プロローグ 4


 朝の六時丁度にエディスは目覚めた。

 スッキリとした目覚めだ。寝起き特有の倦怠感などなく、平時と変わらぬ感覚を即座に得る。

 気絶するように眠った為に姿勢も悪いがエディスの魔法能力ならばそんなことは関係ない。


 起きると同時に立ち上がり、草塗れになった自分の体を見て魔法を行使する。

 <浄化>クリーン

 魔法は態々詠唱──口に出す必要は無い。魔法の詠唱というのは補助具の様なモノ。詠唱すれば確かに楽だが言わないなら言わないでどうとでもなる。

 勿論本人の気合などの精神性で魔法名を叫ぶことがある。魔法は精神の世界だ。精神力が高い者こそ最も魔法能力が高い。


 自らの体を綺麗にする魔法を使い汚れを綺麗さっぱり消滅させたエディスはついで探知魔法を行使する。


<魔力探知>マジックサーチ


 今度は詠唱する。それだけ気合を入れているという事だ。

 使ったのは名の通り魔力を探知する魔法だ。と言っても一定以上の魔力のみを探知する。

 使用目的はモンスターの探知。人や動物に限らずモンスターだって魔力を持っている。モンスターは其処らの野生動物よりも魔力を有している為に魔力探知が通じる。

 モンスター討伐の依頼分の討伐は終わったが別途モンスターを倒し素材を得ればその分の金は手に入る。追加で金を得たいからこその探知。

 と言っても強力すぎたり金になりすぎるのを倒す訳にはいかない。都会と言う訳ではないのだから金になるモンスターを倒したとしてもそもそもの換金分の現金が無いのだ。

 そもそもこの周辺にそんなに金になるモンスターは出現しないが。


(……なんか変なのあるのな)


 そして、エディスは妙な反応を発見する。多数あるモンスターの反応に紛れた奇妙な反応だ。

 魔力の種類としては魔法道具マジックアイテムが近いだろう。

 だがここは森の中だ。魔法道具マジックアイテムなど有る訳がない。

 それに早朝となれば人もいるはずもないのだから、他者が持ってる魔法道具マジックアイテムというのも考えにくい。


 何か気になったエディスは反応したものを探しに行くことにした。


 森の中を歩く。

 草木が邪魔をしそうだがこういう時も魔法の力は便利だ。

 行使する魔法名は<森林渡り>フォレスト・ウォーク。草や木の枝などによって己の移動と視界が阻害されない魔法だ。

 欠点としては攻撃した際は普通に木々も傷つけるところだろうか。

 便利な移動手段を用いれば目的地には直ぐに辿り着く。


「ミミック?」


 エディスの口から思わず、と言った風に言葉が漏れ出る。


 宝箱──木で型を作り金で枠を固め、装飾が施された木製の箱。

 ダンジョンなどでよく見かける宝箱が森に合った。

 実に不気味であり不自然だ。森の中に宝箱が一つポツンと置かれているのはある種滑稽にも見える。

 これが台座に刺されていた剣等であれば絵に成るのだろうが、あるのは宝箱だ。


 だが、宝箱が森の中にある訳がない。

 となると有り得るのはミミックと言うモンスターだ。

 宝箱に擬態する事で宝を欲する生命──主に人間等の魔法道具マジックアイテムを持つ者を捕食するモンスターだ。主食となるのは人間等ではなく魔法道具マジックアイテムであり、魔法道具マジックアイテムを効率よく捕食するために魔法道具マジックアイテムを持つ人などが近づく宝箱の形になったという歴史を持つ。

 攻撃力こそ非常に高いが反面防御力が低いモンスターであり一般的な冒険者ならば一口で食い殺されるだろう。

 更に厄介なのが擬態能力の高さ。視覚情報ではどうやってもミミックと認識でないうえ魔法を使った探知すらも欺く。

 だが何事にも言える事だがこの擬態は格下にしか通じない。圧倒的格上であるエディスにはミミックの高度な擬態能力など無いも同然。


 エディスの感知に引っかかったのだ。ミミックが有する魔力とミミックの腹の中にある魔法道具マジックアイテム。両方を感知した結果妙な探知結果になった。

 それがわかったエディスは肩を竦め、無防備にミミックに近寄る。


 近づかれても尚ミミックは動かない。

 動かぬミミックを前にエディスはしゃがみ、観察する。

 数秒の沈黙ののち意を決してミミックをエディスは開く。

 開けば当然、ミミックが口を開き牙の付いた口を開くものの──


「ふん!」


 全力で殴打。

 エディスは拳を握り、力任せにミミックがかみつくよりも先に拳を振るう。

 エディスの拳を受けたミミックは動きを停止し、絶命する。


 死んだミミックは光の粒子となりエディスの冒険者カードに収納される。


 ミミックを倒すと低確率で魔法道具マジックアイテムをドロップする。

 ミミックが魔法道具マジックアイテムを作る能力を持っている、などという訳ではない。これまでの捕食した者達が所持していた魔法道具マジックアイテムが見つかる事がある。

 ミミックの主食は魔法道具マジックアイテムだ。それが消化される前でないと魔法道具マジックアイテムとして会得出来ない。だからこその低確率で落とす。


 エディスは冒険者カードを確認し倒したミミックが何かしらのドロップアイテムを落としてないか確認する。


(あ、落ちてた)


 冒険者カードを操作しドロップアイテムを確認する。


(伝言帳? 変な名前だな)


 されど気になりエディスはドロップした伝言帳を実体化させる。


 冒険者カードのアイテムランをタップする事で現れたのは一見すると普通のノートであった。

 有り触れた素材で作られたノートであり、表紙に大きく伝言帳と書かれているところ以外は特徴が無い。


 気になり、何となくエディスは開いてみる。

 それはまるで日記帳の用で、一つずつ枠が定められている。

 そして、枠のうち二つが埋められている。


「なんだこれ?」


 内容はこうだ。


 "遠くの相手と会話が出来るという魔法道具マジックアイテムを手に入れた。これがそうなのだか使い道が分からない。

 のでとりあえず書くだけ書いておく。詳しい使い道は明日鑑定を頼むとする"


 次の内容もあっさりとしている。


 "鑑定結果これは二つの魔法道具マジックアイテム間で文字をやり取りできるらしい。

 その為一つしか持っていない状態では何の意味も無い、ただの日記にしかならないとの事。

 もう一つが何処にあるのかもわからないので、もしこの文を読んだものがいるならば返信してほしい"


「……」


 どうするか。エディスは頭を捻らせる。

 遠くの相手と連絡が取れる魔法道具マジックアイテムは有り触れているし、文字しか使えないというのも探せばあるだろう。

 問題はこの魔法道具マジックアイテムがどちらなのか、という所だ。

 つまりこの魔法道具マジックアイテムが二つの内どちらであるのか。これを書いた者が捨てた、あるいはミミックに食われて死んだのか。

 書いた者の魔法道具マジックアイテムではなく受信した方の魔法道具マジックアイテムなのか。


 使用済みの魔法道具マジックアイテム、使い道をエディスは考える。

 解体して素材に戻すか、専用の業者に頼んで文字を消してもらった後で売るか。

 エディスは戦闘能力こそ高いが魔法道具マジックアイテムを作るなどの加工能力を有していない。

 その為に既に文字が書かれているこの魔法道具マジックアイテムを売るとなるとひと手間いるのだ。


 だが、エディスが出した結論は。



(取り合えず持って帰って……返事でも書いておくか)


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