第89話 洞窟に挑戦します

❝マイルズ、早々に撤退www❞

❝判断が早いワロwww❞


 私も雲の上に出る。


 雲の上の気流が安定した場所で、マイルズがホバリングしていた。


『ボクでは、翼のある機体でこの環境を飛ぶのは不可能だったようだ』

「逃げるときは一言、言ってよ!」

『いや、お前は普通に飛んでいたんでな。普通のパイロットなら風速25メートルでも死を覚悟するのに、お前はやはり凄いな』

「バーサスフレームが凄いのは有るけど、決して普通ではない! 必死に挙動を操作してたよ!」

『そうか、お前でも必死になるか』

「かなり必死だった―――・・・・やっぱり40層攻略では、スワローさん以外の機体に乗らないと駄目かも」

『その辺りも考えておいてくれ。お前が居るのと居ないのは、There is a world of difference.(世界が変わるほどの差がある)』

「う、うん・・・頑張る」


 凄く私の力を欲してくれていて嬉しいけど、なんか恥ずかしいな。


『しかし、スワローテイル以外に乗る必要は無いと思うぞ』

「そうなの?」

『スワローテイルの胴体はリフティングボディという、胴体自体が揚力を得る形になっている』

「えっ、このアホウドリみたいにお腹ぷっくりな胴体に、そんな秘密が!?」

『マイマスター。アホウドリみたいにお腹ぷっくりなんて、そんな事を思っていたのですか』


 イルさんが四肢を地面に着いて、悲しそうなリプライをしてきたので、私はちょっと慌てる。


「あっ、ごめん! でも可愛い流線型だとおもうよ!!」


 マイルズも、ちょっとフォローしてくれる。


『機能美に溢れた形だな。という訳で、他のバーサスフレームを用意する必要はないかもしれん。先ずはシミュレーターで試してみろ。――しかしスウ、悪いが地上に向かうのはもう少し待ってもらえるか。ハリケーンが通り過ぎそうだ、マシになってから降りたい。目的の場所は洞窟だから、外が荒れていても大丈夫だ』

「りょかい」


 私達は、上空でホバリングしながら暫く待った。

 その間はグルメの話になった。


「フェイレジェは、ゲテモノが多いと思うんだよね」

『俺からしたら、日本人もどうかと思うぞ。タコを食べるだろう』

「美味しいじゃん」

『魚の精巣を食ったり』

「美味しいじゃん!」

『牛の舌を食ったり』

「美味しいじゃん!!」

『確かに、どれも美味うまかった』

「美味しかったんかい!」

『材料が多かったり長い文化を持つほど食の研究が進むから、不思議な料理が増える傾向はある。歴史の長い日本に不思議な料理が多いのは仕方ない。フェイレジェ世界も広く、また星歴3000年以上と、歴史が長いからな。美味しい物を発見してしまったのだろう』

「――なるほど」

 こんな風に話して、30分ほど待つと台風がだいぶ過ぎ去った。


『そろそろ降りられそうだ、降下するぞ』

「はい」


 まだ風は強いけど、随分マシになっている。


 二人で岩陰にバーサスフレームを置く。


 私が、以前買ったアンカーを使ってスワローさんを固定しているとマイルズが関心した。


『アンカーか、準備が良いな』

「以前買ったんだー」

『俺の機体も吹き飛ばされないかは、少し心配だな。買うか』

「じゃあ―――」


 私はスワローさんを人型にして、マイルズの機体を抑えて飛ばないようにした。


『なるほど、これは良いな。助かる』

「この方が、互いの機体の重量もあがるし。――じゃあ生身で降りる?」

『ヘッドギアを忘れないようにな』

「おk」


 そうして機体の外に出る。


「風――やばい、強すぎ! 雨で前が見えない――!」

「さっさと洞窟に入ったほうが良いな」


 マイルズが私の手を引いてくれる。

 男の人に手を引っ張られたのは初めてだ。


❝マイルズ貴様ぁぁぁぁぁぁ!!❞

❝貴様だけは赦さん!❞


「ふふん。羨ましいか、スウの手は柔らかいぞ」

「だから挑発しないで!」


 というか、視聴者も視聴者だ。私の何が良いのか全くわからない。

 

 洞窟はすぐに見つかって、中に飛び込む。


 水滴を飛ばそうと頭を振っていた私の視界に、嫌な物が飛び込んできた。


 地底湖だった。


 というか地底湖しかない。奥に続く道とかがない。


「まさか――〖超暗視〗」


 やっぱり地底湖しかない。ということは・・・・、この地底湖を?


「え、潜るの?」

「少し潜水する」

「まって、こわい。普通にこわい」

「怖いか?」

「どんな病気や生き物がいるかわからないじゃん!!」

「お前のパイロットスーツがあれば大丈夫だ」

「ムリムリムリムリ、洞窟の中の湖とか怖すぎて無理!」


 マイルズが湖底を照らす。

 

「綺麗じゃないか?」


 異様に青い地底湖が、光に映し出された。


「なにこれ、なんでこんなに水が異様に青いの?」

「ここの場合、金属が混ざっているらしいな」


 ――金属。


 湖底を見れば、集合恐怖症な人が悲鳴を挙げそうな光景が広がる。というか集合恐怖症じゃなくても怖い。


「湖底の大量の六角形なに!?」

「何かの結晶だろう」


 湖底の様子に戦慄する私の視界を、黒い影がぬるりと横切った。


「い――いま、巨大な魚影が見えたんだけどっ!!」

「あれは肉食だが、奴にはお前のパイロットスーツを破れない」


 肉食なのかよ!

 というか、この先進めそうな場所って・・・・。


「湖底で巨大な結晶の柱が折り重なって、空洞がぽっかり開いてるんだけど。まるで化け物のキバみたいな――口の中みたいなんだけど・・・まさか」

「あの空洞に入るんだ」


 この人、なんでこの光景が怖くないんだ!?


「ねえ、こわくないの!?」

「怖いならお前は目をつむっていろ、運んでやる」

「目をつむって訳分からん湖の中に入るとか、もっとこわいわ!」


 泣くぞ、女の子の才能がないけど、女の子だぞこっちは!


「だが、あの奥に行かないと〈マッピング〉のメモライツは手に入らないぞ」

「えええ・・・」

「他の洞窟は、ハリケーンの中だしな。俺の次の休暇はいつになるか」


 〈マッピング〉というのは大分強力だと聞いた。この先の層を攻略していくなら、是非欲しい――覚悟を決めるしかないか。


「やったろうじゃん!」

「良い心意気だ」


 私は、3歩ほど下がって走って勢いを付けて地底湖に飛び込んだ。


「吹っ切れたか?」

「全然こわい!」


 酸素はちゃんと、背中の酸素供給器がヘッドギア内を満たしてくれる。


 水中に入ってきたマイルズが、私にアイコンタクトして手を握って導いてくれる。


 私達は泳ぎながら、化け物の牙のような岩の奥へ入っていった。


 ちなみに進む途中、巨大な魚(バラクーダと名前が表示された)が近づいてこようとしたので、私は〖念動力〗と〖超怪力〗で、魚を握り潰した。


 なにあのバラクーダって魚の口・・・顔が4つに裂けて、骨だらけの口の中が見えたよ・・・・怖すぎ。


 やがて、酸素がある空洞にやってきた。


 急いで水から上がって首をふる。


「こ゛わ゛か゛っ゛た゛ああああああ!」


 恐怖を振り切るように、涙目で思いっきり叫んだ。


「俺は、怖がりながら躊躇なく魚を握りつぶすお前が怖い」

「アイツ、私達を食べる気だったんだよ!?」

「まあな。しかし俺に銃を撃つ暇も与えないとはな。ここからは、お前も銃を出しておけ」


 そういえば、マイルズの持つアサルトライフルはMDRっていうのに似てる。


 拳銃の方はベレッタM9っていうのに。

 どっちもアメリカで使われてる銃だ。


 MDRは正式な採用されてないけど、M9は軍で正式採用されてる。


「あ、うん」


 私は〈次元倉庫の鍵〉からニューゲームを取り出してアタッチメントでカービン化しておく。


「〈次元倉庫の鍵〉か、便利なものを持っているな」

「あげようか?」

「なに・・・―――良いのか?」

「アリスと私で半分コしたんだけど、まだ大量にあるんだよね」


❝うらやま❞

❝マジかよ、気前いいな❞


「視聴者に配れるほどは、流石にないけどね・・・マイルズは自己強化しといて欲しいし」

「こっちも、お前には自己強化しておいて貰いたい」

「お互い様かあ」

「しかしお前の視聴者の手前もある、貰うのは悪い。買い取らせてもらおう。――そのアイテムは、買い取れるだけでも幸運なアイテムだからな。100万クレジットでどうだ」


 確かにマイルズを羨ましがるコメントが多い。


「これは日常生活でも便利だもんね――私もこれで登校とか楽だし」


❝あ、コイツ〈次元倉庫の鍵〉で置き勉してるな!❞

❝ズリィwww❞

❝なんて事をワロw❞


「だ、だって面倒だから・・・・」


❝「面倒だから」で、VRとリアルを同時に操作する人間だからなwww❞


「・・・・じゃあマイルズそれで」

「助かる」


 あ、これでバイク買えるじゃん。


 マイルズがウィンドウ操作でクレジットを移動させているので、私は〈次元倉庫の鍵〉を取り出してマイルズに渡した。


 マイルズは「これが〈次元倉庫の鍵〉か」と言ってから、腕につけて何度か開閉した後、私にお礼を言ってきた。


「ありがとう、恩に着る」

「いえ、普通に買い取ってもらったし」

「言っただろう。買えるのが、そもそも幸運なんだ。それも連合クレジットなら、ボクは有り余っているから本当に助かる」

「そっかあ」


 マイルズは背負っていたゴツい軍用リュックを開くと、時空倉庫の中でひっくり返した。


「流石アメリカ人。ワイルド」

「お前らジャパニーズが丁寧すぎるんだ」


 マイルズは言って、身軽になった事を確認したいのか、何度か跳躍した。


「これはいい。体力の無いボクには、あのリュックはかなり邪魔だったんだ。本当に良いものを売ってもらった」


 マイルズが私にサムズアップしてくる。しかしマイルズは表情が希薄で、目の下が隈だらけなのでなんとも似合わない。


 私が「ぷ」っとなると「貴様・・・」とマイルズがむくれた。


 マイルズは、プリプリしながら奥へ進む。


「まって、置いてかないで!」


 こんな恐ろしい場所に1人にされたら泣いちゃう。

 リアルのダンジョンは怖すぎるよ。よくゲームのキャラは、ダンジョンとかを平気で探索できるなあ・・・男性だと余裕なのかな?


 やがて巨大な空洞にたどり着く。


「なんかコウモリみたいな生き物がウジャウジャいるんだけど・・・」

「あれがグレムリンだ」

「今度はコウモリかあ・・・あれを全部倒さないと、印石の回収とか大変だよね?」

「そうだな。しかしあれでも38層の敵だ、一匹一匹がかなり強い」


 私は天井に張り付く大量のコウモリをみながら(一匹一匹倒すのは面倒だなあ)と、暫く考える。

 

「よし」


 私はネックレスを握る。

 すると波紋とともに私の右上に開く、扉。


 後は〖念動力〗と〖超怪力〗で、バーサスフレーム用の武器の先っぽを引き出した。


 マイルズがふとコッチをみて、コウモリに視線を戻し――もう一度、視線をこっちに向けて、目をみひらいた。

 奇麗な二度見だった。

 さらに冷や汗みたいなのを流しだす。


「おい―――お前・・・何をしている!!」

「え・・・・これで、一掃しようかと」


 マイルズが顎を落とす。


「はあ!?」


❝ちょwww❞

❝バーサスフレームの武器持ち出してきたよこの子www❞

❝つか、そのバカでかいゲートが開く〈次元倉庫の鍵〉どこで手に入れたんだよワロワロワロ❞

❝また滅茶苦茶やりだしたwwwwww❞


 マイルズが、ぽかんと荷電粒子砲をみて首をふる。


「せ、せめて陽電子砲はやめろ・・・」

「あ、そっかこの荷電粒子砲は陽電子砲だから、放射線が――」

「着弾時に爆発を起こすだろうが! 生き埋めになる気か!!」

「た・・・・たしかに・・・」


 ――じゃあロケットランチャーと、162mmキャノンもだめだなぁ。破壊力が高すぎる。


「64mm機関銃なら大丈夫かな?」

「それも戦車に搭載するような大砲じゃないか・・・。まあ、軽く一発撃ってみろ」

「うん」


❝おいお前ら、スウが生身でも絶対襲いかかるなよ――戦車砲で撃たれるぞ❞

跡形あとかたも残んねぇwww❞


 私は指を照準代わりにして、〖念動力〗で銃身を調節する。


「撃っても天井が崩れたりしないか、一応チェック。〖第六感〗――うん、大丈夫そう。よし――発射!!」


 〖第六感〗で、危険はないか察知しておいて撃ってみる。

 ぼごーん と、機関銃から聞こえる音とは思えないような音を放って、銃弾というか――砲弾にしか見えないサイズの弾丸が射出された。


 砲弾が天井に当たって、辺りに岩が飛び散って、その岩でもコウモリたちが死んでいく。

 しかし、私が取り逃がしたコウモリがこっちに飛んでこようとするので、マイルズがアサルトライフルで撃ち落としている。


 私もニューゲームにカービンピストルアタッチを着けて構える。狭いので、銃を胸に抱くようなCARシステムの構えだ。


❝なあ、あの銃なに?❞

❝知らん❞

❝発掘品かな?❞

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