文通相手を探しに旅へ出よう
@Revak
プロローグ
プロローグ 1
カズンズ、という国がある。
国としての特徴は迷宮が多いところと、冒険者が多い所だ。
迷宮というのはよくわからない場所だ。
遺跡──石煉瓦等の普通に建材で作られたモンスター溢れる場所だったり、あるいは入ると同時に砂漠に送られる場所など、法則性が無い。
モンスターが存在する場所を迷宮、あるいはダンジョンと定義しているだけに過ぎない。
そして迷宮には多種多様なモンスターが潜む。モンスターとは普通の動物とは異なる存在だ。
生物学的に有り得ない特徴──例えば体に鉱石を纏っていたり、頭が三つあるなどだ。
最大の特徴は何処からともなく出現するところだろう。
そう、モンスターは何処かからやって来る。一つ例を挙げれるとすると、とある帝国が一つの森の中からモンスターの駆除をした。
軍人に冒険者を総動員したある種の実験だ。一つの森からモンスターの一切合切を駆逐した。
そして森を監視するように周囲を包囲し、監視を始めた一週間後──モンスターが沸いていた。
比喩ではない。眼を放した一瞬でもない。瞬きする間も無くさも最初からいたのだと言わんばかりにモンスターが居たのだ。
そんな理不尽の権化のようなモンスターが多数いるのが迷宮だ。神か悪魔か、原理不明の超常生物蔓延る人を拒むが故の迷宮、あるいはダンジョン。
ただし、モンスターを倒せば多少の利益がある。
鉱石を纏うモンスターは自然界に存在するどの鉱石よりも硬い鉱石を落とし、その鉱石を元にすれば強大な力を持つ剣が作れる。
ある特定の鳥型のモンスターの心臓を食せばあらゆる病から解放される等、利益は大きい。
ただしその分脅威はある。鉱石を纏う巨大な──全長一キロメートルを超える亀の形をしたモンスターに国が滅ぼされた事例すらあるのだから。
カズンズはそんな、モンスター溢れる迷宮とモンスターを打ち倒す冒険者によって発展してきた国である。
そしてここは、カズンズに多数ある町の一つ。
町としての特徴も特になく、首都に近い訳でも遠い訳でも無い微妙な位置の町。
唯一の特徴を上げるとするならば迷宮がある事だろう。だが迷宮事態に特にこれと言った特徴がある訳でも無いし、そもそもカズンズは迷宮が豊富な国家だ。
一つの町の近くに迷宮が三つや四つあるのも珍しくはない。
時期は初冬、秋も終わり冬の厳しさがやって来る時期となる。
そして──町に多数ある宿屋の一室で朝を迎える女がいる。
冬だというというのに女は薄着であった。短パンにシャツ一枚という冬を舐めているのか、と問いただしたくなる服装だ。
服が薄ければ部屋の壁も薄い。隣人の声を防ぐことは出来ても、この時期の強い冷気を防ぐことは出来ず、小さな隙間からも冷気が入り込んでくる。
安宿であるが故の宿命だ。ただ、この程度の冷気で体がどうこうなるような弱者ではないので関係は無いが、やはりケチらずもっと質の高い宿を選ぶべきだったか、と起きた者は思う。
シーツしかない、材料である木の触感が直に伝わるベッドから女が降りる。
長身の女だ。
身長は百八十二センチはあるだろう。この国──あるいは世界の人間の女の平均身長は百六十五センチの為、それと比べると大分大きい。
また男の平均身長も百七十センチ程度である為並みの男よりもデカい。
事実女が泊っている宿の部屋など出入り口はしゃがまないと通れない程だ。
身長に反し、体は驚く程細い。手足も細いし、体も細い。女性としての象徴は見る影もなく、凝視すれば辛うじて、と言ったところだ。服次第では全て隠れるだろう。
起き上がった女は自分に対し魔法を行使する。
「
魔法と呼ばれる超常技能を息をするように行使し、自らの体を清める。
服や体の汚れは勿論、歯の汚れも頭皮の汚れも何もかも、全てが浄化され綺麗さっぱり消えてなくなる。
魔法とは魔力を用いて起こす現象全般を指す。ほぼ万能の技術だ。
女はベッドのすぐ下に置いておいた袋から服を取り出す。
服にも特徴は無い。しいて言えば冬服ではなく夏服のそれであり、一般人が冬の時期に着用すれば確実に風邪を引くだろう。
上は茶色い無地の服。下は黒いズボンに変え、その上から黒いコートを羽織る事で体型を隠す。
そして最後に真っ白で面白みの無い仮面を被り、女の着替えが終わる。
(行くか)
こうして女の──エディスの一日が始まった。
エディスは異世界転生者であった。
ここではない遠い世界。既に帰る事など出来やしない遥か遠くの故郷──地球という世界の日本という国からやって来た存在だ。
自分の意志で来たのか、と言われると微妙な所だ。
エディスが事故にあい、死んだと思ったら紫色と言う奇妙な髪色の男──自称神に選択肢を突き付けられてここに来た。
このまま己の存在──記憶や魂全て消えてなくなるか、異世界に転生するかの二択。
どちらがましか、というと消えるよりはという事で異世界への転生を選択した。
そして異世界に転生したと思ったら性別も変わっていた。転生なのだから余りおかしい事ではないが。
エディスの元の性別は男であった。男の時の身長は百六十と少し程度であり転生した事で大きく変わっている。何気に女になった事で背が伸びたことで若干不貞腐れた。
宿から出る。
宿で食事等は取らない。エディスが転生した事で得た力は膨大で無法。食事を取る必要が無い。
出来ない訳ではない。だが食事をしてもしなくとも同じという、他者と関わりたくないエディスからすれば態々食事をする必要を感じていなかった。
勿論味覚もあるので食の楽しみ、というのはある。だが態々他者と関わってまでとなると選択はしない程度だ。
宿を出て向かう先は冒険者ギルド。道中に用事は無いので真っすぐと進む。
街の中は整備されている。
土が露出するようなことは無く、コンクリートなどできちんと作られた道であり、馬車等を通す為に幅も広い。
建築様式はヨーロッパ風、と言ったところだ。木で骨組みを作り煉瓦で壁を作りモルタルで補強するよくある家。
中には一風変わったもので木だけで作った家などもあるが基本は煉瓦製となる。
街路樹も当然あり、街の景観となっている。
宿を出て十五分もあるけば、目的地である冒険者ギルドに辿り着く。
冒険者という職業があるのならば、それを統括するギルドもまた存在する。
冒険者という職業は対モンスター用の傭兵、というのが近い。
勿論モンスターを倒すだけではない。街と街の移動時の対モンスター用の護衛。モンスターを倒したことで得られる素材の売買に秘境や迷宮の探索。
モンスターを退治し、その利益を所属する国に還元するのが冒険者の仕事内容だ。故に冒険者はどんな国であろうと必要不可欠な存在。
何しろモンスターは何処からともなくやって来る。常備軍で対応しようにも軍は治安維持などの仕事をしなければならない。
一説では冒険者ギルドの創設はどんな国よりも古く、人類最古の組織とも言われている。歴史と技術を持ち、人類国家全てに支部を有するギルドに国も依存するのは仕方のない事であった。
冒険者ギルドの建物は大きい。少なくとも宿屋の倍以上は最低でもある建造物だ。
先ず横に広い。横に約十五メートルはあり、普通の一軒家四軒分以上はあるだろう。
縦にも長いがこちらは普通の二階建て程度の高さであり特筆するようなものではない。
家の素材もまた木の柱に煉瓦と言う他の家や店と何も変わらない。
唯一違うのは入口。エディスが潜らずとも通れる程に上にも横にも広い入口だ。扉などは付いておらず誰もが入れる状態になっている。
これは冒険者の中には体躯の大きい種族──亜人種も多いからだ。人以上の体躯を持つ種族は探せば割といるのだから。
まだ早朝であり人もいないギルドにエディスは入っていく。
ギルドの内部もまた広い。
多数ある机と椅子に、奥に目を向ければ調理場が存在する。
これはギルドと言う概念を広めた者が酒好きだったとも騒ぐのが好きだった、と言われているが詳細は分からない。
少なくとも仕事を提供する場に酒場を併設するなど真面な神経の持ち主ではないだろう。別々にした方が良いのだから。
エディスは人のいないギルドの中を進む。
時刻は朝八時。時期的にも冒険者や町民がようやく起きて朝の支度をしおえ、各々出かける準備を始める時間帯だ。
正し冒険者ギルドは朝の八時ちょうどから開いている。その為に今エディスが居ても問題はない。これが後三十分も後ならば混み始める。
ただこの時間帯ではまず冒険者も依頼人も来ない為に人員をも少ない。
だがいない訳ではない。ギルドの受付嬢は朝早くにたった一人で来る冒険者を前に姿勢を正す。
それを気にもせず──というか気づくことなくエディスは依頼受注用のクエストボードに赴く。
其処には朝早いというのに幾つもの依頼が張り出されている。
ゴブリンの巣の壊滅。熊退治。巨大蜘蛛退治などの討伐系の依頼から薬草の採取など、多種多様な依頼が張り出されている。
正し護衛系の依頼は無い。この時間帯では護衛が集まらない為にまだ依頼人も来ていないのだ。
このクエストボードは常に更新される。依頼が来て依頼の受注処理が終わると同時に新しく張り出される。
その為に依頼が一つもない、などという事は無い。ただし時間帯によっては旨味のある依頼は殆ど無いが。
当然朝早く依頼人も来ている訳が無い今は報酬の良い依頼など無い。
しかしながらエディスはそれを気にすることなく幾つかの依頼を受注する。
受注した依頼はどれも達成期限が長い依頼、最低でも一週間は先の依頼だけを取る。
依頼書は全て紙製であり、全てクリップで止められている。外そうとすれば簡単に外れる。
依頼書を持って受付に行き、エディスは口を開く。
「この依頼を受けたいのですが」
エディスは依頼書をカウンターに置く。
受付は持ち込まれた依頼書を一枚ずつ確認する。
受付──受付の女は依頼書を確認する。
依頼内容に不審な点がないか、というある種の二重チェックじみた確認と同時に依頼書の受注ランクと持ってきたモノのランクの確認だ。
冒険者にはランクが存在する。最上位がS、次がAから始まる。
一番上のSは一説では
兎も角Sが一番上で次がA、となればその次はBだ。
S、A、B、C、D、E、F。これが冒険者のランクの全てだ。
基本的に冒険者のランクはDランクが最高位になる。
Fランクは登録したての新人、Eランクが真っ当に仕事が出来る者。Dランクがベテランの領域だ。
ランクを上げるのに最も重要なのは実力だ。実力さえあれば生まれがどんなものであろうとも瞬く間にBにもAにも、Sにさえなれる。
だが逆を言えば当然、実力が無ければランクは上がらない。誰もかれもがSだのAに成れるわけがない。
冒険者の大半はモンスターと戦えるだけの人間に過ぎ無いがSやAにもなると一国の切り札、あるいは人類の希望となる。
では、エディスのランクが幾つなのか、というとCだ。
これはただの冒険者よりも圧倒的に上という事であり、事実この町にはエディス以外だと四人しかいない。
四人と聞くと多いように思えるがそれは一つのパーティだからだ。ソロでのCランクなどエディスしかいない。
そしてエディスが持ってきた依頼はDランク向けの物しかない。
これに問題が無いか、と言われると微妙な所だ。冒険者は基本自分と同じランクの依頼を受けるべきだとされている。
理由は当然下の者の仕事が無くなるからだ。上のランクの者が下の仕事まですると下の者が食っていけなくなる。
だがこの町の最高位向けであるCランクの依頼が常にある訳ではない。故にエディスが一つ下程度の依頼を受注する事に問題はない。
エディスが持ってきた依頼書の数は九枚。一度に受ける依頼の数としては異例だ。
精々が二つか三つ、依頼を受けるのが常識だ。目的地が重なる依頼を受けるぐらいは他の冒険者もよくする。
だが目的地も異なり討伐と採取の両方の依頼を受けるのは異常と言っていいだろう。
「わかりました。受注を受け付けます。お気をつけて」
だが受付嬢は何も言わず、依頼の受注処理をした。
エディスは少しだけ頭を下げ、ギルドを後にした。
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