第521話 スカタンって言う人初めて見ます

 とにかく海面へ出ようとすると、サメが追いすがってきた。


 私はそちらに振り返って、〖テレパシー〗で叫ぶ。


せろ―――ッ!!)


 私がサメを威圧すると、サメは怯えた様子になって沖の方へ逃げていった。


 広域に〖テレパシー〗を放ってしまったので、女の子がちょっとビクッとした。


(大丈夫、大丈夫)


 私は女の子を撫でながら、海面へ浮上。


 海面に顔を出すと、海面で待機していたサーファーの男性がこちらに安堵の表情を見せて、サーフボードの上へ女の子を寝かせろと示してきたので、そうさせてもらう。


 女の子を持ち上げていると、男性が話しかけてきた。


「今の『失せろ』ってあんたの声だよな? いきなり頭の中に響いて、滅茶苦茶怖かっ――て、その子、足が・・・・!!」


 女の子の下半身が海面に出たところで、男性が「ハッ」とした。


 私も女の子の怪我の状態がやっとわかった。

 ――左足の膝から下が食いちぎられている。


 サーファーの男性が歪んだあと、暗くなった。


 海岸の方から「陽真理ぃいぃぃぃいいい!!」という悲痛な声も聞こえてきた。

 でも、私は女の子とサーファーの男性を安心させるように返した。


「大丈夫です」

「大丈夫って、どこも大丈夫なんかじゃないだろ!?」


 男性の声には、少し怒気が混じっていた。


「いたい、いたいいたい。痛いよぉ、お兄ちゃんお姉ちゃん」


 女の子が泣きながら、私とサーファーに訴えかけてくる。


「大丈夫だからね。陽真理ちゃん」


 私は女の子に返しながら、彼女の患部近くに手を当てて〖再生〗を使った。

 骨が生えて、筋繊維が生えて血管、神経、皮膚と瞬く間に再生する。

 そうして綺麗な足が戻った。


「は!?」

「えっ、――私の足、治った?」


 サーファーの男性も女の子も、驚愕に眼を見開いている。

 しかし女の子の傷が大きかったせいで、私はちょっとクラッときた。


 自分自身を治すより、他人を治す時の方が、体力を使うみたいなんだよね。


「おっと」


 海に沈みかけた私の腕を、男性が抱えてくれた。


「すみません」

「いや、この位なんでも――それよりアンタ、スゲェな。頭の中に声を放ったり、あんな大怪我を瞬く間に完治させたり」


 男性は言いながら泳いで、私とボードに乗った女の子を砂浜へ運び始めた。


 男性は足の着く場所までくると、左腕でボードを抱え、右腕に女の子を乗せて、陽真里ちゃんの母親のほうへ歩んでいく。

 私はその後に続いた。


「ひ、陽真里ぃ!!」

「おかぁさーーーん!!」


 男性が陽真里ちゃんを下ろすと、陽真里ちゃんはすぐに母親に駆け寄って抱きついた。


 良かった、本当に良かった。


 私が安堵のため息を吐いていると、すぐにアリスが駆け寄ってきて、


「涼姫、服!!」


 と言って、今日水泳の授業があった人に借りたらしい大きなバスタオルを掛けてきてくれた。


 アリスは最初、部活で使うスポーツタオルを用意していたらしいけど、私が服を脱いだんでバスタオルを借りたんだとか。


 私はアリスの言葉で、自分が今どんな格好をしているのかを思い出して、慌てて〈次元倉庫の鍵〉から制服を取り出して、身に着けた。


「ちっ」


 と、遠くの男子生徒が舌打ちをした。

 横の男子生徒に頭を引っ叩かれている。


「今の鈴咲をエロい目で見るな、このスカタン!」


 私、スカタンって言う人初めて見た。

 てか、私の下着なんか見ても、なんも良いこと無かろうに。


「いやだって、あのおっぱい凄――」


せろ―――ッ!!)


 私が〖テレパシー〗を放つと、男子生徒が飛び上がった。

 この後、彼のあだ名が『えロ』になった。江口っていう名字だったらしい。


 私の〖テレパシー〗を一緒に食らってしまったアリスが、バスタオルで私の髪を拭きながら苦笑い。


「それ止めて下さい、怖いです」


 周りの人も、ちょっと怯える様にこっちを観ている。


「ご、ごめんごめん」


 私をここにつれてきたクラスメイトの女の子も、苦笑いしている。


「鈴咲さん『覇気』がやばい、『覇気』が」


 私達が笑っていると、陽真里ちゃんのお母さんがこちらに走ってきて頭を下げた。


「陽真里を助けてくださってありがとうございます! 本当にありがとうございます!! ――あんな大怪我まで治してくださって、もし貴女が居なかったらと思うと・・・・」


 陽真里ちゃんのお母さんの顔が、涙でボロボロだ。

 お化粧が大変な事になっている。

 頬とか、真っ黒な筋が入ってしまってるし。


 ちゃんと娘さんを愛しているんだ――嬉しいな。


「いえ、拙者は当然の事をしたまでで」


 お母さんは、私の言葉に少し戸惑いながら陽真里ちゃんの背中を軽く叩く。


「・・・・ほら、陽真里も」

「おねえちゃん有難う、助けてくれて、足も治してくれて」


 私は、陽真里ちゃんの頭をなでなでしながら微笑む。


 私が陽真里ちゃんに視線を合わせるためにしゃがむと、アリスがタオルを私の頭に掛けたままにして手を離した。


「ほんと怪我も治って良かったよ。陽真里ちゃん、気をつけてね。見て、あそこの波、あそこだけ変でしょ?」


 私が問題の離岸流を指差すと、陽真里ちゃんが頷く。


「うん・・・波が割れてるみたい――波が逆さに動いてる」

「ああいう場所は危ないから気をつけてね」

「・・・うん、分かった」

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