第528話 80層に入ります


「お姉ちゃん、アリスさんの送ってくれた説明、読んでなかったの!?」

「だ、だって夏休みの宿題やってる時にメッセージ来たし! ・・・・スウ、服と下着貸し・・・・駄目だ、胸のサイズが・・・」


 リッカが私の服などを入れた巾着リュック(持っていけるように手製――今回は〈時空倉庫の鍵〉が持ち込めないので)を見ながら、絶望するような顔になった。


「リッカの体型だと・・・みんなの服がぶかぶかじゃない?」


 なんたって最年少の綺雪ちゃんとあんまり変わらない、ちょっと大きいくらいなんだから。


 リあンさんが唸る。


「天然繊維の服を手に入れるのが、そもそも大変だったんだよねぇ。高いし」


 するとオックスさんが「ふむ」と言って、


「連合の通販ならすぐに見つかったぞ。今なら80層攻略イベント半額SALEもしてるしな」


 あー、オックスさんの服はどこで買ったんだろうと思ってたら、銀河連合の通販であの服を手に入れたのね?


 リあンさんが呆然とする。


「え!? そうなの!?」

「アンタはほんとそういう所、要領わるいよねぇ。私も銀河連合で買ったよ」


 言ってコハクさんが呆れた表情になった。


「そんな、コスプレみたいな格好で要領悪いとか言われたくないわ!」

「海賊の格好はな! 由緒正しき冒険家の格好なんだよ!」

「ウチもれんごー」


 と、星ノ空さん。


「わたしはファンタシアで買って来ました」


 空さんの木のボタンで出来たジーンズとかも「どこに売ってたの!?」って感じだもんね。

 アリスの格好もたいがい「どこで買うんだ?」っていう格好だと思ったら、ファンタシアで買ってきたのか。

 確かにあそこなら天然素材の服しかない。やるな、アリス。

 しかしアリス、コスプレみたいなのに流石メチャクチャ似合ってる。凄い。流石本職。


 私はリッカに尋ねる。


「じゃあ、リッカも銀河連合で買う?」

「・・・・うん。ジャージとか嫌だし」


 なんだと、貴様?


 結果、リッカはアニメに出てきそうなくノ一みたいな格好になりました。


 くノ一になったリッカがリズムよく飛んで、動きやすさを試している。

 当たり前にバク転とか、空中側転とかしててビビる。


「中身にもこだわってみた」

「中身?」

「うん、日本古来の最強下着」

「・・・・なるほど」


 あれって動きやすいんだろうか? 引き締まるっていうのは聴いたことがあるけど。

 さて――いよいよ転移しようかと、みんなで転送陣に乗ると、私達を送り出すために付き添いで来た命理ちゃんがすこしうつむき加減で私達に云う。


「みんなありがとう。頑張ってね、手伝えなくて本当にごめんなさい」


 私達は首をふる。


「私達が行きたいから、行くんだよ」

「ありがとう」


 言って命理ちゃんは、やっぱり俯く。


「本当にデータノイドの当機には、一人で100層に到達するのは・・・・無理だったのね」

「大丈夫、私達に任せて」


 命理ちゃんが顔を挙げて、目を細めた。


「うん、スウなら安心」

「おうよ! ――じゃあ行ってくるね。まあすぐに一旦戻ると思うけど」

「うん、いってらっしゃい」


「では、転送を開始します」


 NPCさんが転送陣に何かの粉をふりまく。

 すると、転送陣の光が強くなった。


 転送陣に足を踏み入れると、だんだんと景色が揺れだして――

 ――気づくと私達は、森の中に立っていた。


「コケー!」


 リイムが眼を真ん丸にして空を見た。


 楽しそうに羽ばたいて空に飛ぶ。


「リイム、あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ!? 離れ離れになって迷子になったら大変だからね!!」

「コケッ」


 リイムが言って、私の足元に降りてくる。そうして身体を擦り付けてきた。

 ――ライオンサイズだから、体高が腰くらいまで有るけど。



 彼はその後、辺りの匂いを嗅ぎ出した。こんな大自然の森にリイムを連れて行った事ないし、初めての匂いだもんね。

 海はあるけど。


 私は足元の転送陣を見て、「迷子」と言えば、と思い。すぐにやっておいた方が良い事をみんなに提案する。


「とりあえずここに目印になる塔とか立てときませんか? あと、あまりここから遠くない場所に拠点を作りましょう。クリエイトパーチャーが見つかったらその辺りに拠点を作ってもいいと思いますが」


 オックスさんが頷く。


「そうだな。確かにスウの言うとおりだ」


 星ノ空さんが感心した。


「そういう事すぐに思いつくのは、さすがねぇ」

「サンドボックスなサバイバルゲームをやる時の定番なんで」

「ゲームって、案外凄いなあ」


 リあンさんが首を傾げた。


「ゲーム理論ってヤツ?」


 するとコハクさんが眼を細くする。


「それは現実を抽象化して、複数の人間が自己の利益を最大化するのを競う理屈で、お前の思ってるゲームとは違う」


 と、とにかく迷った時に戻れるように、土を縦に積み上げるのは大事。

 さて、私が、


 「クリエイトパーチャー見つかったらその辺りに拠点移動しましょう」と言うと、


 コハクさんが「クリエイトパーチャーは東の大陸には無いらしいです」と言った。


「あ・・・そうだっけ?」


 確かに、アリスがそう言ってた気がする。

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