゃあ出発は、そっちは三日後か」

「はい。フォルクスさんところよりゆっくりみたいですね」

「こっちは騎士団と合同チームだからな。冒険者チームよりも人数が多い分移動に時間がかかるんだよ」


 オレもフォルクスさんも振り分けられたのはソンブル領。イグナス領より王都に遠い側だ。

 まだ連中の巣穴を見つけたわけではないらしい。ただ黒蟻虫人の発見数が多いのと、それ以外の魔物の数が減少傾向にあるからおそらくこちら側ではないだろうかと考え、戦力をソンブル領に寄せるらしい。

 イグナス領側はイグナス領自体の防衛戦力と、周辺の領からの応援。それと騎士団の一部が入ることになっている。


「移動までに一週間らしいです。結構離れてますね」

「ま、うちの領よか近いけどな」


 サイバロッサ領は馬車を使っても二週間くらいかかりますからね。そう考えると徒歩で一週間の旅路は近いと考えられるかもしれない。ああ、エアカーとか……なんなら航空機とか輸送機を使いたい。


「長距離でかつ団体での移動は初めてだろうから言っとくけど、なるべく水と食い物は少量でも自分で確保したほうがいいぞ」

「お弁当でも用意しておいた方がいいですか?」

「冗談で言っているんじゃないぞ? 道中で立ち寄った村や街で買える機会があったら買っておけって意味だ。道中のメシは美味くないし量も少ないからな。それと寝袋とかもだ。騎士団側で用意するようなのは穴が開いてたり虫がついてたりしてることがある。一人旅をするつもりで最低限の荷物は準備しておけ。なるべく安モンでな」


 安物で?


「あー、盗られますかね?」

「お前さんみたいな小さいのから盗ろうなんて奴がいたら騎士団や兵士団チームならボコボコにされるだろうがな。冒険者チームの治安はどうか分からん。こっちに追いついてきたらある程度安全だろうけど」

「こっちにも騎士団の人はいるみたいですけど」

「そうか。だけど用心するに越したことはないぞ。このあと買いにいくか」

「そうします」


 空間庫の中に携帯食料はあるけど、パッケージがモロに統一宇宙軍時代のものばかりだから袋から開けておいた方がいいな。カロリーバーとかなら人に見られる前に口に運べるだろう。

 あと干し肉を作っておこうかな。ちょうど熟成中の肉が箱庭にあるし、サポートドローンに指示を出しておこう。

 水は竹筒に水属性の魔導核でも仕込んでおこうかな。


「それと貴族連中に絡まれたら、相手の名前を聞いたうえでサイバロッサの名前を使え。洗髪液が流行し始めてるからうちに逆らおうってやつらには売らないように言うんだ」

「なるほど、わかりました」

「それでもなんか言ってくる奴らがいたら気をつけろ? そういうのは馬鹿かクズだ。何をしてくるか分からん」

「いるんですね……そういう人」

「残念なことにいるんだよなぁ。移動中は馬車の中で大人しくしてくれてるんだが、休憩のときや野宿の時なんかは特に。ああ、町や村についても宿に期待はするなよ? 多分野宿だ」


 温度調整機能付きのローブでも羽織っていくかな。一番いいのは軍服だけど……流石に目立つ。サポートドローンにサイバロッサ家の騎士服に似せて作らせるか。


「まあ普通に足りないですよね……」

「それもあるが、そもそも貴族優先だからな。爵位の高い順かつ先着順だ。これがまた揉めるんだぜ? その仲裁のためだけに王族や公爵家の人間が随行しなきゃならんからな」

「そのためだけですか!?」

「そうだ。あとは開戦時に挨拶もするくらいか? まあ名目としては初陣とか戦闘指揮とかそういう建前があるが、騎士団側からすれば『お偉いさんの一言』で黙らせてもらいたい相手を黙らせることが連れていく目的だ。騎士団の中にも立場のある人はもちろんいるんだが、一人二人じゃ手が足りないからな」


 そ、そんな理由で偉い人を連れていくのか。





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