転生艦長は狩人の子を名乗っています
てぃる
統一宇宙軍時代の話
第1話 宇宙艦『アムールアドニス』
「艦首魔導砲の魔導核を拡散式に変更だ。交換作業が終わり次第発射準備」
「了解しました。拡散魔導砲の魔導核の交換作業を開始いたします」
オレが声を上げると、オペレーターのレッドが復唱する。
「拡散魔導砲の魔導核の残数は残り五つとなりますがよろしいですか?」
「よろしいも何もないだろう。あるものは使うべきだ。ルージュ、ロックオンを。大物には当てなくていい」
「了解しました」
「またどこかの基地で魔力のチャージが必要になりますが……まだ受け入れてもらえる惑星はありますかね」
「赤、その惑星を守るために戦っているんだよ。まあそれはともかく……准将閣下の手腕に期待しよう」
「「「 またそれですか 」」」
全く同じ顔を持つ赤い髪の女性型アンドロイド。三人のオペレーター、レッドとルージュと赤が不満の声が上がる。いや、そんなんオレに言われても困るやん。
「どちらにせよここを突破されたらクラスト爵領太陽系が蹂躙されてしまう。そうなれば人類の帰る星系がまた減ってしまうぞ」
相手がこちらと同じく人間であれば星そのものを蝕むような侵略など起きはしない。しかし此度の敵は宙海獣と呼ばれる謎の化け物である。
魔力が豊潤な惑星にいるような魔物が、宇宙空間に飛び出て来たようなものだ。
厄介なのはその大きさと硬さである。
宇宙イカと我らが軍人内で呼ばれている、一番数が多い敵の全長が約一キロメートル。
外皮が岩と金属の中間のような外皮を持つ。更に質量兵器に対して圧倒的な防御力を持っているため、魔導砲などの魔力依存の魔法攻撃で対処しなければならない厄介な敵である。
続いて宇宙イルカと呼ばれる、宇宙イカを引き連れている集団のリーダー的な存在、こいつは宇宙イカの群れの中に一匹いるかいないかだが、その大きさは約十キロメートルと大きい。宇宙イカと同じく質量兵器に対して圧倒的な防御力を持ち、また宇宙イカと違って衝撃波を飛ばす遠距離攻撃を持っている。
そして目撃数は過去に三件のみだが、出現時には圧倒的な被害をもたらす存在。宇宙クジラ。何のギャグか分からないが、大きさは驚きの五百キロメートルである。こいつだけ明らかに規格外だ。
その大きさゆえにこちらの通常兵器ではダメージを与えることが全くできない。人類側の戦艦は一番大きなものでも十五キロメートル程度だし、そもそも平均的な戦艦が大体五キロメートル程度なのである。こんな規格外なサイズなど相手にできない。
こいつだけはどうしようもないので、発見次第報告&退避が原則である。
「いるんだよなぁ……クジラ」
そう、いるのである。見つけてしまったのである。
しかもあれだけの質量を持つ存在が突然現れたのだ。ワープ的な何かだろう。ふざけている。
もちろん軍人の、そもそも人の義務としてすでに軍には報告済み。軍としても周辺および宇宙クジラの進行方向にあるすべての人類生存圏内への避難指示が開始された。
しかしながらそこで軍から素敵なご命令が一つ。
『特別任務:タケオ=ブルックリン少佐は遅滞戦闘を実施し、宙海獣の進行の少しでも抑えよ』
ちなみに期間は該当地域の避難完了まで、とのこと。
つまり最後尾で敵の足止めをしろとのご命令である。しかも一番でかいモニターですら、一度には表示できないほどの数の惑星から人類が退避するまで。
うん、無理だな。
「タケオ=ブルックリン大尉であります」
『入室を許可する』
「失礼します」
許可をもらい、入室をする。そこにはオレを呼び出したクレドス准将と……ファルム中将?
とりあえず敬礼だ。
「タケオ=ブルックリン大尉であります。お久しぶりですファルム中将閣下」
「よく来たなブルックリン大尉。まあかけたまえ」
「はっ! 失礼いたします!」
この人は宇宙統合軍の中でもかなり過激な思考の持ち主だ。派閥も大きく兵器会社にも顔が利く……つまりこの人に気に入られれば退役後も甘い汁がすすれるのである。
「葉巻は?」
「……お言葉だけありがたく、楽しみ方や作法を知りませんので……」
いきなりの申し出に答えを窮してしまった。失敗だ。
「そうか、作法はともかく楽しみ方を知らないならば仕方ないな」
「ご教授いただければ幸いです」
クレドス准将、睨まないでおくんなまし。
「ふははは、やはり面白い男だ。ならば本題に先にはいるべきだな。准将」
「はい。ブルックリン大尉に辞令だ」
准将がそう言って一枚の辞令書をこちらに差し出す。
「拝見いたします……これは! 自分がでありますか!?」
「驚くのも無理はない。ただ事実だ。それは私が保証しよう。それとこの辞令を受けるのであれば君の階級は中佐になる。何か不満はあるかね?」
「いえ! ぜひ受けたいと思います……ですが自分には艦長職になるための資格が取れておりませんが」
そこに書かれていたのは新型宇宙艦『アムールアドニス』の艦長就任辞令である。これを断るのはよっぽどのバカだ。や、クレドス准将、そんな痛ましい表情をしないでくれよ。
「副長経験は十分と見込んでいる。明日試験を受けたまえ、受けさえすればあとはこちらで何とかする」
わお、何とかするとかおっしゃいましたよこの人。それと頭を抱えるんじゃない准将。
「はっ! よろしくお願いします!」
「うむ。では続いては君の乗る艦の概要だ。端末にデータを入れておく。現物は第七停留所だ。第八ドックに専用のランチが置いてあるから自由に使いたまえ。来週には護衛と運搬の任務を予定しているので今週中に初期設定と試験運用をしておくように。ああ、武装の確認は金曜日の午後に頼む。私も立ち会うからな、時間は追って秘書から知らせる」
「了解しました」
明日試験で明後日に初期設定、か。ダメだな、時間的に余裕がない。明日試験を受けたらその足で設定を片付けよう。
「運用にあたりクルーの顔合わせはございますか?」
「クルー? ああ、君はこのプロジェクトに関わってなかったな。こいつは単独での運用を目的とした戦闘艦だ。艦長である君以外はアンドロイドだよ。噂にはなっていたはずだがね?」
「何度か耳にしたことがあります……この艦のことだったのですね。単操艦の長期運用プロジェクトで機体の保守に強化魔法ではなく時空魔法を用いたとか……」
「その通りだ。艦本体や内部の保管庫、一部の消耗備品類にすら時間遅延魔法による遅延保全処理を施した新型艦で、なんでも通常の艦の百倍もの保全維持能力があるとのことだ……理論的にはだがな」
普通の戦闘艦が大体五十年近く運用が可能なのに対し、こいつはその百倍も運用できるという。百倍なら五千年? 意味わからんわ。技術は常に新しくなるのだからそんなに長持ちさせたところで時代遅れの産物となるだけだろう。そもそも三十年もしたらその艦はすっかり老朽艦の仲間入りである。
ファルム中将もそれが分かっているのか、どこか懐疑的である。
「それは……まあ、とはいえ新型艦運用です」
「であるな。貴賓室には特に力を入れさせてもらったよ」
それは自分で一番使うからではなかろうか?
「最初の任務もデータに入っているので目を通しておきたまえ。先ほども言ったが護衛と荷物の運搬だ。護衛対象は私と私のところの副官、それと秘書達だ」
「はい。目を通しておきます」
「それとすでに運搬の荷物も搬入されておる。軍用の備品と食料品などだ。それと試験運用の際には当星系から抜けないようにな」
「それですと空間跳躍試験ができませんが……すでに実施はされておりますか?」
「うむ。そちらもデータに入っておる」
「了解です。他に注意事項はございますか?」
「そうだな、こまごまとしたものがあるがこれ以上は准将の職務の妨げになろう。中佐の今日の予定は?」
「主に書類整理ですが、艦運用の辞令がきましたのでそちらを優先せねばなりませんね」
「であればサロンに付き合いたまえ。葉巻についても教えてやろう」
「ありがとうございます」
「では行こうか。君の魔法には期待しているのだよ」
「魔法ですか? ああ、了解です」
オレの魔法っていうと、空間庫のことかな。オレ自身は魔力が多いが適性が限られていて覚えられる魔法が多くない。だって無属性魔法と空間魔法にしか適性がない上に、空間魔法は規制がかかっているものが多いのである。
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