(出戻りですが) 年下御曹司に愛されてます

こうつきみあ(光月海愛)

第1話 私の不幸せな結婚 『オシドリ』

 


 この結婚は、(今度こそ) 私を幸せへと導いてくれるでしょうか?






 古くから、日本の皇室や華族では、毒殺を避けたり、他人(乳母)から正しい躾をつけてもらうため、乳飲み子の内から両親と離し、里子に出す習慣があった。

 伯爵家に生まれた私、桜小路さくらこうじ琴子ことこも、例外なく幼少期は近郊の農家に預けられ、自然の中でのびのびと暮らしていた。


「兄上、あの川にいる花美な鳥は何?」


 里親家族の兄と遊んでいる時、田園そばの水場で泳ぐ鳥を見つけて、名前を尋ねたことがあった。

 くちばしは桃色で、茶色や白、黒、青味がかった紫の羽を持つ鳥は、私の声に反応して木の上へ逃げて行った。


「あれはオシドリだ」


 五歳上の梅吉は、小さい目を更に細めて教えてくれた。


「おしどり夫婦のおしどり?」


「そうそう。琴子はまだ幼児のくせに、そんな言葉知ってるのか?」


「わたし、もう六歳よ。幼児じゃない」


 プイっと顔を背けてわかりやすく拗ねた私の頭を、梅吉が撫でて言った。


「そんなむくれるなよ。でも、オシドリってそんなに仲睦まじい鳥じゃないんだぞ」


「仲良く、ないの?」


「そう、メスが卵産むまではオスそばで見守っているけど、産んだらおしまい。さっさと去って別のメスとまた交尾をはじめるんだ」


「こうび……」


 私が軽く首を傾げると、「琴子のとうちゃんみたいなもんだ」と笑った。


「お父上? わたしの父上はそんな人じゃないよ」


「……」


 梅吉は “しまった” って顔をして、話をはぐらかすかのように飼っていたチャボを捕まえて遊び始めた。


 この時、まだ、私は知らされていなかったのだ。

 自分が、妾の子で、生まれてすぐに正妻の元に引き取られた事を——。






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