第539話

 私とリッカが炭談義をしながら作業(私は砂鉄作り。リッカはアリスと水車作り)をしていると、メープルちゃんが拠点方向から来た。


「イノシシの皮と竹で、ふいごができました。こんなに大きなふいご、人に使えるんですか?」

「いや、人が使うんじゃないよ。水車で動かすんだ。いっぱい風を送らないと高温にならないけど、朝晩関係なく風を送る必要があるから、人力じゃ大変なんだよね――現代なら強力ブロアーとかでなんとかなるけど、そんなの無いから水車で、でっかいフイゴを動かすってわけ」


 高炉を作った時に憶えた。ヨーロッパのやり方。日本は人力のフイゴを使ってたみたい。


「な、なるほどです!」

「水車って円の動きなのにフイゴをどうやって押すんだ? フイゴを押すのは直線の動きだろう?」

「クランクスライダー機構を使うよ」

「くらんくすらいだー?」

「クランクって元々曲線運動を、直線運動に変える物を指すんだよ。水車の外縁部の一点を見て、そうして左右の移動を無視してみて、その点は上下に動いてるでしょ?」

「あーーー。確かに」

「その運動を利用して、上下の動きを作る。軸の根本が回転するようにして、左右の運動を無視するようにすれば、クランクのできあがり」

「なるほどなぁ」


 やがて水車も完成しクランクを設置、さらに水車とふいごをセットしていると、オックスさんが帰って来た。大量の備長炭が持ち込まれた。

 2トントラック一杯くらいの炭は有るんじゃなかろうか。

 転送陣の上に炭の袋を積み上げて、オックスさんはその上に乗って移動してきたらしい。

 炭があるなら、今揃ってる材料を考えれば、間違いなく電池が作れる。必要なら作ろう。


「本当に、一つの店の備長炭を買い占めてきたぞ。偽物ではない、ちゃんと本物だから安心しろ」


 オックスさんが備長炭を二本持って打ち合わせた。

 楽器の鉄琴か、トライアングルでも叩いたかのような澄んだ音色がした。

 リッカも、備長炭を知っているらしく、


「おー、本物だ!」


 とはしゃいだ。


「バーベキューしよう!」

「夜ね」


 リッカが早速主目的から外れていくけど、流石に備長炭で焼いた料理は気になるよね。

 リッカが吠える。


「楽しみだ! そこの川で、魚を取ってくる! オックス、モリ貸して!」

「ああ、持ってけ」


 オックスさんが側においていた銛を、横向きに軽く投げる。

 私は苦笑い。


「リッカは食いしん坊だなあ」


 するとリッカは服を脱いで、川にダイブしていった。威勢良すぎない?

 下着もほんとにフンドシだったし――胸はサラシだった。

 オックスさんがリッカを見ないようにしながら、他のみんなに声を掛ける。


「水車もできたし、手の空いてる人、この炭を切ってくれないか? サイズはこの石ころくらい。そんなに力は要らない」

「はい」

「私やるねー」


 アリスとメープルちゃんが手を挙げて、こっちに来た。


「じゃあこのバケツに、こうやって砕いて入れていってくれ」


 オックスさんが、炭にナイフを叩きつけて、それを石で叩いた。

 サクッ と割れる炭。

 あー、でも。


 アリスとメープルちゃんはオックスさんの言う通りやるけど、ちょっと危ないし二度手間かも。

 私は刃物の頭を重くしたナタを作って、二人に渡す。

 こっちの方が重みを利用できるから、楽に作業できるはず。


「これ使ってみて」

「わっ、良さそうですね、これ」

「うん良さそう、ありがとう、スウさん」


 二人がナタを使い始めた。すると、一発で炭がサクサク切れていく。

 流石、二人共刃物の扱いに慣れている。


「一気に楽になりましたね!」

「これ良い!」

「良いな、そのナタ。スウ、俺にも一本くれ。邪魔な枝やツタを切るのに良さそうだ」

「はい」


 私はナタを作って、オックスさんに渡した。

 オックスさんは地球で買ってきたらしい、革製の刃物を仕舞うベルトにナタを仕舞う。なんか指でクルクル回して入れた。カッコイイ。

 あー、ああいうベルト、私も欲しいなあ。次の帰還で買ってこようかなあ。

 それか、イノシシノ皮から作るかなあ。

 私が考えていると、オックスさんが、炉にまずは少量の炭を入れて火を付け炉内を温めて、水分などを飛ばしだした。


「よしじゃあ、いよいよ鋼を作る準備をしていくぞ」


 オックスさんが言って炉の状態を見てから、アリスとメープルちゃんが砕いた炭と、私の生成した砂鉄を炉内に投入していく。

 炭、砂鉄、炭、砂鉄、の順番に積み重ねる。


 最後にオックスさんが火口ほくちを炉にいれると、火が起きて、段々と大きくなっていく。


 水車がフイゴを押す度に、炎が巻き上がって、炉の中の温度がどんどん上がっていく。


「ここから数日、朝晩関係なく、砂鉄と炭を積み上げ続ける訳だ。基本俺が火を見るが、一応交代要員も用意しておいてくれ」


 するとリッカが川から丘に上がってきた。

 数匹の魚の尾を麻の紐で結んだのを左手に、右手に銛を持ってやってきた。


 濡れ鼠リッカが右手を挙げる。どこの原始人ですか、貴女は。


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