爆裂天然暴走娘、武田ちゃんの野望!!~全国制覇始めさせられました~
横須賀じょーじ
第1話 青春の煌めき
長い間、彷徨い続けていた。
魂を鎮めるべき場所を探して。
元亀四年 4月12日。生を受けて、52年でワシは生涯を閉じた。
一度は天下統一に王手をかけたが、猛将とうたわれたワシでも病には勝てなかった。
無念だ。
無念の念がそうさせるのか、魂だけが彷徨い続ける。出来る事ならばもう一度戦国の時代で、果たせなかった天下統一の夢を果たしたい。
あぁ、いつまで彷徨い続ければいい。
いつまで…
器が欲しい。
この無念を、この猛る思いを、この魂を納める器が。
……
…
.
令和元年。
4月に晴れて高校生となった私こと
「アンタだろ?武田信音って。聞こえてきてるよワタシのとこまで。中学ん時は随分ヤンチャしてたらしいじゃん?」
ヤンチャ?ヤンチャってなんだろう?ヤンチャ坊主的なヤツかな?うーん、ワイワイ楽しく毎日過ごしていただけだと思うんだけどな〜。確かにちょびっとは悪い事もしたかもしれないけど、周りの子達と大して変わりないんだけどな…。なんで私は呼び出されたんだろう?
しかも呼び出された相手ってのが、甲府じゃ名の知れた有名な珍走団…じゃなくって、暴走族の総長、
女子なのにめっちゃ喧嘩強くて、おまけにモデル体型で超美人ときている。
何故こんな美人がヤンキーなのか?
その辺は甲府七不思議の1つに数えられている。
「えーっと、私がヤンチャ坊主だったかどうかは別として、確かに私が武田信音です。失礼ですが、私、信虎さんに対してなんかムカつく事とかしましたか?何故私がここに呼ばれたのか正直わかりません。」
そもそも信虎さんと私の間にはなんの接点もないはず。呼び出された理由が本当に分からないでいた。
「ヤンチャ坊主〜?あーあー大丈夫大丈夫。アンタにムカついてるとか、ヤキとかじゃねーから安心しなよ。」
ならなんで呼び出されたのか?
「単刀直入に言うよ。アンタさウチのチーム入ってよ?」
…は?
突然の事だったので、信虎さんの言った事がよくわからない。
「アンタも知ってると思うけどさ、私はこの辺じゃちょっとは名の知れたチーム、"風林火山"て暴走族の51代目総長やってんだわ。でさ、最近の暴走族事情ってさ衰退する一方じゃん。世知がれ〜世の中だと思わねぇーか?有名どころのチームも結構解散しちまってさ、令和元年の今じゃ全国に183チームしか残ってねーんだぜ?それでもさ、自分らの代でチームを潰す訳にはいかねーって事で皆必死で人材探ししてさ、次の世代に何とか残そうって頑張ってるんだわ。したらさ、ウチのチームもさ私の代で潰す訳にはいかねーじゃん?だからアンタをスカウトしたいって訳。OK?」
いや、そんなYAZAWAみたいにOK?とか言われてもOKじゃないし!っか、私に近年の暴走族事情を話されたところで、さっぱりポン!全然わからないし。
と言うか、風林火山て(笑)
しかも51代も続く老舗的な珍走団!誰だよそんな武田の信玄さんにあやかってチーム名つけちゃったヤツ!草葉の陰から信玄公も涙流して嘆いてるだろうに。っか、ヤンキーてそう言う名前好きだよな。
愛羅武優とか、夜呂死苦みたいな。
ヤバイ!どうしよう!?ちょっと笑っちゃいそう。
取り敢えず込み上げてきた笑いを無理矢理押し殺し、何故私をスカウトするに至ったのか聞く事にする。
「え、いや、ちょっと意味がわからないんですが…私、珍走団、いえ、暴走族なんてやるつもりありませんよ?車やバイクには多少興味ありますが、そもそも私なんかより名の知れた有名な不良なんて幾らでもいると思うんですが、なんで私なんですか?」
信虎さんは目の前に置かれた冷コーをグッと一気に飲み干すと、空になったグラスを勢いよくテーブルに置く。
あ、冷コーとは、冷たいアイスコーヒーの略な。
「あん?アンタを選んだ理由?そんなの簡単さ、難しい事じゃない。それはアンタの苗字が武田だからさ。」
それを聞いて急に目眩がした。
何言ってんの?この人⁉︎ひょっとして頭の中お花畑か?
「いや、ますます意味がわからないんですが…」
それを聞いた途端、信虎さんの態度が急変した。
「なんでよ⁉︎わかれって!アンタひょっとして馬鹿か?馬鹿なのか?私のチーム名は風林火山だ。風林火山っつったら信玄公だべよ⁉︎信玄公の苗字は武田だ。どーよ、理解出来たべ?」
いやいやいやいや、意味がわからないんです。
そりゃぁ風林火山て言ったら武田信玄かもしれないけどさ…馬鹿はアンタですから。
首を傾げた私をみて、更に強い口調でまくし立てる。
「だーかーら、武田信玄っつたら風林火山だべ?しかもここは信玄公ゆかりの地、甲府だ。知ってるか?信玄公は、52歳で亡くなってる。で、私がこのチームを引退したらアンタはめでたく52代目総長。暴走愚連隊風林火山52代目総長、武田信音。カッコイイじゃねーか!!いいか、コイツは生半可な気持ちじゃ務まらない。52歳で生涯を閉じた信玄公はさぞかし無念だったと思う。天下統一だって夢じゃなかったはずなんだ、病にさえ侵されてなければ、な。なぁ信音、52代目総長になるって事は、いうなれば信玄公の意志を継ぐって事になる。半端な気持ちで信玄を継げる程この世界は甘くないぞ。」
なんか遠い目をして熱く語り出しちゃったけど、この人大丈夫か?しかも語りながらちょっと自分に酔いしれてる節あるよね?
今、暴走族風林火山にスカウトされてるのは分かる。でも信玄を継げる程甘くないとか言われても困る訳!だって全く興味ないもん。
はぁ〜あ、甘いのは信玄餅だけにしてくれってーの!
ったく、高校進学早々面倒くなってきたぜ。
だけど信虎さんて言ったら美人で崇高なカリスマ的な人だと聞いていたけど、実際に会って話してみると結構痛い人だな。美人なのに残念だ。
「えっと、残念ですがお断りします。」
信虎さんはテーブルに掌を叩きつけると勢いよく立ち上がる。
「なんでよ!?」
いやいやいやいや寧ろ逆に断らない理由が見つからないし。
「いや、今は令和ですよ?昭和でも平成でもないんです。タダでさえ暴走族は珍走団とかって恥ずかしい名前で呼ばれる様になったって言うのに、自らその中に飛び込むつもりも勇気も私にはありません。ご期待に添えなくてすみません。私はこれで失礼します。」
そう言ってバックれようかと思ったが、信虎さんの近くに待機していた2人にそれを阻止された。
「右が山県、ウチの切込隊長。左が馬場、ウチの特攻隊長をやってる。二人共、手は出すなよ?ソイツは一応私の客人だ。今日は、ね?」
そう言い終えると、2人は私から距離をとった。
「大丈夫、信音は絶対ウチのチームにはいるから。」
何を根拠にその自信。
例え信虎さんが暴力に訴えかけたとしても、私は絶対屈しない!!
多少なりとも喧嘩には自信がある。(ただし女子との喧嘩限定。)
やるならやってやる!
私はどんな事にも屈しない!
それがヤンキー女子のカリスマ、信虎さんでもだ。
「信音ちゃん、先週の水曜日何処にいたかな〜?」
ちょっと甘ったるい声で信虎さんはスマホで写したであろう写真を私に提示してみせた。
「そ、それは!?」
そこにはサングラスにマスクをした私がBL漫画を購入する姿が写されていた。
「えーっと、購入した本は…と。なになに、"俺とお前と局中法度 ~土方歳三、マジの恋に落ちました~。"第1巻 何これ?BL本?はーん、アンタこんなの読んでんの?」
ヤバイ、こっそり購入したはずなのに!しかも見られただけでなく、それをスマホで撮影されてるし!!
私、痛すぎる!
痛すぎてちょっと死にたい。
誰にも知られたくない私の秘密なのに!
そんな事を考えていると、信虎さんが追い打ちをかけてくる。
「あーアンタはアレか?オタクっつうか、腐女子ってヤツか?」
恥ずかしすぎるだろ。
マジ死にてー。
「しかも調べたらこの本2万五千円もするのな!高いって!」
そりゃそうだ。何たってその手のマニアなら一度は読みたいプレミヤがついた同人誌だ。これを手に入れる為、貯めていたお小遣い叩いたからね。
しかも全3巻なのに、手に入れたのは一巻のみ。
「まぁ、人の趣味にとやかく言うつもりはねーけどさ。なぁ信音、取引きしねー?」
取引?
ひょっとしてコレをネタに私を脅すつもりか?
「そんなチンケなネタで私を脅そうって腹っすか?残念ながらそんな事じゃこの信音、屈しませんよ?」
根暗女子ならまだしも…舐められたもんだなー私も。
「言ったろう?人の趣味にとやかく言うつもりはねーって。おぃ、豊美例の物を。」
私は知ってる。韋駄天豊美。
甲州街道の韋駄天の異名を持つクソ度胸がある人で、単車で甲府から東京まで1時間20分で到着したバケモノ。
豊美だけじゃ無い。結構有名な面子が揃っている。
例えば斬込み隊長の
中学の頃は喧嘩に明け暮れていて、あまりにエグい喧嘩をするで有名。喧嘩の最中、止めに入った警察官3人に取り押さえられたけど、うち1人の警官をボコボコにした事で偉く有名になった人だ。
あと、特攻隊長の
ふざけた珍走団かと思ってたけど、有名どころが揃ったチームみたい。さすがは伝統ある暴走族。
そんな事を考えていると、豊美が私の前に紙袋を置く。
「中身みていいよ。」
信虎さんが笑顔で私に言う。
何だ?
紙袋を手に取ると、私は中身を取り出す。
‼︎
「これは⁉︎」
そこには幻が存在した。
「"俺とお前と局中法度 ~土方歳三、マジの恋に落ちました~。"第2巻だ。」
何故これを豊美が⁉︎
「豊美はな、超がつくほどの腐女子でさ。以前、東京で行われた同人誌即売会に遅刻すると焦った豊美は、4時間は掛かる甲府・東京間を、単車でたった1時間20分で走破して伝説になった程さ。」
えー!!韋駄天豊美の異名ってそこからきてたの⁉︎
「欲しいか?この本?豊実に聞いたら、一巻よりも高値の8万で取引されてるみたいだけど、現存数が少ない為レアものらしい。アンタがウチのチームに入ってくれるってんなら、この本譲ってもいいって豊美も言ってくれてるんだけどさ…どうする?答えは即決で!」
マジか⁉︎マジで手に入るの⁉︎
ヤバい、喉から手が出るほど欲しい!
そんな事を考えていると、ブルマンの自動ドアがあいた。
「あ!いた!お姉ちゃん、またそんな格好して!今日は夕方から事務所の人と打ち合わせがあるって言ってたじゃないか!」
激おこで信虎さんに絡んできた美少年にビックリ!
「ウッセーな英大!姉ちゃん今ヤンキードラフト会議中なんだよ。すぐ終わるからちょっとそこで待ってろ。マスター、英大にレスカ出してやって。」
えー‼︎この子知ってるんだけど‼︎
信虎さんの弟だったの⁉︎
っか目の前に推しが!!口から心臓が出そう!
ヤバい、嬉しさと戸惑いでなんか吐きそう。
テンパってオドオドしてると信虎さんが声を掛けてくる。
「おやおや〜信音ちゃん。ひょっとしてウチの弟に興味あり?興味あっちゃったりする訳?」
そりゃあるわ!
私の一目惚れ兼初恋の相手だし!無いわけないだろ!
「今ならこの本と、弟のサインになんならツーショット写真撮らせてやってもいいんだぜ?どうする、信音ちゃん?」
マジか!!
「入ります‼︎」
呆気なく屈してしまう程の即答だった。
欲望だらけの私、武田信音は、こうして暴走愚連隊風林火山に入るのであった。
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