第160話 颯爽と去り(逃げ)ます
吹き飛んだ銀行強盗が、みぞおちを押さえ、悶絶しながら床を転げ回る。
すると他の銀行強盗の一人が、仲間がやられた事で、アルカナくんに拳銃を向ける。
――不味い!!
あの拳銃はマカロフだ――なら。
強盗が撃とうとした瞬間――私は〖念動力〗で、拳銃の安全装置を引き上げる。
マカロフには、デコッキング機能がある。安全装置を上げると、撃鉄が戻る。すると撃てない。
「――なにっ!? なんで・・・!!」
アルカナくんが床を蹴って跳ぶと、銃を構えていた強盗の顎に膝蹴り。強盗の歯が砕けるのが視えた。
なんて威力の膝蹴り――アルカナ君のスピードが凄まじい。
強盗が、顎を押さえながら転げ回った。顎の骨が砕けていそう。
残りの2人の――1人が私に銃口を向けてくる。
もう1人は、少しだけ札束が詰められたバッグを、銀行員さんに「寄越せ」と叫んでいる。
「こ、このガキもプレイヤーかよ!?」
いや、その子はただの銀河連合市民です。
「プ、プレイヤーめ! テメェ等ズリぃんだよ!! ――なんで今日に限って、こんな奴と
出会いたくなかったのは、お互い様。
強盗が私に銃口を向けようとしてくる。
相手が持ってるのはトカレフ――これやマカロフは日本でも、たまに押収される銃だ。そしてトカレフには安全装置がない。
私は半身になり、〝銃口〟を躱しながら胸のペンを引き抜く。
VRが地球の銃でも光らせて目視させてくれるけど、流石にこの距離の弾丸は躱せない。
でも、銃口なら躱せる。
相手が銃口を振り回す、それを私は躱し続ける。
それでも、銃口と私の体が重なる瞬間はどうしても出てくる。
だけど大丈夫。〖念動力〗で、銃の撃鉄を握り込んである。グロックみたいな銃は撃鉄がないし、スライドを握られても撃てるけど、マカロフは撃鉄が露出しているからそうはいかない。
でも相手の握力が結構凄かった。4本の指で無理やり引き金を引いてきた。
「このっ!!」
発砲音が響く。
――だけど私は力負けしそうになった瞬間に、姿勢を低くした。
あと、魔術も発動して空中に盾を生成した
「何なんだ! 何で鉄板が出てきたんだ!? ――何で銃弾を避けられるんだ!!」
相手が叫んでいる間に、私はさっき強盗に投げて渡した札束たちを〖念動力〗で相手の顔に貼り付けた。
アルカナくんが、札束を顔に貼り付けた強盗に足払い。
強盗は後頭部から床に落ちて、頭を押さえて転げ回る。
私は〖念動力〗で拳銃を取り上げる。
さらにペンを振りながら、詠唱開始。
「
拳銃の銃口を、鉄で塞いでしまう。
「む、むぐ! ――むがぁ!!」
視界と呼吸を奪われた銀行強盗が、札束を引きちぎり始めた。
「お札の破損は――」
〖超怪力〗と〖念動力〗と〖前進〗で、自分を加速。
「――犯罪です!!」
飛び蹴りを敢行。あ・・・・私今、スカートじゃん。まあいいか、どうせ相手は視界を奪われていて見えない。
ラ◯ダーキックを、強盗の胸に炸裂させた。
当たった足に、何かが砕ける感触があった。多分、強盗の肋骨が砕けた。
泡を吹いて気を失う強盗。
「〖再生〗」
強盗の怪我を、一応治しておいてあげる。他の強盗の怪我もだ。
「うわぁぁぁぁぁあ! 何なんだよ、このガキ供!! 拳銃相手に、こんなの人間じゃねえよ!!」
最後に残った強盗が、バッグを抱いて出口に走る。
まあ、逃げるなら――見逃してあげよう。
どうせ銀行強盗したお金なんて、使えやしないし。
なんて思ってたら、
「来い、お前は人質――」
舞花ちゃんの腕を引いた。
この瞬間、ヤツは、私の逆鱗に触れた。
私は魔術で自分の周囲に、無数の鉄球を生成。〖念動力〗で、強盗に殺到させる。
「え、なに、やめ―――!!」
強盗が、体中に鉄球の突撃を受け昏倒する。
「――いらない事をしてくれて・・・舞花ちゃんに手を出さなきゃ見逃してあげたのに」
見逃しても、お札の番号とかから警察に捕まるだろうし。
「まあ怪我の回復はしといてあげる。〖再生〗」
舞花ちゃんが目を
「涼姫お姉ちゃん・・・・すご・・・生身でもこんなに強いんだ・・・・」
肉弾戦は不得意です。相手が弱かっただけ。
相手がみずきとかみたいな強さの人だったら、詰んでたと思う。
視る舞花ちゃんは、アルカナくんを見て瞳をキラキラ。
「アルカナくんもすんごい強さだったし」
だよねえ。あの強さには、お姉さんもビックリだよ。
振り返ればアルカナくんと銀行員のお兄さんが、強盗を縛り上げていた。
もう大丈夫かな。
銀行員のお姉さんが、私に駆け寄ってきた。
「あの、幾ら引き落とされたんですか?」
「えっと10万円です」
あ――別に、舞花ちゃんに10万円貢ごうとしてたわけじゃないからね!?
今後の生活費とかも含めて降ろしたんだよ!?
銀行員のお姉さんが持っていたお札から10枚を取って、私に渡してくる。
「じゃあこちらを、どうぞ。それからお名前は?」
え、別に目立ちたくてやったわけではない。
「拙者、名乗るほどの者ではござらぬ」
「なぜ急に時代言葉になったのかはわかりませんが――この後、警察が事情聴取すると思うので・・・――」
あ、そういう意味!? ―――私は自分の顔が熱くなるのがわかった。
すると、お姉さんが頭を下げてくる。
「――でも、本当に助かりました。銀行員もお客様も誰も怪我しませんでしたし。私なんか撃たれた時、死んだと思いました。あの時、椅子で護ってくださったんですよね?」
「は、はい、一応・・・」
キョドる私をみた銀行員のお姉さんが、首を傾げる。
「なんだか――勇敢な方かと思ったら・・・・いえ――事情聴取とかめんどくさいとは思いますが、やはり避けられないと思うんですよね」
「――ですよね」
本当にめんどくさいけど・・・・逃げるわけには行かないよね・・・。
ちなみにアルカナくんも銀行員のお兄さんたちに、「ありがとう」「君すごいな」とか言われている。
私は、お姉さんに本名とか諸々告げて、
「じゃあ用事があるんで、事情聴取とかは連絡下さいって言っといて下さい」
「はい」
アルカナくんと舞花ちゃんとケーキ食べてお祝いをするっていう、特大イベントがあるんです。
私は舞花ちゃんとアルカナくんの手を引いて、外に出る。
出ると、一台の白いバン。
すぐさま乗り込むためだろう、ドアが開いたままになってる。
中には拳銃のマガジン。
明らかに強盗の車。
私は〖念動力〗でドアをしめ、鍵をロック。さらに鉄を被せておく。
そして尖った鉄の棒を生成して飛ばして、タイヤに突き刺しパンクさせておいた。
すると、遠くからサイレンが聴こえてくる。一瞬「パンクさせたから!?」とかビクッとなったけど、銀行強盗を捕まえに来たんだろう。
なら、舞花ちゃんとケーキを食べるのを邪魔されてはたまらない。
私は舞花ちゃんをお姫様だっこで抱えて、空へ飛翔した。
アルカナくんは、私の背中に念動力で固定。
舞花ちゃんが、嬉しそうに微笑む。
「あははは!! 凄い、飛んでる!! 涼姫お姉ちゃん、こんなの本当にスーパーヒーローじゃん!」
するとアルカナくんが申し訳無さそうな声を出した。
「本当に、涼姫様があそこまで肉弾戦までできるとは・・・護衛形無しです」
「いや、アルカナくんがいなかったら危なかったよ」
「それはないと思います。恐らく涼姫様は一人で乗り切れたと思います」
「いやいや拳銃相手だったし。――そうだ、舞花ちゃん――美味しいのって、どこのお店?」
「あそこのピンクの屋根」
「おっけー」
こうして、その日は至福の甘味を堪能しました。
警察の事情聴取はめんどくさかった。
その後「スウ、お手柄!」とかいうニュースがあちこちを騒がせて、これでさらに面倒くさくなった。
あと舞花ちゃんとデートしたのが、アリスにバレて「むっす~」とされて「わたしと友達になったお祝いなら、なんでわたしを誘わないんですか」と言われ、一緒にケーキを食べに行くことになった。
リッカも「ケーキ! ケーキ!」と騒ぎだしたので一緒に行くことになった。
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