第5話 動き出す影

せりちゃんの配信が日々広がり、彼女の呼びかけに応じる仲間が次第に増えていく中、影の住人が新たな情報をもたらしてきた。彼が入手したのは、支配者たちが自分たちの利益を守るために作り上げた、隠れたネットワークの一部を示す内部文書だった。


その夜、せりちゃんは影の住人と秘密のチャットでやり取りを始めた。影の住人は、短く具体的に報告を送ってきた。


「せりちゃん、これが証拠だ。彼らは法の隙間を巧妙に突き、自分たちだけが豊かになるために仕組みを操作している。これは市民の生活を犠牲にした上での贅沢だ。」


文書には、国民から徴収された税金が本来の用途から大きく逸脱し、一部の権力者たちの私的な資金源として流用されている証拠が詳細に記されていた。せりちゃんは、目の前の情報を見つめ、これをどう扱えば最大の効果を得られるか思案した。


「この情報をそのまま公にするのは危険だわ。けど、少しずつなら…」


せりちゃんは冷静に配信計画を練り直し、視聴者に不正の一部を伝える方法を考えた。証拠を小出しにしながら、視聴者が真実を求めて疑問を抱くように仕向ける。それは、彼女にとっても視聴者にとってもリスクを最小限に抑えながら進める戦略だった。


配信が始まると、せりちゃんは慎重に言葉を選びながら話し始めた。


「皆さん、私が伝える内容は簡単ではありません。ですが、この国で何が起きているのかを少しでも知ってほしいんです。彼らが私たちのためと称して使っている税金は、実際には一部の人々の贅沢のために使われているかもしれません。」


彼女は具体的な証拠には触れず、視聴者が疑問を抱く程度に控えめに真実の断片を提供した。視聴者たちはその意図を敏感に感じ取り、「もっと教えてほしい」「何かおかしいと感じていた」というコメントが次々と流れた。


その夜の配信が終わり、せりちゃんは深い息をついた。彼女の言葉が人々の意識に小さな変化をもたらしているのを感じたが、それと同時に、支配者たちが彼女の存在に気づく日も近づいていることを感じていた。


だが、恐れよりも決意が勝っていた。影の住人が裏で支えてくれていることも、せりちゃんの心に確かな自信を与えていた。彼女には信じられる仲間がいる。そして、視聴者たちが真実に目を向け始めている。


「これで少しずつでも、彼らに揺さぶりをかけられる…」


そのつぶやきは、せりちゃん自身の決意を再確認するものだった。

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