第533話 初戦闘をします

 私が慌てて話題を変えると、アリスが太い木を見た。


「家とか、どうやって作るんですか? ロッジとかですか? でも、乾いた木がないですが・・・」

「あー。それは無理だと思うから、竹があるし、竹で大きな籠を作る感じに編んで、泥で覆ったらいいと思う。その中で火を炊けば、壁は勝手に乾くと思うし。屋根は葉っぱかな?」

「なるほど・・・・そういう風に作るんですね」

「じゃあ竹をもっと伐るか」


 オックスさんが斧を持って竹の方へ行った。

 そうしていると、ジャングルの奥の方から悲鳴が聞こえた。


 私達が「まさか、リあンさんたちの危機!?」と振り向くと、リあンさんと星ノ空さんが薪を抱えてこっちに走ってきていた。

 その後ろからドドドドという地面を揺らすような音が聞こえてくる。


「何事!?」


 私が二人の背後を「〖超暗視〗」で見れば、バカでかいイノシシが二人を追いかけて来ている。

 「バカでかい」と言っても、並の「バカでかい」じゃない。大きさのレベルが尋常じゃない。体高――四つん這いの姿勢でオックスさんと同じくらいの身長がある。あんなのもう、モンスターだろっていうレベルだ。


「ちょ・・・!」


 今はVRもないしAIドローンがいないので、名前とかわからないけど、特別な名前を付けよう。――とりあえず大イノシシと呼ぶことにした。

 迫りくる大イノシシを見て、リッカ、アリス、そしてメープルちゃんが刀を構えた。

 リイムも、私を守るように立ちはだかった。

 オックスさんも斧を構え、さくらくんも鉄棒を構える。綺怜くんはナイフを両手に構え、綺雪ちゃんもチャクラムを回し始めた。


「戦いますか!?」


 アリスの声に、オックスさんが不敵に笑う。


「晩飯が向こうから来たな」


 私も鉄球を投石紐にセットして、〖超怪力〗を使ってビュンビュンと回し始めた。


「リあンさん、星ノ空さん、左右に分かれて避けて下さい!」


 私が言うと、こちらが投石機らしき物を猛然と回しているのを見て、二人が青ざめてリあンさんが左に星ノさんが右に分かれて走り出す。

 すると大イノシシが、リあンさんを追いかけようと左にカーブし始めた。

 的が大きくなった!


 私は「ごめん、晩ご飯になって!」と言いながら、縄の片方から手を離す。

「パァン」という物体が音速を超えた時に起きる衝撃波の音がして、剛速球と化した砲丸みたいな鉄球がイノシシ目の辺りに叩き込まれた。


 大イノシシの頭の一部が吹き飛ぶ。投げた自分が威力にビックリしたけど、考えたらあんなの大砲を食らったようなモンだもんなあ。


 大イノシシの身体がフラっと波打って、地響きを立てて倒れ込んだ。

 とりあえず当面の食料は確保できたみたいだ。


 オックスさんが掠れた声で言う。


「あのサイズのイノシシを、一撃・・・か。――下手すれば死闘になるかと思ったのに、な・・・・」

「た、頼り甲斐のある女性というか、怖い女性でした」


 さくらくんは引き気味。


 引かれながらも、私は手の痛みに気づく。


「痛たた・・・あ、手の皮が剥けちゃった」


 流石に強化済みの〖超怪力〗で回したら、手ぬぐい巻いてても、手の皮がズル剥け。


 ロープを滑り降りる時、素手で滑り降りたら大変な事になるっていうけど、あんな感じだと思う。


「うわ、結構ひどい怪我じゃないですか!」


 アリスが心配するけど、持っててよかった〖再生〗。


 私は〖再生〗で、すぐに手を治療する。


「そうでしたね、スウさんは〖再生〗がありますもんね」

「このサバイバルは、怪我しても余裕っぽいなあ」


 言いながらリッカが腰に刀をしまう仕草をする。


 私は皮が元に戻ったけど、まだちょっと痛い気がする手を振った。


「でも、痛いのは嫌だよ――このイノシシの皮で手袋作りたいなあ」

「それなら俺が作ってやろうか、とりあえず血抜きをしないとな。スウ、〖念動力〗と〖超怪力〗で手伝ってくれ――イノシシを水辺に持っていきたい。近くの川には、かなりの清流がながれていた。解体したら保存用に燻製も作っておこう」

「りょかいです」


 私が返事すると、リッカが急に涙目になった。


「スウ、手を切った〖再生〗して・・・・」


 鞘が無い事を忘れて、癖で刀を仕舞う仕草をしたリッカが、手を切っちゃったらしい。

 赤いのがポタポタしてる。私は慌てて〖再生〗してあげた。

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