第87話 頑張る部活少女たちを激励します
部活っぽいユニフォームの女の子に抱きしめられながら泣いてる、学校の制服の女の子。
ビーチバレーボール部のユニフォームだ。
爽波高校の近くには砂浜があるんで、そこで練習してる結構強い二人組。
この夏の全国大会に出場決定したって、垂れ幕出てたけど。
「ヨーちゃんごめんね・・・、ごめんね・・・」
泣いてる人が、ヨーちゃんって人に謝ってる。
泣いてる人を抱きしめていた――たぶんヨーちゃんって愛称の人まで、大粒の涙を流し始めた。
ヨーちゃんさんは、しゃくりあげながら首をふる。
「ユナのせいじゃない! ユナこそ3年間ずっと頑張って、やっと全国行けるのに――怪我なんかで諦めないと駄目なんて・・・!」
ユナさんが「ごめん、ごめん」と繰り返す。
ユナさんは、膝に包帯を巻いている。
しかも、地球の包帯じゃない。あれは多分フェイレジェの包帯だ。
ということは、向こうでも完治させられなかったのか・・・。
そうかプレイヤーじゃないと、身体データが向こうに保存されてないから再生できない。
「あ、あの・・・・」
私は恐る恐る2人に声を掛ける。
この人たちも、アリスみたいに部活を頑張ってるんだ。なら助けてあげたい。
しゃくり上げていたヨーちゃんさんが、訝しげな視線をこっちに向けてきた。
涙を拭いて、ユナさんを庇いながら睨んでくる。
「なに! アンタ誰――1年生みたいだけど!」
こ、怖い。なんで女子高生はこんなに怖いんだろう・・・しかも上級生かあ、あの上履きは3年生だ。
「あの・・・・もしかしたらですが・・・膝の怪我を治せる可能性が、微レ存」
「微レ存??」
あ、ネットミームが通じてない。
「治せる可能性が有るかも、と思いまして・・・」
すると、涙を拭いて私を見たユナさんがなにかに気づいたような瞳になって。
「あ! スウ」
ヨーちゃんさんも気づいたような表情を、私に向けてくる。
「スウ? スウって――――あのスウ!? こんな暗そうな子が!?」
私は「暗そう」と言われ、『つうこんのいちげき』を食らって胸を抑えてよろける。
「は、はい。多分そのスウです」
ユナさんが私に期待の眼差しを向けてくる。
涙のせいか、キラキラしている。
「治せるの!? 本当に!?」
「わ、わかんないですけど・・・試してみますか?」
私の煮えきらない言葉に、ヨーちゃんさんが不愉快そうな顔になった。
「わかんないって・・・・無責任な」
「す、すみません・・・手に入れたばっかりで、あんまり使ってないんです」
「薬?」
「いえ、スキルです」
「スキル? ――なんかゲームみたいな事言ってるし・・・」
まあ、運営はゲームだって言い張ってますから。
「た、試してみますか?」
私がもう一度尋ねると、ユナさんが逡巡した後、力強く頷いた。
私は、彼女の瞳に決意の光を見た。
しかし、ヨーちゃんさんは私を信じれない様子でユナさんに囁く。
〔ユナ――怪しいよ〕
〔でも、スウだし―――何でもできそう〕
私の評価の壊れっぷりが気になるが――ユナさんの瞳は真剣だ。きっと藁にもすがる思いなんだろう。
「ヨーちゃんと全国大会に出れる可能性があるなら。私、逃したくない」
「―――ユナ」
どうやら、ユナさんの決意は変わらないみたい。
私はユナさんに頷いて近づく。
「じゃ、じゃあすみません。包帯を外してもらえますか? 多分その方が良いと思うんで」
さっきのシャーペンの穴も撫でる感じで治ったし。
(〖第六感〗)
うん、〖第六感〗も言ってる。多分、患部近くに直接触らないとあんまり治らない。
「ユナ、それ外したら元に戻せないんじゃ・・・」
ヨーちゃんさんが心配そうに言うんで、私は返す。
「もし、駄目で包帯を戻せなかったら私が戦闘機でハイレーンに連れていきますんで」
「スウちゃん、ありがとう」
言ったユナさんが、フェイレジェの包帯を難しそうに外す。
やがて、紫に腫れ上がった膝が出てきた。
凄く痛そう・・・。
「じゃあスキル使いますね」
「お願い・・・」
私は膝の前にしゃがんで、膝にダメージを与えないようにゆっくり触れる。
それでも傷んだのか、ユナさんが呻いた。
「いっ」
「〖再生〗」
私の右手が光り始める。
「ひ、光った!?」「うわ!!」
そんな言葉が二人から漏れた。
私がユナさんの膝を撫でると、洗うように紫色が消えていく。
(行ける)
私が確信するのと同時、二人が息を呑む音がした。
やがて、全ての紫色が消える。
「どうですか」
私が顔を挙げると、ユナさんとヨーちゃんさんの驚愕の瞳が私を観ていた。
ユナさんが膝を動かして呟く。
「痛くない――」
足を振ったかと思うと、徐々に声を弾ませだす、ユナさん。
「――全然痛くないよ、ヨーちゃん!」
「ほんとに!?」
ユナさんが、ジャンプする。
流石は、ビーチバレーの全国選手。
凄い高さだ。手を上げれば天井に着くんじゃないだろうか。
しかし、私は心配になって忠告する。
「あ、まだあんまり無茶しないほうが・・・暫くは安静にしたほうが・・・・」
しかし私の言葉が聞こえているのかいないのか、ユナさんは着地すると俯いて暫く震えた。
彼女が顔を挙げると、大粒の涙。
「ありがとう、スウちゃん。本当にありがとう!」
私に抱きついてきた。
あ、いい匂い。香水とか付けてなさそうなのに、ナチュラルフローラル。
すると、ヨーちゃんさんも泣きながら私に抱きついてくる。
「スウ、ありがとう! ユナを治してくれて――私達の夢を繋いでくれて!」
あー。こっちもいい匂い。ナチュラルフローラル。
「いえ――その、お礼はいいです――それより・・・私は鈴咲 涼姫という名前で、学校であまりスウと呼ばないでほしいと言いますか」
「あ、そっか! ごめん・・・・鈴咲ちゃん!」
「ごめんね鈴咲さん。本当にありがとう!」
「いえ、当然の事をしたまでで候」
「なんで急に武士」「大河ドラマみたいな喋り方」
2人が涙を拭きながら笑う。
可愛い女の子が笑顔になって良かった。
「じゃあ、2人とも全国大会頑張ってください」
「うん!」
「鈴咲さんにトロフィー見せるね!」
「楽しみにしてます!」
2人が陽光に向かって走っていく。
その姿を微笑ましく見ながらも、私は心のなかで、
(安静にしろって言葉は、聞こえなかったかー?)
とか毒づいた。
ふとユナさんが満面の笑顔で振り返り、私に手を振ってくる。
「良かったら、試合見に来てねー!」
(それは勘弁してくださーい)
こちとら、人が多い場所は辛いタイプのコミュ障ですー。
アリスの試合の応援に行くのですら、大事件だったんですからー。
私は(テレビとかで見まーす)という意味を込めた無言の笑顔で、手を振って返事とした。
いやー、陽キャには陽光が似合いますなあ。
(良い事したなあ)と思いながら、マイルズにも貴方の送ってくれた印石で「女子高生が2人救われた」と教えてあげようと、スワローさんが呼べそうな砂浜に向かうのだった。
◆◇◆◇◆
「という訳で、マイルズの送ってくれた印石のお陰で2人の女の子が笑顔になったんだよ。2人とも『有難う!』って言ってた」
「それは良かったな。配達員にでも礼を言っておけ」
「相変わらずぶっきら棒だなあ・・・」
あ、でも私は気づいてしまった。マイルズの耳が赤い。
なんだこの人、結構かわいいじゃん。
私はふと、マイルズが食べていた貝の身のような物が気になって尋ねる。
ちなみに私達は軽食屋オクトバスのテーブルで、向かい合って座っている。
そうだ、私ってマイルズにもう一個お礼を言わないと駄目なんだよね。
私の乗ってるスワローテイルって、マイルズが2章に導いてくれたから貰えたわけで。
「マイルズ、もう一個お礼いい?」
「ん?」
マイルズが、コーラを口内に注ぎながら私を観て首を傾げる。アメリカ人なマイルズが飲んでると、コークって呼びたくなる。
「私のスワローテイルってさ、マイルズがくれたような物だから。アレがなかったら、今の私はないなって」
「どういう意味だ?」
「ほら、あのスワローテイルって、マイルズが2章に導いてくれたときの運営のプレゼントだからさ、本当にありがとう」
マイルズが顔を背けた。
「どうせ、13世代機だろう」
「私には、ピーキーな旧型機の方が向いてるんだ」
「それは良かったな」
「うん。ありがとね」
なんか気恥ずかしい。――さっさと話変えようか。
「マイルズ、何食べてるの?」
こっちに向き直るともう落ち着いた表情になったマイルズが、フォークで貝の身のような物を刺す。
そして、私は尋ねたことを後悔することになった。
「エイリアン・エスカルゴだ」
「――――――――――」
「同じものを奢るか?」
「・・・何の試練」
「試練? 高級料理らしいぞ」
私は、ウィンドウ開くとお店のタブをタッチして、メニュー表を開いて値段を確認してみる。
日本円レートで約1万円。
(わあ、プレシャス)
「まあ、何でも良いから頼め」
マイルズが素っ気なく言った。
「まさか奢るつもりなの?」
「レディだからな」
―――レディレディレディ。
私は後ろを振り返る。
「なにをまた奇行を行っている。お前に決まっているだろうが」
「私をレディと呼ぶとか、シダ類を花と呼ぶ様な愚行だよ」
「お前は自分を何だと思っているんだ」
「女の子の才能がない、『
「そうか、俺は自分がたとえ花だったとしても。きれいな花を咲かせることより、より高く伸びる事を誇る」
たとえ私に花がなくても、自分を活かせって事かな・・・?
「マイルズってモテる?」
「チビで運動ができない、ゲームだけが取り柄のナードだからな。モテるわけがない」
「ふうん。マイルズの周り、見る目無いね」
言って私はメニューを眺める。
■エイリアン・クラーケンのカルパッチョ
■エイリアン・エスカルゴのマリネ
■エイリアン・タートルのリゾット
ねえ、とりあえずエイリアンって付いてないものが食べたい・・・。
■合成肉と合成乳のミラノ風ドリア
ミラノすげぇ。こんな遥か未来の遥かな星でメニューになってる。
――いやこれはサ◯ゼが凄いのか?
これと、爽やかそうな炭酸を頼もう。
私は注文を押す。
「一番見る目がないのは、お前だがな。〔自分にちゃんと目を向けてやれ〕」
「え?」
マイルズが ボソリ と言った最後の部分が聞き取れなかった。
「なんでもない。配信はするのか?」
「しても良いの?」
「どちらでも構わん」
「じゃあ、しようかな」
私はハイレーン式ミラノ風ドリアを運んできたロボに撮影と配信の許可を貰い、ドリアの写真を「バエー」と言いながらSNSにアップして配信開始するという旨を投稿。
拡散してくれる人が一杯いて
イルさんのカメラを起動して配信にのせると、マイルズが画面に映って視聴者がザワついた。
❝男がいる!❞
❝誰よその男!❞
❝なに、百合にはさまる男!?❞
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