第79話 私の息子が産まれます

【祝】1年ぶりの新層【31層開放】



最先端アースノイド:開放された31層で冒険中です。海洋惑星で泳いでます。


最先端アースノイド:俺は連合の32層の開放を手伝ってる。


最先端アースノイド:ワシは、行方不明になってる自由惑星の探査中


最先端アースノイド:僕はストラトス協会で、データノイドさんからの「懐かしの品を取ってきて欲しい」というクエストを受けました。


最先端アースノイド:下一桁が1、2、3の上層の攻略は俺等ヌーブでも参加できるから嬉しい


最先端アースノイド:ボス戦参加したの1000人くらいなのに、31層にもう10000人くらい集まってて草。


最先端アースノイド:よし、32層が開放されたぞ


最先端アースノイド:爆速で笑う


最先端アースノイド:1年半も30層が攻略出来なかったからなあ、みんな強くなっててオーバキルだよ。連合も準備してたし。


最先端アースノイド:てか、あのスワローテイルなんだったの? ありえんくらいとんでもない飛び方してたんだけど。戦闘機の事はよくわからんけど、マイルズ・ユーモアの飛び方超えてたくね? 真っ暗な宇宙で、しかもあの弾幕の中でライト消すとか「頭イカれとんのか」って思ったら、弾幕躱しまくるし。


最先端アースノイド:あれは多分、相当イカれたヤツだと思う。


最先端アースノイド:スウ知らん奴、まだいたんか。


最先端アースノイド:あーーー!! あれがスウ!? あんな頭イカれた奴だったのか・・・・マジで狂陰の名をほしいままにしてんじゃん。


最先端アースノイド:ずっと横転したり、前転したりしながらドリフトして弾躱してたし。


最先端アースノイド:俺なら横転ドリフトとか、前転ドリフトとか、絶対自分の姿勢分かんなくなる。


最先端アースノイド:スワローテイルがケツ振りすぎ問題。


最先端アースノイド:頭も振りまくってたな。


最先端アースノイド:つか宇宙で速度要らねえ。俺、初期選択でオススメにあったハンマーヘッドっていう高速タイプの機体選んじゃって、コントロール出来ねぇから馬鹿みたいに加速するの勘弁してくれ! ってなってるんだけど。早く買い替えたい


最先端アースノイド:確かにハンマーヘッドはオススメの中では一番速いけど、あの程度でコントロール不能なんて言ったら、スワローテイルなんかぜってぇ乗れねぇだろうな。


最先端アースノイド:スワローテイルっての加速って、そんなにエグいの?


最先端アースノイド:ハンマーヘッドの加速力が6とすれば、スワローテイルは10


最先端アースノイド:・・・まじか・・・まじか


最先端アースノイド:スウは、そのスワローテイルの加速性能を活かしきってくる。


最先端アースノイド:おーいここはスウを語る掲示板じゃないぞー。


最先端アースノイド:いや、31層解放されたのほぼスウのお陰じゃん。


最先端アースノイド:そうなの? 俺ボス戦いってないから、どんな感じだったのか知らないスマン。どんな戦いだったの?


最先端アースノイド:ボスの攻撃が回避不能で、しかも当たったら一発で撃墜されるのを繰り出してきた。マイルズがタゲ取って、ギリ抑えてたけど、流石に撃墜された。


最先端アースノイド:フェイレジェ1位が撃墜されるとか。回避できない攻撃とかどうするんだよ、スウでも無理だろ?


最先端アースノイド:だからスウはライト消してボスと戦い始めたんだよ。で、タゲ取り続けた。


最先端アースノイド:しかも、ライトだけじゃなくて熱も消すためにエンジンを何回も止めてたらしいぞ、スウのファンの有識者があの戦いのアーカイブで気づいてコメント欄で「こんな危ないことしてたのかよ」って、発狂してた。


最先端アースノイド:ロケット出さないで避けてたよな、何あれ。


最先端アースノイド:しらん。俺が聴きたい。


最先端アースノイド:ライト消すって、暗視もってたんじゃね?


最先端アースノイド:いや、スウはあの時スキル使えなかったらしい。


最先端アースノイド:今度配信に行って、どうやったか聴いてみよう


最先端アースノイド:それは助かる。




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




 30層ボスを撃破した3日後、私はアリスのワンルームに初めて招待されました。

 ちなみにアリスのショーグンは、ただいま地球の軌道上。

 しかし、アリスのワンルームの壁紙が可愛い。


 私のワンルームみたいな殺風景な壁紙と違って、いちごのショートケーキみたいな配色の壁紙。

 女の子の部屋だぁ。。。。

 ただ床は畳で、足元だけ渋い。


「錬金釜が使えるようになったんですよ!」

「ほんと!?」


 アリスの大釜は、錬金釜として使うには素材が足りなくて使えなかったんだけど。


「はい! ヘルメスでゲットした〈星織の琴〉と〈大釜〉を元クラメンから借りた〈錬金釜〉で合成することで、〈錬金釜〉が出来ました!」

「え。・・・それ・・・・〈錬金釜〉を作るには〈錬金釜〉が必要なんだよね? ――最初に〈錬金釜〉を手に入れた人は、どうやって〈錬金釜〉を手に入れたの?」

「わ、分かりません。――まあ難しいことはともかく、錬金釜を使う配信をしませんか!?」

「いいね! しようしよう!」


 という訳で配信開始。

 そこからアリスは、錬金釜に様々なMoBのアイテム(素材)を放り込んでいった。

 ちなみに錬金釜の見た目は、蒸留釜に金管楽器をかぶせて、スチームパンク風にしたみたいな感じ。


 錬金が始まると、金管から プヒョーーー っと、甲高い汽笛のような音が聞こえてくる。


「ぬぐぐ――失灰しっぱいが積み重なっていきます」


 アリスがバケツにこんもりと盛られた灰を見ながら、悔しそうに呻いた。


 失灰というのは、錬金素材の組み合わせが何も生み出さない時に生まれる灰らしい。つまりハズレ。


 私はスマホの画面に映るフェイレジェのWIKIを見ながら、言う。


「ネットを調べても、合成に関してはほとんど情報がないね」

「錬金は最近発見された上に、釜を持ってる人が少ないんですよね――わたしの素材は、次がラストです!」


 言いながらアリスは、彼女が持っている中で一番のレア素材だという〈黄金クジラの|大ヒレ〉と、〈黒シーサーペントの大ヒレ〉という物を錬金釜に投入して蓋をしめた。

 すると錬金釜の蓋の下から、虹色の光が漏れ始める。――初めての現象だ。今までは黒い煙が ぶすぶす と出るだけだった。


「あ、今までと反応が違いますよ!」

「何かできるのかな!?」


 アリスと私は、期待の眼差しで光を見詰める。

 やがて光が黄色に収束して「チーン」というレンジの様な音がなった。


「ちょっとワクワクします」

「ね!」


 アリスが錬金釜に手をいれる。なんか波紋が出てるから、もしかして錬金釜の中は〈時空倉庫の鍵〉みたいな感じなんだろうか?


「ちょっと大きめですね。えっと」


 釜の中から出てきたのは、ブレストアーマー――本当に胸の部分だけ守るような物、しかもデザインは和風。

 ちょっと豪華な剣道の胴がブレストアーマーになってる感じ。色は白。


 私は首を傾げる。


「和風ブレストアーマー? こんなもの初めて見た」

「これは―――! わたし的には大当たりです!」


 アリスが早速、パイロットスーツの上から身に着ける。

 アリスのパイロットスーツが赤いので、紅白でめでたい。


❝胸がないのが残念❞

❝持つ者なスウが装備しない?❞


「スウさんの視聴者のコメントさん、ぶん殴りますよ?」


 え、アリスって自分の配信と私の配信のコメント同時に見てるの?


「というわけでわたしは、今ので素材を使いきってしまいました。次はスウさんがやってください」

「錬金釜を使っていいなら」

「当然ですよー」


 ワクワク。あんまり素材の種類はないんだけど、量はあるからなあ。 


 アリスの結果をみてると、どうもレア素材を入れたほうが良いっぽいから、いきなり奮発しよう。


「では、私の持つ一番のレア素材、ドミナントオーガーの大爪と、グランドハーピーの大翼を」

「いきなり攻めますねぇ」

「常に全力で生きてるからね!」

「だから学校が終わる頃には、いつも しなしな なんですね」

「まあね!」


❝アリスの結果を見てたからだろう❞


「コメント、バラさないで。2つの素材を投入して、蓋をしめます!」


 私が素材を入れて蓋を閉めると、蓋の下から虹色の光が漏れてきた。


「いきなり当たりですか!?」

「来た!」


 やがて白い光に収束していく。


 チーン


 何かが出来たみたいだ――すると、誰も蓋に触ってもないのに、蓋がカタカタと揺れだした。


「う、動いてますよ!?」

「何事・・・?」


 戦々恐々としていると、蓋の下から羽毛に覆われた小さな白い顔が出てきた。


「生き物ですか!?」

「ちょ・・・・えええ!?」


 白い顔についた真っ黒でまん丸な瞳と、私の目が合う。


「こ、これって鷹の赤ちゃんじゃない!?」

「鷹が生まれちゃったんですか!?」

「ピィィィ、ピィィィ」


 言葉は分からないけどまるで「ママ、ママ」とでも呼んでいるような、鷹の赤ちゃんの泣き声。


 錬金釜から出てこようと、翼をバタバタさせている。


「―――なにこれ、かわいい!」

「・・・凄い破壊力ですね」


 私は思わず鷹の赤ちゃんを抱き上げようとして、持ち上げ――え!?


 なんか胴体がけものい。


 羽根の下を支えて、掬うように持ち上げると、猫みたいな胴体と、猫みたいな後ろ足がぷらーん。

 いや――これ足の太さとか、尻尾の形とかからすると猫じゃなくて、ライオンじゃね?


 私は3秒ほど思考停止に陥り、再起動。


「鷹の上半身に、ライオンの下半身――」


 確かこんな生き物が、ギリシャ神話にいた。

 そうだ、


「――これ、グリフォンじゃない!?」


 するとVRとイルさんに反応があった。


 司書姿のイルさんが現れて、メガネを掛けて本を開く。


『グリプスの幼生。マイマスター、微かにMoBの反応あり』

「MoB!? これMoBなの!?」


 叫ぶ私に、グリプスが頬ずりしてくる。

 まるで「ママ~」とでも言っているみたいだ。


「あー、MoBでもなんでも、この子は私が護ります」


 あとギリシャ表記のγρύψ(グリプス)なのね? ――ギリシャ神話の生き物だもんね。


 グリプスかあ――名前は男の子なら『ジェリド』、女の子なら『カミーユ』かしら。


「ピピピ」


 きゃ、きゃわわっ。とりあえず綺麗にしてあげなきゃ。生まれたばかりでちょっと濡れてる。


 産湯うぶゆを用意しよう。


 一旦グリプスをクッションの上に置いて、私が立ち上がって蛇口に向かおうとすると、グリプスが子猫サイズの小さい体でよちよち着いてくる。


「ピーピー」


 その姿が一生懸命で、思わずキュン死しかける。


 追いかけてくるグリプスがとうとう転んでしまう。――するとアリスが、グリプスを掬いあげる。


「この子、完全にスウさんをお母さんだと思ってますね。――グリプスちゃん、スウママはお湯を用意するみたいですから、わたしと待ってましょうね」


 ところがグリプスは、アリスに抱かれると大暴れ。


「ピィィピィィ!」


 「ママーいかないでー!」と聴こえた。


「駄目みたいです・・・わたしには全く懐かないですね。ちょっと悲しいです」

「そ、そのうち懐くよ! 私をお母さんだと思ってるのは、たぶん刷り込みって奴だろうし」


 自分で言って、初めに目が合ったから好かれているだけだと思って、ちょっと傷ついた。


 アリスがグリプスを私の方へ連れてくると、ちょっとだけグリプスの暴れ方が落ち着いた。


 私はぬるいお湯を洗面器に用意して、赤ちゃんを入れて軽く洗ってあげる。


 暴れないで落ち着いている。えらいなあ。

 というか、むしろ気持ちよさそうにしている。


「名前は、なににするんですか?」

「女の子なら『カミーユ』かな」


❝おい、そんな名前を付けたら誰かが助走つけて殴りかかってくるぞ。色んな意味で❞


「そ、それは怖いから他の名前にしようかな」

「このグリプスの赤ちゃん、男の子みたいですし」

「男の子かあ、なににしよう」


❝『なんだ男か』❞

❝『カミーユが男の名前で何が悪い!』❞

❝だから、誰かが助走つけて殴りかかってくるぞ。色んな意味で❞


「グリプス――グリフォン――じゃあ、グリ」

「だからスウさんの名付けは、なんでそういつも単純なんですか」

「えっ、だって・・・・」

「私が決めましょうか。スウ――スウ――」

「そこ起点!?」

「じゃあ、どうするんですか」

「高貴なグリフォンって白いんだっけ。この子白いし――」


 そこで私は、アリスの方を見て言う。


「――確か、不思議の国のアリスにもグリフォンって出てくんだよね」

「でてくるんですか? 不思議の国のアリスの映画なら見たんですけど・・・・いた記憶がないです」

「ふしぎの国のアリスのグリフォンは、マイナーキャラではあるからね・・・・。で、この子白いし、不思議の国のアリスに出てくるグリフォン曰く、海ではホワイティングっていう魚が靴磨き――」

「ホワイティングは止めましょう」

「え、なんで」

「いいから止めましょう」


❝スウたん、イギリスでホワイティングと言えば、よく魚フライにされるタラの一種なんだ❞


「あー」


 フィッシュ&チップス美味しいけどなあ。――あ、食べたくなってきた。

 それはともかくグリプスの赤ちゃんがお湯を怖がらない内にさっと洗い終えて、あとは優しく撫でるようにタオルで乾かしてあげた。


 膝の上に乗せてタオルで拭き終えると、グリプスの赤ちゃんは体を振って、まだ羽が生え揃わない翼をバタバタさせる。

 そうして、私の太ももの上をふみふみしてから体を丸めると、小さくあくびを「かふ」っとして、すやすやと眠ってしまった。


 完全に、安心しきっている。


 あああ尊い。いい名前を付けてあげないと。


「じゃあ不思議の国のアリスのグリフォンは、歌とダンスが好きっぽいから――」


 私はスマホで色々調べてみる。結構な時間を掛けて調べて、これだというのがあった。


「――なるほど、リズムの語源が、ギリシャ語でレオーっていうらしいから、レオってのはどう?」

「鷹と獅子のキメラな子にレオは、まんまでしょう・・・なんでスウさんはそう、まんまな名前ばかり」

「ダメ出し!?」

「歌と踊りなら、リズムにしましょうリズムに。呼ぶと嬉しい気持ちになります」

「なるほど、それはいい名前かも。子供の名前をどんな気持ちで呼ぶか。うん盲点だった――でも、ややこしいからリイムにしない?」

「なるほどです、それがいいですね。――スウさん、お母さんを始めましたね」

「頑張る」


 私が握りこぶしを「きゅ」っとしていると、黒電話の受話器を持ったイルさんが現れ言う。


『マイマスター、銀河連合より緊急入電』

「ちっ、・・・もう嗅ぎつけたのか」


 私の視界に、ウィンドウが開く。

 若そうな士官の顔が映った。


『あー繋がりましたか? こちら銀河連合軍・リアトリス旗下第6任務部隊。プレイヤーIDスウに告げます。グリプスというMoBをこちらに引き渡していただきたい』

「嫌です」

『そちらに回収班が向かっています。貴殿の協力のもと、穏便かつ円滑に回収が完了することを信じています』

「無理です」


 通信が切られた。


 今の士官、表情がかなり高圧的で、言葉の端々に慇懃無礼さを感じた。

 珍しいな――こういう感じのNPCさん。


 あとリアトリス旗下かあ、初耳。確かシンクレア中将やユタ中将、アイビー准将はクナウティア旗下だったっけ。


 アリスが慌てた声を出した。


「任務部隊!? 結構な数のふねで構成されるやつですよね!? ――なんでグリフォン一匹でこんな大事になってるんですか!? ――こ・・・・これは!? ・・・どうしましょう! スウさん!!」


 私は見詰める――膝の上で安心しきった表情で眠る、リイムを。

 次にリイムが目覚めた時、母親だと思った者が側にいなかったらどれだけ心細いだろう。どれだけ淋しいだろう。


 私はリイムが「ピィピィ」と叫び「ママ、ママどこ!?」と私を呼ぶ姿を脳裏に浮かべて、胸が痛くなる。


 私は子守唄を、小さく口ずさむ。


〔〽Rockロック a byeバイ babyベイビー, onオン the treeツリー topトップ,(赤ちゃんゆらゆら 木の上で)

Whenウェン the windウィンド blowsブロウズ, the cradleクレイドル willウィル rockロック.(風にゆうらん ゆりかご ゆめみて)

Whenウェン the boughバウ breaksブレイクス, the cradleクレイドル willウィル fallフォール.(こぬれ折れたら よるべなく)

Andアンド downダウン willウィル comeカム babyベイビー, cradleクレイドル andアンド allオール.(折れたらおちるよ あいのかご なにもかも)〕


 アリスが、私の顔を見詰めた。


「ロック・ア・バイ・ベイビィ?」


 この歌はイギリスの子守唄だから、アリスも多分知っていたんだと思う。


〔私は折れないよ、リイム。安心して〕


 母は強しだ。

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