プロローグ 2
冒険者ギルドを出た後。エディスは一人ギルドを出て町の中を歩いて行く。
依頼を吟味し、受注までしたとなると時間は相当かかる。時は過ぎ去り太陽が眩しい程に輝き出し、大地を照らしている。
そして照らされた大地には人々が動き出す。
家から、あるいは宿から出て己の職場に向かう者もいれば、武装し、冒険者ギルドに向けてあくびをしながら向かう者だっている。
そしてエディスは少しばかり端により、歩いて行く。
エディスはでかい。百八十二センチメートルもあるのだから仕方のない事だがこれだけでかいと周囲に威圧感を与える。
故に端によって少し窮屈になりながら進む。歩道と言えどエディスが真ん中を歩けば周囲の邪魔になるのは目に見えている。
そして他の者達はエディスに若干引きながら、それを顔には出さぬように努力してその横を通る。
エディスが引かれているのには理由が二つある。
一つは単純にエディスの身長。デカいというのはそれだけで引かれるのに十分な理由だ。
そしてもう一つはエディスがソロの冒険者、という事だ。
冒険者という仕事に置いてソロと言うのは推奨されていない。
理由は当然危険だからだ。冒険者はモンスターと戦う命がけの職業。ならば当然仲間の有無は己の生死に関わるし、モンスターとの戦いにも関わって来る。
数とは力だ。一人では勝てないモンスター相手でも一体相手に四人がかりで襲えば勝てるし、モンスター相手に深手を負った際も仲間が要ればモンスターを倒して傷を治してくれる。
仲間がいないという事はそれだけ死の危険性が高いという事。冒険者ギルド側もパーティを組むのを推奨している。
そうだというのにソロという事は相当な訳アリという事であり、理由は凡そ二つに分けられる。
一つが単純に他人と付き合える性格ではなく、何かしらの問題を起こす等の人格的な問題を抱えている。二つ目が圧倒的な実力を有し、仲間が要ると逆に邪魔になるか。
この場合エディスは両方に該当する。
共同依頼──何かしらの護衛依頼を受けた時や町の外で一時共闘しモンスター退治などをしたときにエディスは相手の厚意全て断っている。
助けてもらったお礼を、と言ってもエディスは不要の一言で断り続けている。
そして実力だ。エディス一人でこの街の住人全員殺し尽くせるぐらいには強い。
当然冒険者全員、町の治安維持の為の騎士等全てを含めてだ。
自分以外の全てを殺し尽くせるだけの力をエディスは有している。
これは鍛錬や努力して得た力ではない。エディスがこの世界に来た時に与えられた力であり、端的に言えばチートに過ぎない。
故にエディスは更に人と付き合うのが苦手になった。特に同業である冒険者を相手にするのは苦手だ。
他の冒険者達が四苦八苦し、長年努力し鍛錬し力を得ているのに対し自身は何もせず得た力でずるをしている。その感覚がどうやっても抜けないエディスはそもそも関わらないという選択肢を取った。
ただ、それ以外にも人と関わらない理由は多数あるが。
結果、エディスは一人で冒険者として活動する非常に珍しい人物となっていた。
その上でCランクと言う高位のランクだ。話題にもなる。
冒険者のランク決めはパーティ単位だ。パーティとしての能力を測り、SからFのランクに裁定される。
つまりたった一人でCランクとなったエディスはランク以上の実力を有しているという事にもなる。
エディスは考えながら足を進める。
(やっぱどうしても注目浴びるよな……やっぱりランクが高いのは……でもランク高くないと金が手に入らないし……)
何度も考えた思考を繰り返し、自分の人生の最終目標について考える。
エディスの最終目標は一人で暮らす事だ。
異世界の魔法と言うのは凄まじく、単独での生存を可能にする。
異空間の形成から食料品の創造など、人が想像できることは大概なんでも出来る。
極まった者──あるいは単に特化した者ならば死者の蘇生すら簡単に行える。
であれば、自分だけの家を作り食料も服も道具も全て魔法で作れば一人で暮らすぐらいは出来る。
流石に娯楽までは作れないが、それでもエディスの魔法能力ならば記憶を掘り起こし故郷である日本の漫画やアニメを魔法で再現するぐらいならば出来る。
故にエディスは一人で生きていく事を望んでいた。そもそもが他所の世界から来た余所者であり、この世界の住人にとっては邪魔者に過ぎないとエディスは思っている。故に他者とのかかわりを避ける。
だからこそ金がいる。一人で暮らしていけるが一人で暮らせる場所がまずないのだから。
金を得て土地を買い権利を得て、正式な手順を得たうえでエディスは一人静かに暮らしたいのだ。
確かに人類未踏の大地にでも行けばそんな手間も要らないだろう。だが魔法を使えるエディスの寿命は長い。
その気になれば千年以上生きることが出来るだろう。それだけの長い間生きていれば今人類未踏の地であっても二百年後等には普通に近場に人類が居る場所になる。
そうなると後の利権などで絶対にもめる。そうならないように正式な手続きをして対価を払い一人静かに暮らせる場所をエディスは求めている。
大丈夫。人と関わる必要なんてない。どうせ暫くすれば誰とも関わらなくなるのだから。
エディスが自分にそう言い聞かせながら進むと気づけば門に着いていた。
非常に大きい門であり、馬車が三大横並びで通れるほどには大きい。
その横には扉があり、その前には衛兵が佇んでいる。
門の横に居る衛兵にエディスは視線を向ける。仮面越しでも衛兵は視線に気づき衛兵はエディスを見つめ返す。
衛兵よりもエディスは背が高い。したがって自然衛兵はエディスを見上げる形になる。
「外に出たい」
「……了解した」
それだけで会話は終わり、衛兵は門の横の扉を開ける。
一々あの大きな門をくぐることは無い。あれだけ大きければ毎度開けるのも苦労する。
故にただの人の場合は門など開けない。これが馬車等であれば当然話は別だが。
エディスは門を抜け、依頼先である森へと足を進める。
門を出た先は平原だ。一切の地形の起伏が無いなだらかな地形。
遠くを見てもあるのは森だ。その森でさえも最低でも二キロは離れている。
道もまた整備されていない。町の中と違い石等で舗装されておらず形だけ整えた、という感じが強い。
土をそのままる程度均しただけの道の上をエディスは走り始める。
とん、とんと地面を軽く蹴る様に走れば──森が眼前に着く。
圧倒的な移動速度。単純な自己強化の極致。
何も努力せず苦労する事無く得た力に罪悪感を抱き便利な力だから仕方がない、と自己弁護すると同時にこんなものに頼らず努力しろという相反する心の声をエディスは努力して無視する。
エディスの今のところの最高時速は凡そマッハ五程だ。その速度ならば二キロ程度近所だ。
それにこの最高速度もエディスの体感に過ぎない。更に言えばエディス自身もっと速度を出せる気がしたが怖くなり途中で辞めたので実際には更に速度を出せるだろう。
森の中では流石に速度は出さず、歩きで移動する。
ただその歩き自体も可笑しい。確かに一見すると動きは歩行のそれと同じだ。だが動作の速度が速すぎる。
これもエディスが手にしたチートの応用。自己時間の加速だ。
自分の時間のみを加速する事であらゆる動作を早く終わらせれる魔法の一種だ。当然自分の時間を加速することによって寿命が早まる、などと言ったデメリットは一切ない。
一定以上の実力者ならば意識的、あるいは無意識的に行っている動作に過ぎない。
そして動きは普通の歩きの癖に圧倒的速度で移動するというある種気持ち悪い動作でエディスは目的地にたどり着く。
着いた先は洞窟だ。
地面が大きくえぐれ、土どころか岩まで露出し始めている。
森に多数あるモンスターの巣の一つ。その中でもここはゴブリンの巣だ。
(さて、行くか)
心の中で自分を鼓舞し、エディスは洞窟の中へ足を踏み入れた。
洞窟の中は暗い。位置的にも陽の光が届かないのと、洞窟に住まうモンスターにとっては光など要らないからだ。
一部のモンスターは種族的に暗視能力を有している。光が一切届かぬ闇の中だろうとモンスターは昼間の様に見通せるのだ。
勿論エディスも──というよりは一定以上の実力を持つ魔法士は暗視の魔法を使える。ならば松明などの明かりは不要。
闇の中。隠れることなく進めば当然、洞窟に潜むモンスターに気づかれる。
「ぎぎゃ!」
闇の中から現れたのは小さなモンスターだ。
エディスの体躯の半分も無い──一般的な子供程度の体躯を持つモンスターだ。
半裸、腰みのを付けただけの裸に限りなく近い姿。靴なども付けておらず、素足で移動する。
見かけだけは人のそれと同じだ。だが緑色の肌が人間ではないことを強く主張する。
その手に持つのはそこらの木を適当に加工したのだろう棍棒。
「ぎぎゃ!」
再度、モンスターが──ゴブリンがにたりと笑いエディスに襲い掛かる。
子供程度の知恵に力をゴブリンは持つ。それだけなら大した脅威にはならないと思うかもしれない。だが実際は殺意と悪意マシマシの攻撃だ。
只の一般人、少なくとも戦う事を知らない村人等ならば一方的に殺せる。それだけの力は有している。
飛び掛かり、襲い掛かるゴブリン相手人エディスは冷静に腰の剣を抜いて──一閃。
洞窟の壁も。ゴブリンの棍棒も胴体も。全てを両断する。
鋭利な刃物、どころの話では無い。
エディスが抜いた剣は長剣。外ならいざ知らず洞窟の中では振るう事など出来ない。
力任せに振ろうとしても壁に当たり止まるはずだ。普通の剣ならば。
エディスの実力と剣の異常性により洞窟の壁さえも斬り裂くことで洞窟と言う長物が使えない場所での剣術を可能にする圧倒的ごり押し戦法だ。
「さて、行くか」
気楽な声と態度で、エディスはモンスターを殲滅すべく歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます