第520話 相模湾でまたヤツがでます

◆◇sight:鈴咲 涼姫◇◆




 涙 de 告白を受けた日の放課後。私は、今日は部活がないらしいアリスと一緒に帰ることにした。


「部活ないのに、竹刀持ってきてるんだねぇ」

「はい、護身用にもなるので。というかこれは木刀ですけどね」

「竹刀で護身できるの? 威力なくない?」

「ほほう。――では竹刀の突きを食らってみますか? 喉に突きを受けたりすれば、防具つけてても死亡事故がありますし、生身で受けたりしたら、頚椎とか伸びて大変なことになりますよ」

「え、遠慮しておきます」


 私やアリスは江ノ電に乗るので、普段、学校の正門を使わずに裏門から帰るんだけど、なんだか正門に人だかりが出来ていた。


 少し気になったので見ていると、私を発見したらしいクラスメイトの女の子が駆け寄ってきた。


「鈴咲さん! 小さな女の子が波にさらわれて! 沖に流されたんだって!」

「えっ!?」


 確かに学校前の海岸ではよく小さな子が遊んだりしているけれど、あそこは海水浴場じゃない。

 ――ていうか遊泳禁止。

 なんでそんな事に。

 

 私がクラスメイトの女の子に腕を引っ張られて海岸に走ると、彼女が指をさした。


「ほらあそこ! 鈴咲さんなら、なんとかできない!? ――配信で色々な無理難題を解決してきた鈴咲さんなら!!」


 小学校低学年くらいの女の子が、どんどん沖へ流されている。

 女の子はなんとか浜辺に戻ろうと泳いでいるけど、全く戻れないでいる。

 そこで――私は波の動きに気づく。


離岸流りがんりゅうだ・・・・!」

「りがんりゅうってなんですか」


 ここには、ライフセイバーはいない。


 私は、アリスの疑問に答えながらスキルを使う。


「海水浴場での死亡事故の一番多い理由――〖飛行〗。岸から離れていく海の流れだよ。離岸流の有る所は、溝に似た落とし穴みたいになってることが有るから。足を取られたんだと思う」

「え、逆向きの波――そんなのあるんですか??」


 私がスキルを使い舞い上がると、こちらに気づいた20代くらいの女性がこっちに叫んだ。

 彼女は海に飛び込もうとしているのを、周りに押さえられている。


「プ、プレイヤーさんですか!? 飛んで行って娘を助けてくれるんですか!? ――む、娘を陽真里ひまりをお願いします!!」

「任せて下さい!!」

「わたしも飛べますが――」


 アリスは言うけれど、


「大丈夫――タオルとか用意してて」

「そうですね。――涼姫は飛べるし〖念動力〗もあるし、流石に大丈夫ですよね。何かあったら〖テレパシー〗で呼んで下さい」

「ありがと」


 私は返事してから、急いで小さな女の子に飛ぶ。

 離岸流は、地形によって波が変なUターンして生まれるんだ。


「結構、速い」 


 女の子を流している離岸流は、私の飛行速度に比べれば全然遅いけれど、離岸流としては速い。


 秒速2m位で女の子が岸から離れていってる。


 今も女の子は必死に砂浜に戻ろうと離岸流に逆らって泳いでいるけど、全然無理だ。


 離岸流に流されたら水泳が得意な大人でも戻れないのに、小さな女の子の力じゃ砂浜に戻れるわけがない。


 離岸流に流された時は岸に対して並行に泳げば、普通の流れに戻れるので真横に泳いでから戻ってくればいいんだけど、あの女の子が知っているようには見えない。

 

 女の子がいる場所は、もう相当深いんじゃないんだろうか。

 ――にしても、近くにサーファーの男性がいるのに、女の子の方へ向かおうとしない。

 なにやら海の中をしきりに気にし、見回している。

 なにか海面を強く叩いているし、何かを追い払おうとしている様にも見える。

 どうしたんだろう。


 私が飛んでいると、女の子が力尽きたのか、海の中へ姿を消した。


 サーファーが意を決したような顔になってサーフボードの上に寝転がって、女の子のほうへ泳ぎ始めた。

 そうして近づいてくる私に気づいたのか、こっちに叫んだ。

 ちょっと聞こえにくいんで〖超聴覚〗を使用。


「サメがいる!! ――気をつけて!!」


 サメ!? ――そういえば江の島付近でも時折サーファーがサメに襲われる事件が起きているけれど、こんな時に!?

 って、海面に赤い染みが、まさか女の子がサメに襲われた!?


 私は急ぎながら、服がきっと邪魔になるので脱いだ。そうして〈次元倉庫の鍵〉に仕舞う

 後ろから男子生徒の物らしき、


「鈴咲の下着、黒か」


 という声が微かに聞こえてきた。


「んな場合じゃねえだろ!」


 と言う声と、打撃音も聴こえてきた。

 私が海中に潜ろうとすると、近くまで来ていたサーファーの男性が海水ゴーグルをこちらに投げた。


「使ってくれ!! あんた、FLのプレイヤーなんだろ!? ――サメでもなんとかなるのか!?」

「サメくらいなら、なんとか出来ます! ありがとうございます!!」


 私は〈時空倉庫の鍵〉からビニール袋を取り出して、ゴーグルを着けて海に潜った。

 ゴーグルのお陰で、海中でも楽に目を開いていられる。

 私は口から弱い〖空気砲〗を放って、ビニール袋に酸素を補充して、それを吸いながら海の中を〖飛行〗で飛ぶ。

 さらに〖超暗視〗を使って、海の中を見回す。


「女の子は・・・」


 ――いた、深い――相当深い場所でサイドテールの髪の女の子の周りを、一匹のサメが周っている。

 私は、急いで潜っていって、


(〖超怪力〗、〖念動力〗!!)


 〖念動力〗でサメの鼻っ柱をぶん殴る。驚いたサメがヒレを振って女の子から離れていく。


 私は〖念動力〗で女の子をこちらに引き寄せた。


 女の子が暴れながら私にしがみつく。普通なら私まで溺れそうな暴れ方だけど、私には〖飛行〗が有るから問題ない。


 怪我をしてるみたいだけど、血液の膜が海に広がって怪我の状態がわからない。あんまり酷いと患部の近くに触れないと治せない――急いで海面に上がろう。

 かなり血が出ている。


 女の子は息が苦しそうにしているので、私は彼女の口に、柔らかく手のひらを当てて〖空気砲〗で空気を作り、空気が逃げないように気をつけながら彼女に呼吸させてあげた。

 女の子の苦しそうな様子が収まる。


 急浮上しながら〖テレパシー〗で(もう大丈夫だからね)と送ると、女の子が目を見開き――安心したのか、暴れるのを止めた。

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