第169話 トレジャーハントします

 ――にしても私はCARシステムな構えで、カービンを大事そうに抱える格好なんだけど、空さんとオックスさんの泰然自若さがヤバイ。


 空さんは、二丁のマシンガンを両腕で掲げてVの字に構え。

 オックスさんは、ロケランを担いで悠々。


 私が百貨店の壁に沿うように歩いてるのに、通路の中央をのっしのっしと歩く二人。

 勇ましすぎて怯える。


 威風堂々と歩くオックスさんが、急にロケランを構えた。


「前方にゴブリンがいるぞ」


 空さんが、すぐに射撃を始める。


「BANG! BANG!」


 巻き起こる爆炎、硝煙。

 二人共、すんごい楽しそう。

 瞬く間にゴブリン討伐完了。

 ゴブリン涙目。


 こんな調子で危なげなく進むと、いろんな商品が見えてくる。


「この辺りは婦人服売り場だねぇ――殆どがボロボロになってて、使い物にならないなあ」


 言った空さんが触れると、布が崩れたりする。

 まだ着れそうなのもあるけど、探すのが大変そう。

 オックスさんが、まだ着れそうな袴っぽいのを見つけて、つまんで興味なさそうに言う。


「婦人服売り場ばかりだな。1階から3階まで、殆ど全て婦人服だぞ。紳士服はどこだ」

「でも婦人服といっても、SFな和風も有って面白くね?」


 空さんが興味深げに見回している。

 確かに肌の露出が多めな着物とかもあって、面白い。

 私も見回していると、見つけた。


「ネイルサロンがある・・・・だと?」


 私は英語でネイルサロンと書かれた店に入ってみる。

 そして私が想像していたものが、本当にあった。


「あの、着脱可能なネイルがあったんだけど」

「え、マジで!?」

「酸素を接着剤にできる器具付き」


 酸素の結合のしやすさを利用してるみたい。


「なにそれ、超科学すぎ! うわ――本当だ、凄お! これは便利だ! 貰っていい?」

「どうぞ、どうぞ」


 ネイルなんてしないし。

 空さんがさっそく爪に超科学ネイルを着けて、ライトに透かす。


「スウありがと、これマジでいいね。地球でデコってもらおう」

「いいものなの? 私わからなくて」

「なに、ネイルやったことないの? じゃあ、今度一緒にネイルサロンいこうよ」


 私はネイルをした自分をイメージしてみる。

 モノクロームな格好なのに、爪だけがやたらギラギラ。想像して、たじろいた。

 私の普段着に・・・・多分ネイルは合わない。


「いや私、きっと似合わないんで・・・やめとくよ」

「なんでオシャレしようよー!」


 その・・・・私もオシャレしてるつもりなんだけど、空さんのおしゃれは方向性が私には向いてないというか。

 ほら、音楽の方向性みたいなヤツで解散する人たちも居るんだし、オシャレの方向性もあるかもとか。


「端的に言うと、もっと目立たないオシャレが好きというか・・・」

「目立たなきゃ、オシャレじゃなくない?」


 やっぱりオシャレの方向性が違いすぎる。

 あと体育の授業で外れちゃうかもだし、ネイルすると料理できなくなるらしいし。


「あの、私、料理しないと」

「あー、そっか。スウは料理するもんね」


 私が赤ベコみたいに頷いていると、オックスさんが奥へ入って行った。


「こっちは下着売り場だな」

「あ、女性用じゃん! オックスさんは見ちゃ駄目!」


 空さんが瞬間移動するみたいな動きで、オックスさんの目を塞いで言った。


 下着売り場かあ。

 私も入ってみる。

 ――空さんに止められないよ? 一応、女だからね? 才能が有るかは知らないけど。

 未来の下着は、なんか凄い。

 ホログラムとか――いやまて、それは履いているの?

 あと、ボタンを押すと再利用できるインクみたいなのが張り付く、形状記憶インク下着とか・・・・記憶形状インクっていうのは凄いけど――ボディペイントとどう違うの?

 

 私が倫理観の迷宮に迷い込んでいると、オックスさんが何やら気づいた。


「別に俺も娘の下着を買ったりするんだがな。まあいい。――お、向こうにジュエリー店があるじゃないか」


 手を離されたオックスさんが、通路の向こうを向きながら言った。

 宝石店をみて、空さんの目が、宝石のように輝く。


「マジで!? あれって、貰っていいの?」

「いいらしいぞ」

「おおっしゃあああ!!」


 空さんがジュエリー店に走り、オックスさんが後をついていく。

 やがて二人はショーケースを銃の底でぶっ叩いて、中の宝石を掻っ攫って行く。

 ・・・・やってることの見た目が、完全に強盗なんよ。先日の銀行強盗を思い出してしまう光景だよ。

 まあ実際、私ら遺跡荒らしなんですけども。

 蔦が張ってなかったらもう、宝石店への押し入りにしか見えなかっただろう。

 風聞が酷いんで、私は服でも漁ってようかな。


 あ、この形状記憶インク下着、インクを収納すれば下着の汚れが剥がれるのか・・・・いいかも・・・何個か貰っておこ。


❝スウ、その下着使うつもりか!?❞

❝おい、スウがどの下着を持っていったか――あ、使えねえカメラマンだなおい!❞


 私は〖念動力〗で、私を映すイルさんを回れ右させた。


 私が下着を時空倉庫に放り込んでいると、空さんが私を見てキョトンとした。


「スウは宝石要らないの?」

「そっちは、なんか・・・エグくて・・・」

「なにそれ? スウの取り分、ほい」


 空さんが、アクセサリーを一掴みして投げてくる。

 この光景見たことある。

 アニメで山賊がやってた。


「なんか、妙なこと考えてない?」

「そ、そんな事ないです。空の姐御」

「思いっきり考えてんじゃん(笑)」


 空さんが「ゔぁははははは」と笑う

 オックスさんが〈時空倉庫の鍵〉を閉じてロケランを担ぎ直す。


「おし、取るもの取ったし行くか」

「トルの字が」

「トレジャーハンターと言ってくれ」


 まあ住んでた人の子孫すらいない、1000年前の遺産だしなあ。

 この建物の条件だと、日本ですら遺失物として届けたら100%貰えそうな感じする。

 星団連合の法律でも、持ってって良いらしいしなあ。


 こうして私達はゴブリンを倒しながら、おもちゃ屋、本屋、家具屋、楽器屋と荒らし回った。

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