第529話 さすがにこれは私でもズルいと思います


 つまり80層攻略はサバイバルしながら東→南→西→北と渡って、クリエイトパーチャーをゲット。

 その後ボスを倒す層なんだね。


「はい、北の大陸まで行かないと駄目なんだとか。東の大陸から海峡をわたって、南の島々へ、南の島々から転送装置を見つけて西の大陸へ。さらに北までわたってやっとクリエイトパーチャーで、飛行機などを作ってボスを倒すという流れらしいです」

「先は長いんだねえ。北の大陸に行くまでは本当にサバイバルになるんだね」

「みたいですね」


 オックスさんが腕を組む。


「なるほど、クリエイトパーチャーというのが無い北の大陸以外では、何もかもが手作りになるのか。だとすれば、塔を作るといっても、どうするか」

「みんな〖飛行〗があるからそんなに高い物じゃなくても、木の上に出れば確認できるような物でいいと思うんです」

「なるほど」

「そこの高い木の上に、飾りみたいに木を巻きつける感じで上に旗でも立てたら良いかもです。〖念動力〗も〖飛行〗もあるんで、作業も難しくないと思いますし」

「相変わらず便利だな・・・〖念動力〗。おお、近くに竹みたいな植物もあるし、それを使うか」

「竹ですか、軽くて丈夫で良いですね! しかしどうやって切りましょうか、私のスキルじゃ難しいです。金属は持ち込めませんし」


 竹は強くて軽い。天然のセルロースファイバー。


石斧いしおのを作るか」

「石斧ですか?」

「ああ」


 言ってオックスさんは〖飛行〗で真上に飛んだ。そうしてすぐに降りてくる。


「直ぐ側に河がある、そこで手頃な石を取ってくる。ここを動かないでくれ。全員で移動してココを見失ったら意味がないからな」

「はい」


 そう言ってオックスさんが空で輝いている恒星の反対側に飛んでいった。――しばらくして戻ってくる。

 その手には鐘を平たくしたような形の石が何枚かあった。


 花崗岩や安山岩、泥岩や砂岩もあるようだ。泥岩や砂岩といっても、しっかりとした石で、めちゃくちゃ硬いヤツ。


 苔や泥を洗ってきたのか、濡れている。


「コイツをそこのツタで、手頃な木の棒に巻き付けよう」


 オックスさんが、太めの棒にツタで石を巻き付けて、簡単な斧を作る。

 そうしてオックスさんは簡易斧で竹を殴り始めたんだけど、ほぼ鈍器らしく、切りにくそうに何度も殴っている。

 相手は竹だし、切れ味がないと大変だよね。


(石を削るか、割るかできたらいいんだけど)


 あまりにも大変そうなので、〖念動力〗で竹が揺れないよう押さえて手伝っていると、オックスさんが唸る。


「せめて、黒曜石が欲しいな」

「確かに、せめて打製石器が欲しいですね。」


 まあ黒曜石は脆いので、長持ちしないけど。


 叩いて割って作るのが打製石器だから、当然叩きつけると割れる。


 打製石器によく使われた黒曜石、石英、チャートって、全部ケイ素がベースなんだよね、ケイ素と言えばガラス。そりゃ割れる。鋭くなる。

 でも、地球では打製石器の斧もちゃんと出土してるから、斧として使われてなかったわけではない。


「磨製石器は、今持ってきた石でも作れるが――作るのが滅茶苦茶に面倒くさそうだ。今から作っても今日中にできるかどうか。泥岩を、打ち合わせたら上手いこと斧の形に割れてくれるか?」

「運次第ですよね」


 アリスとリッカが顔を見合わせた。


「何を話ているんでしょうか、あの人達は」

「打製石器とか磨製石器とか、どっかで聴いたことはある」


 リッカの言葉に、メープルちゃんがため息を吐いた。


「お姉ちゃん、中学の授業だよ・・・」


(そういえば〖仲間〗のゲートは荷物袋にならないかな)私は思いついて、ゲートを出してみる。


「〖仲間〗」


 ゲートが開いた。


 私が石をゲートに通そうとすると、惑星を覆っていたバリアみたいな物が出て弾かれた。


「やっぱり無理かあ」

「スウさん何してるんですか?」

「いや、このゲートで金属製品とか持ち込めないかなって思ったんだけど、人間みたいに弾かれた」

「また和マンチを・・・」

「ただ仕様の穴を突こうとしただけだよ!」

「紛れもなく、それを和マンチと言うのですよ・・・」


 アリスが酷い・・・なんて思っていた私は、ハタと閃く。


「・・・・あ、私またズルい事思いついちゃった。これは絶対いける」


 他の人の空気が ザワリ とした。

 コハクさんとリッカがほんのり酷いことを言う。


「今度はどんなグリッチ利用を何を思いついたんですか、スウさん」

「またズルか・・・?」


 私は(とりあえずやっちゃえ)と思って、持ってきていたでっかい木の杖を取り出す。


 自然物だけで作られている量子魔術の発動体。

 使えるらしいと言うから持ち込んだ。


 とりあえず私は、魔術で斧の刃部分の形をした鉄を作り出した。


「流石に鋼は化合物じゃなくて、合成物なんで魔術では作れないですが。鉄ならそこそこ使えるかなって――ちょっと柔らかいけど」


 言ったけど、誰からも返事がなかった。

 周りを見回せば、みんな鉄の刃を見てプルプル震えている。

 そうして一斉に、


「「「ズリィ!」」」


 と叫んだ。



~~~



鉄器時代までの流れ考えていたんですが、主人公に全部台無しにされました。

この主人公は、いつもいつもいつも作者の考えをショートカットしてくれます(草)

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