第562話 布の時代――来ますません
その後丘を歩いて難破船に戻っていると、生き物を見つけた。
「あ、アルパカいるじゃん」
「ですです」
「亜麻も生えてる」
「そうなんですよ」
「布が作れるね」
「亜麻からは分かりますが、アルパカもですか?」
「うんうん。アルパカも毛が長いから、羊みたいに毛を刈って布にしてたらしい」
「へええ、知らなかったです。ただの変な見た目の動物かと思ってました」
「変な見た目のって・・・」
「亜麻は知ってます」
「亜種の
「この島に転送陣はあるでしょうか」
「あー・・・・」
ここからだと、前の拠点はなかなか遠い。まあ、戻れないことはないけど。
私は視界の端に、せせらぎを見つける。
「あ――! やった、川もあるね」
「また炉が作れますね!」
「うんうん!」
「あ、綿まである。この島は布系の素材がいっぱいだねぇ。いい繊維が多いし、刀の柄が進化しそう」
「ですね! そこに期待しています!」
アリスが胸の前で手を祈るように合わせて、顔が輝やかせた。
今の刀の持ち手は、結構適当にそこらの草を選んだから、結構ゴツイ繊維で編まれてるんだよねぇ。
アリスは喜んだところで、ハタと思い出したような顔になる。
「布と言えば――海底の街を探索するならダイビングをする訳なんですが、水着とか持ってきてますか?」
「持ってきてない――亜麻から作る?」
「大変そうですけども、リネンの水着とか痛くないですか? コットンとかウールは水を吸って動きにくそうです――というかあんな天然の白、絶対に透けますよ」
「透けるのは嫌だなあ、だからってリッカみたいに下着で泳ぐ勇気は、私にはないなあ」
「水着も下着とあんまり変わらないですけどねぇ」
「気持ちの問題」
「気持ちですか」
公開用の布と、秘密用の布。
見せパンと、ふつパンみたいな感じ。まあ、あたしゃ見せパンなんて履いた事ないけど。
というわけで亜麻を採取して、私達は布を作り始めた。
アルパカも追い回して毛を貰った。
ハサミはワシが作った。
綿もいっぱい採った――でも綿は布にしない。
綿に関しては、私にちょっと考えがある。
でまあ、水着ならそんなに大量に布は要らないし――なんて思ってたけど。
「布を一枚作るのって、こんなに大変なの!?」
布作りの作業は、難破船の甲板でやることになった。
リッカも誘ってみたんだけど「布作りとか、マジめんどいから嫌」って言ってた。
というわけでアリスと二人で作業開始。
まずいっぱい取ってきた亜麻を煮て、揉んでほぐして繊維を分解、手に入った繊維を纏めクルクル回す道具で紐にする。
こうして出来た紐を、原始的な機織り機で布に編む、やり方は縦横に糸をとおして籠とほぼ同じ。筒にしないだけ。
編み編み――編み編み編み編み編み編み編み編み編み・・・。
私は、甲板から空に向かって頭を抱えて叫ぶ。
「気が狂う!」
「思った以上に大変ですね」
「1日中やっても、ブラジャー分の布も作れない!」
「それは、涼姫の胸の脂肪がでっかいから駄目なんですよ」
何だと。
「せめて、おもちゃの手編み機でもあれば・・・ハンドルをくるくる回すやつ」
「持ち込めますかね」
「無理に決まっとる」
「でももう、マイクロビキニとTバックなら作れますよ」
「耳を疑うような鬼畜な提案をするのは、このアリスですか?」
「マイクロビキニとTバックのどこが不満なんですか?」
「そんなもんで探索できるか! Tバックならもう、フンドシの方がまだマシじゃ!」
「じゃあフンドシで――」
「いいえ!」
私はアリスの言葉を「いいえ」で断ち切った。久々に「いいえ」が通用した。
――私は若干荒くなった呼吸を整えて、言葉を続ける。
「・・・・もうさ、皮の水着でよくね?」
「あ、逃げようとしてますこの人」
「だって皮の方が絶対お肌に優しいし、水に強いし。――あとアリスのIQ下がらないし」
「誰のIQが3ですか。――まあ、皮の性能に関しては、そうですね」
「このリネンの布はバッグにしない? 海の中を探索するなら入れ物が必要だろうし、隙間を大きめにすれば作るの楽だし、水を通してくれるなら海の中でもそれほど邪魔にならないかも」
「なるほどです――じゃあ、そうしますか」
というわけで私たちは目が粗めの亜麻の布で、バッグを縫った。
針はもちろんワシが作った。
産業革命で布作りが楽になった事が、如何に凄いことか思い知ったよ。
蒸気機関つくったろか・・・いや、水車でいいし。
その後、皮で水着を作成。もちろん毛は水を吸って重くなるので全部切ったり抜いたり焼いたりした。
でも切った毛は捨てないで、フェルトにして紐を作って、腰紐や肩紐にした。
よく伸びるゴムがないので、紐水着。
ゴムの樹液があっても、衣類に使える柔らかいゴムなんか私達には作れない。
私が水着になって不備はないか試していると、それを見つけたΩアムアさんたち3人組がまた鼻の下を伸ばしてる。
何時になったら、私は彼らを赦せるのだろう。
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