第544話 ついにこの時が来ます
いずれ硫酸を作らないとって思ってたんだけど、炭酸水が有ったらしいから、近くに石膏もあるかも知れないと思って探す予定はしてた。
だけど硫黄が有るなら、楽で助かる。
ちなみに石膏の主成分は、硫酸カルシウム。
〝硫酸〟カルシウムなんで、頑張れば硫酸が取れるかも知れない――でも〝硫〟黄の方が早い。
ちな石膏も一部の菌が分解すると危険な硫化水素ガスが出るかもなんで、気をつけて。実際死亡事故が起きてます。
石膏ボードとかも、廃棄に法律があるし。
ちなみに腐った卵からも、時々硫化水素が出ることがあるらしい。
そんな出来事を思い出しながら、「幸せの白いエノコログサを探して on 星の鍛冶屋バージョン」をみんなで歌い、鍛錬で鋼を18回ほど折って叩いてを繰り返すと、刀の硬い部分が出来た。
何度も折って叩いてを繰り返すことで、金属が薄い薄いノコギリのようになって重なっていく、これが日本刀の切れ味の秘密らしい。
ヤリすぎると混ざっちゃいそうだけど・・・。
次は周囲の鍛錬だ。
芯になる元々柔らかい心鉄の折りたたみ工程は6回で終わった。
そうして、心鉄を硬い皮鉄で包む。2つの性質を持つ鉄を使う。
赤熱させ、何度も何度も叩いて、刀の形に整えていく。
中心の柔らかい鉄を、外側の硬い鉄で包みこんでいく。
刃の方は鋼が薄く、棟の方は厚く。
「流石に、俺に
「真ん中よりちょっと下――この辺り、もうちょっと反らして欲しい。だけど薄っすらでいい、焼入れでも結構曲がるらしいから」
「分かった」
「あと、両サイドの膨らんだ部分
「なるほど」
流石リッカ、どんな刀が使いやすいかを知り尽くしてるから、目に見えることに関してはアドバイス――というか注文している。
オックスさんが、太い木の棒で刀の棟を叩いて、反らしていく。
四角かった鋼が、どんどん刀の形になっていく。
やがて朝日も登る頃――オックスさんとリッカは二人で、刀を色んな方向から何度も確認して――頷いた。
リッカが一言、呟く。
「これでいい」
この一言で、鍛造は終了した。
その後、オックスさんは冷えた刀身の歪みなどを直そうとしたけど、リッカが「いい」と言っただけあって、修正はほとんどなかったらしい。
そして、刀を作る際で最も大事だと言われる焼入れだ。
リッカの手によって、なんかもう波紋を観ただけでよく切れそうな模様に描かれた、焼刃土。これを夜まで乾かした。
焼刃土によって焼入れの温度に変化が出来て、鋼の硬さにも変化ができる。これは研ぐ際に波紋となって現れ、切れ味に関わってくるんだとか。
あと刀身は一気に冷まさないと駄目なんだけど、焼刃土はライデンフロスト現象というのを防ぐ効果もあるらしい。
ライデンフロスト現象が起きると刀身と水が分離してしまい、刀身が一気に冷めない状態になる。
こうなると、刀身があまり硬くならない。
焼刃土は、これを防ぐ意味合いも有るんだとか。
深夜、一番気温が下がる時間。
この時間まで冷やした、リッカの天然水を用意。
この惑星上の一日で、もっとも寒い時間に、刀身を炉で熱する。
そうして赤熱した刀身を、冷たいリッカの天然水に放り込み、一気に冷ます。
「ポン」という少し甲高い音がした。
これで鋼の分子構造が変化して、同じ鋼でも、鋼の質が変わった――より硬くなる。
ここからは研ぎだ。
ここもリッカが担当した。
――リッカは刀の手入れで研いだ経験があるらしいし、オックスさんには次の一本に取り掛かって貰いたいからだ。
――あと研ぐのは素人がやると、刃が変な形に削れたりするらしいから「素人は黙っとれ」と、リッカに言われた。
私、喋ってすらいないのに。
まずリッカはノミで、余分な黒鉄を剥がし、鉄のヤスリ(ワシが作った)で擦る。
それが終わったら赤土粘土にホウ砂や黒曜石の粉などを混ぜて焼いた、赤レンガのような砥石で磨ぎだした。
その後ホウ砂だけの粘土や、白土粘土など徐々に粒子の細かい砥石に変えて、最後にはただの泥みたいな――研磨用クリームみたいになった物で磨いて――ついに刀身が出来た。
次は柄などを付ける。――リッカが既に用意していた柄の板をはめて、柄皮を巻く。本来は鮫革が使われるらしいんだけど無いから、代わりにワニ革を巻いて、その上から見つけた麻を編んで作っておいた紐で縛る。
さらに2箇所に楔を打つ。そうして柄頭にも鉄のカバーをはめて楔を打つ。
あとは、私がリッカの指導のもと、銅で作った金色な
銅は常温でも叩けば形が変わるので、叩いて形を合わせた。
鞘と刀身が触れないようにしたり、刀身が鞘からスッポ抜けたりしないようにするものらしい。
最後に私が、今回は頑張って、鎺の形に合わせた
「できた!」
すこし青みがかった刀身が月光に輝いた。
どこかで、鋼が僅かに青色になる物質が混ざったんだろうか。
冷たく静かな佇まいを見せる一本になった。
リッカは既に用意していたらしい鞘に、刀を仕舞い、掲げた。
「凄い! 一から刀が出来た!」
本当に感動している顔だった。
オックスさんも手を休め、腕を組んで頷いている。
「見様見真似の素人とは言え、それなりの物が出来たと思う」
満足気だ、本当に大変だったもんなあ・・・。
「さあ、名前をつけるぞ~」
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