第一章 エルフの少女と閉ざされた心
第1話 こんにちは異世界
「おふっ!」
ドシンッという衝撃とともに俺は目を覚ました。広い天井、そして豪華な装飾が施された部屋が目に入る。家具や調度品のすべてが煌びやかで、今までの人生で見たこともない高級感に溢れていた。
――ここが異世界か。
現実感が薄いまま、ぼんやりと周囲を見渡していると、ふと目の前に小さな影があることに気づく。
俺の胸の上に、幼い女の子がちょこんと座っていた。ぱっと見て、4、5歳くらいだろうか。大きな瞳でこちらをじっと見つめている。
「お兄様、おはよう!」
笑顔を浮かべながら、幼女は明るい声で挨拶してきた。
お兄様……?
その言葉に戸惑う。いや、確かに俺は転生したんだ。この身体の持ち主には「妹」がいるということか?
「お兄様?」
返事がないのを不思議に思ったのか、女の子は首をかしげながら俺の顔を覗き込む。
正直、妹ができるなんて想像もしていなかった。しかし、幼い子供と話した経験なんてない俺は、どう対応すればいいのかわからず、しばらく固まってしまう。
「朝だよ!もうお父様もお母様も食事の席についてるんだから!」
妹は再び明るく声を張り上げる。
「……もしかして、俺を呼びに来てくれたのか?」
「そうだよ!毎日お兄様ってば寝坊するんだから、私が起こしに行くの!」
自信満々に胸を張る妹。その様子がなんとも微笑ましく、自然と頬が緩む。
「そっか、ありがとう。わかったよ、じゃあ一緒に行こうか。」
「うん!」
妹を慎重に床に下ろそうとしたが、思いのほか重たい。
……そうだ、今の俺もまだ子供なんだった。
ベッドから立ち上がり、妹と一緒に部屋を出ようとした瞬間、扉が静かに開いた。
「……!」
驚いてそちらを見ると、扉を開けたのは一人の女性だった。長いスカートを揺らしながら立つ彼女は、メイドのようだ。
いつからそこにいた?
気配を全く感じなかったせいで、扉が勝手に開いたと錯覚してしまった。
「お兄様、早く行こうよ!」
妹が急かす声に、俺は気にする暇もなく廊下に出た。しかし、扉を開けたメイドの表情――いや、表情がまるでないことが、わずかに胸に引っかかった。
広い食堂に足を踏み入れると、すでに家族が席についていた。
長いテーブルの奥、最上席に座るのは父親。その横には母親が品よく微笑んでいる。そして俺の隣の席には妹がちょこんと座っていた。
「遅いぞ。」
父親が短く一言。鋭い眼差しが俺を刺す。
「すみません。」
俺は自然と頭を下げていた。前世の記憶があるからなのか、体が勝手に反応する。
「食事は時間を守れ。それすらできないようでは、他の何事も成し遂げられん。」
父親の声には怒りはない。ただ冷たく、厳格だった。それがかえって俺の心に響く。
母親は特に口を挟むことなく静かにスープを口に運び、妹だけがにこにこと俺を見ている。
使用人たちは淡々と食事を運んでくるが、どの顔も無表情だ。
誰一人として言葉を発しない。動きには無駄がなく、それこそ機械のように。
「お兄様、早く食べないと冷めちゃうよ。」
妹の無邪気な声が、その場の空気をほんの少し和らげる。俺は彼女に苦笑いを返しながらナイフとフォークを手に取った。
テーブルに並ぶ料理は、見たこともない豪華なものばかりだった。
焼き上げられた肉に色鮮やかな野菜、スープからはほのかに香るスパイスの匂いが漂ってくる。これが異世界の料理か。味は……予想以上に美味しい。
だが、食べながらも視界の端に映る使用人たちの無表情が気になる。
「この家の人たちって、こんな感じなのか……?」
俺は心の中で疑問を抱きつつも、食事を進めることに集中する。
食事が終わり、父親が俺に向き直る。
「さて、食事を済ませたら庭に出るぞ。魔法の練習をする。」
「魔法の練習?」
聞き返す俺に、父親は冷静に頷いた。
魔法。そういえば、女神が転生時に言っていたな。俺には魔法の適性を最高レベルにしてくれると。
「わかりました。」
俺が答えると、父親は何の感情も見せず立ち上がり、使用人に視線を向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます